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[1659] 棘鯛の系譜@>オキナワキチヌ 
2002/7/25 (木) 13:25:42 小西英人
◆画像拡大
写真■オキナワキチヌ
1999年2月20日、香港で釣る。

 『釣魚図鑑』から『棘鯛の系譜』を転載しますね。

 今回は「オーストラリアキチヌ」あらため「オキナワキチヌ」です。

 ぼく、『釣魚図鑑』の色校正をかかえて、2000年の魚類学会に行くと、そこで琉球大学の粂さんに声をかけられたのです。彼らは、オーストラリアキチヌの研究をしていたのです。

 もう、その最新情報を入れて書き直せなかったので、その情報は、先に『快投乱麻』から抜いておきます。

■快投乱麻
http://www.nifty.ne.jp/forum/ffish/hideto/ranma/37/37.htm

■この「棘鯛の系譜」でオーストラリアに棲むオーストラリアキチヌと、沖縄に棲むオーストラリアキチヌ、そしてミナミクロダイの関係は「いまのところ研究者でさえ、しっかりしたことは、なにもいえないという困りもの…」だと書いた。琉球大学理学部海洋自然科学科大学院生の粂正幸さん、吉野哲夫助教授、東京大学海洋研究所の西田睦教授によってオーストラリア産と沖縄産のオーストラリアキチヌとミナミクロダイとナンヨウチヌの遺伝子分析がされ、すべて同じ程度の遺伝的分化が確認された。つまりオーストラリアのオーストラリアキチヌと沖縄のオーストラリアキチヌはやはり別種であり、ミナミクロダイとも別種であると遺伝子からも確認された。(2000年度日本魚類学会年会講演要旨)

■この日本魚類学会年会は神奈川県立生命の星・地球博物館で十月六日〜九日まで行われた。そのポスターセッションという展示発表会場を歩いていたら声をかけられた。クロダイ属の話をするときに、眼を輝かせ、くりくりくりくり動かす好青年、琉球大学の粂さんだった。彼からオーストラリアキチヌとミナミクロダイの識別点をご教示いただいた。ただし、彼の研究は発表されていないので、まだ書けない。とにかく『釣魚図鑑』に書いたことは古くなりそうなのだ。また一九九七年に赤崎正人博士はオーストラリアキチヌを「おきなわきちぬ」という和名に変えようと提唱されたけどその提唱の方法が乱暴だから、しばらく使わないと書いた。しかし十二月二十日に出版されるであろう『日本産魚類検索・第二版』では、この赤崎博士の提唱を受けオキナワキチヌを採用したようだ。世紀末になってクロダイ属研究が動き始めた。
       ■
■今世紀は地球破壊の世紀になってしまった。新世紀は地球との共存の世紀にしなければ。生物としてのヒトを見直さなければならない。『釣魚図鑑』は、はや古くなりそうだけど世紀末に元気な分類学はうれしい。

 ということです。いまはオキナワキチヌという標準和名の魚だと思って読んでくださいね。


                          英人


■『釣魚図鑑』(小西英人・2000年)より転載
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魚あれこれ■棘鯛の系譜@

白い。強い。大きい。ちんしらーを実感してみたい
オーストラリアキチヌ■


■いちばん謎の多い黒鯛


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■ある日、ある時。仲間と世界の「くろだい」の話になった。いったい地中海に黒鯛はいるのか、いないのかという話である。イタリアに旅行した「ちぬ師」は、まんま黒鯛が市場で売られていたと驚いてしまったのだ。
■地中海にすむタイ科魚類の種数は日本よりもかなり多い。赤い「たい」もいるし、黒い「たい」もいる。しかし黒い鯛も体に横帯や斑紋があり、特に尾柄部に大黒斑を持つものが多くてこれは、どちらかといえば「くろだい」でなく「へだい」に近いグループなのである…。
■ぐだぐだぐずぐず説明していたら、件のちぬ師、なにやら、ぶつぶつぼそぼそ、つぶやいている。
■「それでも黒鯛はいる…」
■あかん。ガリレオを迫害した頑固爺みたいやんか、よし、きちんと調べてやろうと思いたったのである。
            ■
■まず「くろだい」を定義しよう。ちぬ師には、さまざまな思いこみがあるから、それぞれの「くろだい」があり、楽しくていいのだが、世界の「くろだい」の話をするのなら、その範囲を決めておかなくっちゃね。
■ここは簡単にいく。タイ科クロダイ属に含まれる魚を「くろだい」と呼ぶ。それではクロダイ属とは、どういう魚類のことだろうか、『魚類の形態と検索』(松原喜代松、1955)からクロダイ属の特徴を引用してみる。
■@背鰭棘は強く、1側から見ると幅の広い棘と狭い棘が左右交互に並ぶ。
■A臀鰭第二棘は大いに肥大し、甚だ強い。
■B背鰭軟条部及び臀鰭は基底部に密に鱗を被る。
■C各顎には前部の4〜6本の門歯状の歯に続いて、3〜5列の円い臼歯状の歯があって、各々は大きさほとんど又は全く相等しい。
■以下Hまであげているが専門的になるので省略。
■なるほど。研究者というのはしっかりと見ているもんだ。この背鰭棘が強く、幅の広いのと幅の狭いのが並んでいるのがクロダイの特徴だと知っていただろうか。
            ■
■Acanthopagrus というのがクロダイ属の学名だ。acantho とはギリシャ語の akantha からきていて「棘」の意味。pagrusとはギリシャ語の pagros からきていて「鯛」の意味。クロダイ属の学名は「棘鯛」という意味なのだ。クロダイ属の特徴を、よく表している、いい学名だと思う。1855年だから、ペリー来航の2年後、安政2年にピータースが命名していたが無視されていて、1984年の『日本産魚類大図鑑』(益田一・ほか編)の赤崎正人博士の記載から有効とされた。赤崎博士は1962年には『タイ型魚類の研究』で、ピータースの Acanthopagrus を使おうと提唱していたのだが、日本語論文なので無視されていた。そんなこんなで、ちょっと古い魚類図鑑では、Acanthopagrus を使っていないものが多い。
            ■
■世界のクロダイを見てみようといっても、赤崎博士以降、クロダイ属はあまり総合的に研究されてはおらず、最新のいい文献が見あたらない。仕方がないので世界中の魚類図鑑を片っ端からひっくり返し、ぼくが探せた範囲の世界のクロダイ属魚類を並べてみる。
■日本産クロダイ属は、クロダイ、キチヌ、ミナミクロダイ、オーストラリアキチヌ、ナンヨウチヌの5種。
■あと、オーストラリアには、Black bream(ブラックブリーム)とNorthwest black bream(ノースウエスト・ブラックブリーム)というのがいて、ペルシャ湾からアフリカ大陸東岸にTwobar seabream (ツーバーシーブリーム)がいて3種。
■なんとクロダイ属は世界で8種しかいない。そして魚類学用語でいうインド・西太平洋域にしかいない。その8種のうち、5種が釣れてしまう日本はクロダイのパラダイスなのである。地中海にクロダイ属魚類はいない。ただし、タイ科魚類の分類が難しいのは、普通の魚の形をしていて、特徴にとぼしいことであり、平べったい黒っぽい魚なら、ぱっとみて、「まんま黒鯛」に見えることはある。ヨーロッパを旅行する「ちぬ師」諸兄、こんどからは、背鰭棘と、顎の臼歯を見てくれたまえ。
■ただしスエズ運河なるものがあるので、分布が広く紅海にもいるナンヨウチヌなどが地中海に入っていても、ぼくは知らない。またツーバーシーブリームも紅海にいるので、地中海に入るかもしれない。ただし、この魚、英名のように眼とその後ろに世にも派手な黒色横帯が2本走り、尾鰭、背鰭軟条部、胸鰭、眼前部に、世にも派手な黄色がはいる。いぶし銀に慣れた「ちぬ師」には、百歩譲ってもクロダイに見えない。臀鰭軟条数などを見ても、ヘダイにも近い中間的な存在である。
■英名 common name は、その地域で中心になると思われる魚類図鑑のトップに載っている名前を使った。外国は日本のように「標準和名」という考え方はなく、英名はたくさんある。実際に調べたのは学名だ。この8種以外にも学名はあったが、同物異名という同じ物に違う名前をつけたと考えられるものと、混乱していてはっきりしないものは、とりあえず外した。ただしクロダイ属の整理は、まだまだついておらず、これからの研究に期待したい。なお「たい」のことを英語では Sea bream または Porgyという。Porgy は、属の学名と同じギリシャ語の「鯛」Pagrosからきている言葉だ。
            ■
■ははは。脱線しまくっているな。いよいよ本題、オーストラリアキチヌを考えてみよう。
■オーストラリアキチヌ。Acanthopagrus australis というのが日本にもいるといいだしたのは赤崎博士。『日本産魚類大図鑑』(益田一・ほか編、1984)で、沖縄のミナミクロダイの中に、腹鰭と臀鰭が黄色く、臀鰭第2棘が長いのがおり、それはオーストラリアにすんでいるAcanthopagrus australis と同種だとし「オーストラリアキチヌ」の標準和名を提唱した。
■『日本産魚類検索』(中坊徹次編、1993)で林公義さんは、赤崎博士が Acanthopagrus australisとした沖縄島産の標本と、オーストラリア産の Acanthopagrus australis と同定できる標本を比較すると、外部形態、斑紋などに差異があり、再検討が必要であると注記をいれた。「ちゃうんちゃうのん」というわけだ。
            ■
■沖縄のミナミクロダイは、たしかにふたつに分けられる。釣り人も分けて、ひとつを「ちんしらー」と呼ぶ。「白いちぬ」だ。ただし、その差は非常に微妙である。「ちんしらー」とは種内変異なのかもしれないし老成魚がそう見えるだけなのかもしれない。
■ぼくは、沖縄産のオーストラリアキチヌの実物を見たことがなく、長年疑問だったのだが、1999年に思いがけなく中国の香港でオーストラリアキチヌと思われるクロダイを釣り、しげしげ見ることができた。
■ミナミクロダイにくらべて、オーストラリアキチヌはここが違うという、ぼくなりの外見から見た「キー」をあげておく。ともに背鰭棘条部中央下側線上方横列鱗数は4.5枚、日本産で4.5枚は、この両種だけだ。
■体色が白っぽい。(黒っぽいのもいる)
■臀鰭中央が黄色い。(黄色くないのもいる)
■腹鰭と臀鰭は淡色。(淡色でないのもいる)
■尾鰭後縁が黒い。(尾鰭全体が黒いのもいる)
■背鰭縁辺が黒い。(黒くないのもいる)
■こんな例外だらけの「キー」しか、いまのところはない。でも、これらを複合的に組み合わせるとオーストラリアキチヌは、ミナミクロダイから分離できる。
            ■
■さて、日本の「オーストラリアキチヌ」をまとめておこう。沖縄本島から台湾、香港に分布。オーストラリア東北岸の Acanthopagrus australis と同種だといわれていたが、東アジアの固有種のように思われる。日本産クロダイの中で、いちばん謎の多いクロダイである。
■感覚でいう。ぽかっと浮いたとき「白い」クロダイ。力が異様に「強い」クロダイ。そして「大きく」なるクロダイ。それが「オーストラリアキチヌ」なのだ。
■「棘鯛の系譜」の中に混乱したのがいる。よし。釣ってみよう。釣り人が魚を「知る」のには、とにかく「引っ張り合い」をすることだ。いざ行かん。沖縄へ。

初出誌●『ちぬ倶楽部』1999年8月号

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