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[196] 転載■交雑によって種は進化する!? 
2002/2/11 (月) 19:16:10 小西英人
 いま、まえに@Niftyのパレット【しおかぜ亭】にアップしてもらっていた図鑑を【WEBさかな図鑑】に移したものについて、データナンバーの順番に、ぼつぼつ記載を書いています。やっと20番までかな?

 それで、20番の渡辺和男さんの「ギンブナ」の記載で、ちょっと、ひっかかってしまいました。「ギンブナ」は、ややこしい問題をはらんでいるのです。

 記載で簡単には書きましたが、ややこしい話なので、1997年の魚類学会シンポジウムで議論されたもののレポートを転載しておきます。

 渡辺さんのギンブナはここです。

■ギンブナ
http://fishing-forum.org/cgi-bin/zukan/zkanmei.cgi?sel_no=3&seq=000020

 ややこしい話ですが、おもしろくもあり、淡水魚問題の難しさの本質をはらんでもいますので、どうぞ、お読みください。

                           英人

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■交雑によって種は進化する!?
■日本魚類学会年会で熱い議論


魚類の自然界における交雑は進化に関係ないとされてきた分類学上の常識
今年の日本魚類学会年会シンポでその常識にクエスチョンマークがついた

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 かつて「ながさきいしだい」とか「おしょろがれい」とかいう魚が報告された。イシダイとイシガキダイの自然交雑魚が前者、イシガレイとヌマガレイの自然交雑魚が後者であって、研究者が「種」とまちがえ名前をつけたのだけれど、もちろん交雑魚に名前はない。
 自然界で、交雑というのは、まれなケースで、もし交雑しても、それは子孫を残せなくなる一代限りのもの、「種全体」には何の関係もないというのが生物学の常識である。だから和名もつけないし、生物学上もっとも重要で国際動物命名規約という厳密な「国際法」にしばられる学名では、わざわざ、交雑したものには名前はつけないと明記されている。
 ところが、そういう「常識」が通用しなくなり、ひょっとして交雑によっても種は進化しているのかもしれない、教科書は全面的に書き直さなければいけないかもしれない、というようなホットな話が、今年の魚類学会のシンポジウムであった。
 1997年度の日本魚類学会年会が10月10日から14日まで、神奈川県の横須賀市自然博物館で開かれた。
 このうち研究発表は11日から三日間、分類を主にした第1会場と、生態を主にした第2会場にわかれて、15分づつ、次々に発表されていった。
 年会の分類会場の方の全体の流れとしては、DNAをつかった類縁関係の推定などの研究がやはり多かったが、去年の年会のように、DNA万能主義という感じは消えかけていて、DNAを慎重に扱っていたり、また単純にDNAだけの発表には、批判がでていた。
 分類にとってDNA解析は、うまく使えば切り札にはなるが分析のためのひとつの道具にすぎず、やはり骨学などを中心にした形態学があって、それを生態学、行動学、集団遺伝学(これがDNAの解析を扱う)などの、さまざまな側面から検証して、魚類の進化史を解き明かしていかなくてはいけないという感じが強くなっていた。
 進化学でいう相同なのか、相似なのか、つまり、姉妹なのか他人のそら似なのか、こういうのはなかなか数値化できるものではなく、研究者のセンスと勘が重要で、ややこしそうなDNAでも人の勘が重要なのだ。
 そういうところで、釣り人や漁師の持っている情報や知見は最先端の研究者にとっても貴重であり、さまざまな協力関係を持っていきたいと思う。
 今年の年会のもうひとつの特徴としては、ニフティサーブの釣りフォーラムやダイビングフォーラムで活躍しているメンバーを中心に、釣り人や、ダイバーといったアマチュアの参加が見られるようになってきたことで、魚類学会に厚みがでていくだろうと楽しみにしている。
 年会の最終日はふたつのシンポジウムが開かれた。ひとつが「ヨシノボリ類を中心とした両側回遊性淡水魚の生態と進化」もうひとつが冒頭に書いた「交雑による魚類の進化」だ。
 近年のDNA解析技術の精度のアップで、魚類の遺伝学的情報が増えているのだが、そのなかで、特に淡水魚は、交雑で遺伝的多様性を増幅し、あるいは直接交雑で種分化してきた可能性がでてきているのだ。
 シンポジウムの中からギンブナだけを例に簡単に書こう。
 雌性発生(雌だけの単性生殖で発生すること)の起源は種間交雑である。交雑した卵が非減数分裂をして精子を排除すると2倍体の雑種。これが精子を受け入れると3倍体になり、精子を排除すると3倍体雑種。これが精子を受け入れると4倍体になり、精子を排除すると4倍体雑種になる。雑種による自然倍数体の魚が存在するのだ。
 雌性発生で有名なギンブナとは、どうやらこのなかの3倍体種のことで、日本在来の2倍体(これが普通)種、キンブナ、オオキンブナなどと、あと大陸由来の2倍体種などとの雑種で起源しているらしということが分かってきた。こういう自然倍数体集団は、フナ類だけでなくドジョウ類にもみられる。
 植物では、自然倍数体が存在して、それぞれの形態が違い、それが分類の混乱をもたらしてきたが、ひょっとして、魚類でも、そうなのかもしれない。
 種というのは、考えられてきた以上に不安定で、形だけではなく遺伝子まで、どんどん変えるものなのかもしれない。
 そして、ギンブナのように雑種起源の3倍体種ということがはっきりしてくると、いまの学名はつけられなくなる。生物学上消えてしまう。いったい、どう処理したらよいのか。 また、雌性発生魚のような、いわゆるクローン集団は、種のように環境に対する適応度は高いのか、それとも低いのか。
 さまざまな議論が闘わされたが、もちろん結論はでない。
 コンビナーの方から、進化とは「種分化」なのでしょうか、ひょっとして「種融合」ということも起こっているのではないでしょうか、これからは「種分化」と呼ばず「種形成」とでも呼んで、ひろく「種」と進化の問題を考えていこうではありませんかという呼びかけがあってシンポジウムは終わった。
 現在、淡水魚以外での交雑による「種形成」は報告がない。しかし、有明海産スズキは、交雑起源かもしれないという研究が、すすんでいる。
 もし、「種」とは安定しているという「社会幻想」のうえで放流がどんどん進んできたのだったら、遺伝子の攪乱どころか新しい「種形成」を人為的にしてしまう可能性がでてきた。
 我々は、恐ろしいことをしていないか。心したい。 (英)
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週刊釣りサンデー■1997年11月9日号より転載

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