2005年7月23日

一回休みにしよう、寺原隼人

左足首靭帯断裂で全治3か月。寺原隼人、ほんとにツイてない。

4年前の夏、「もしかすると松坂より凄いかもしれない」と噂の投手が宮崎に現れた。すでに球速155キロをマークしている右の本格派だという。夏の甲子園宮崎県予選でこの寺原隼人を擁する日南学園は順当に勝ち進み、準決勝まで進んだ。しかも、この投手は高校入学まではうちのすぐ近所に住んでいたという。

対日向高校戦。ぼくはいてもたってもいられず、家を飛び出して宮崎県営球場(現在のサンマリンスタジアム)の三塁側スタンドで、彼の投球を見ていた。右投手を見るなら三塁側だ。

噂通り、速い。が、全部速いわけではない。余裕なのかなんなのか。「普通の」速度の速球も多投して、時々、ここぞというところで本気のタマが来る。ぼくが見ていたかぎりでは、3球か4球くらい。でも、その速球は、ほんとに速い。ボールから煙が出るんじゃないかというくらい、高校野球の次元では異常といえる速度。あの18.44メートルに光が走ったように見えた。あんなタマは生まれて初めて見た。

が、その異常に速いタマに、えいやで振り出したバットが、時々当たる。3回までに3点をとられた。それも不運な失点ではなく、相手チームは堂々と打ってとった3点だ。こんなに速いのに、なぜ点が入るのか不思議だったけれど、野球というのはそういうことも起こる。

ぼくがあっけにとられたのは、失点してもなお、寺原が「普通の」投球をやめようとしなかったことだった。すでに全国的な注目を集め、プロ野球どころかメジャーのスカウトまで観戦している中で、しかも3年の夏の予選の準決勝で、この試合に命をかけるとか、全てを注ぐとか、そういう雰囲気が感じられない。むしろ、暑いなあ、かったるいなあ、早く終わんないかなあと、そんな気配すら感じられた。あまりにも格や実力がちがいすぎて、そのように見えたのかもしれない。

試合は井手正太郎らの強力打線が8点をもぎとり、終わってみれば順当勝ち。だが、とにかくスタジアムの視線はすべて寺原が集めていた。そして日南学園は決勝も勝ち抜き、寺原隼人は甲子園でMAX158キロを記録する。ぼくが数球見た、あの煙の出るようなタマも、そのくらいのスピードだったのだろう。球速表示がなくて幸いだった。あれは観客の視線を野球ではなく数字の方に奪ってしまう。

高校3年の時点で158キロなら、当然プロに入れば160キロはいくだろう。コントロールも悪くなく、度胸もある。これは大成するにちがいないと誰もが思ったわけだが、ぼくは寺原の体質に少し不安を感じていた。ちょっと野菜を食べた方がいいよ。柔軟性も少しつけた方がいいよと、そんな話をオクサンとしていたことを思い出す。少し多血質で体が硬く、しなやかさに欠けるような気がしていた。最近はそういう印象はない。

プロ入りから今の時点までを振り返ると、球速が示す通り彼のピークは高校3年生だったというしかない。知るかぎり、プロ入り後は145キロの投手になってしまった。速ければ勝てるというものでもないだろうが、やはり超速球が期待される中で、思うように球速が伸びないことの焦りもあっただろう。

とりあえず今期は投げられないけれど、来シーズンまではたっぷり時間がある。人生の「一回休み」ということにして、リスタートを切ればいい。杉内だってそうだったじゃないか。あの煙の出るようなスピードボールも見たいけれど、とにかく彼が完投して勝つ試合を見てみたい。ホークス先発陣の中心として、堂々と完投する寺原隼人を。

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