2006年2月18日

丸山ギターについて

丸山太郎。1995年、早大卒業と同時に石井栄に師事、ギター製作を始める。その後、2年間のスペイン留学中に、ホセ・ルイス・ロマニノスに師事。機械をまったく使わない工程のすべてを、自分一人で受け持つ完全な手作りによる製作を山梨県の工房で行っている。

というプロフィールを、ついさっき知った。名前を聞いたのが2日前だ。そして、大萩康司氏が弾いてくれたそのギターのことが頭から離れない。

よく「鳴る」なんてことをいう。「激鳴り」などともいう。このギターはそういう意味では鳴らない。ほんとに信じられないくらい、『鳴り』の成分が少なくて、指が弦をはじいたその音の骨格の部分だけをすくいとるようにして、胴がハイファイアンプのように増幅し、ネックやサドル、ヘッドといった部分が音に色彩感を添えている(のだろう)。

したがって和音の分離がよく、たとえばバッハのような構成の楽曲は、作曲家が意図した曲のイメージをよく伝える。ハウザーがそういうギターだといわれるように、同じような傾向のギターと思ってまちがいはない。まちがいはないのだけれど、丸山ギターの特質はそんなことでは語れないと思っている。

まず、あんなに切ない『月光』を聴いたことがなかった。ギターを始めたばかりの人が誰でも必ず一度は弾く、ソルのロ短調練習曲。Bmを押さえることができれば、技術的には問題はないのだけれど、アルペジオの中に散りばめられたメロディラインをきちんと歌わせるのは、そんなに簡単ではない。特にギターが安物だと、けっこう腕がいる。

大萩康司のプライベートちょい弾きによるその曲は、「むむむ」というような『月光』だった。もちろん、彼自身のギター(800万…)も最高によかったけれど。

翌日、今度はフォレスト・ヒルの森岡氏が、河野=桜井、黒澤哲郎、丸山太郎を弾き比べてみせてくれた。簡単にいうと、河野は普通にいいギター。高音は新品のわりには伸びて艶もあり、低音は深く太い。ボリュームも十分で、仕上げも美しく、これが55万円なら文句のつけようはない。ただし、その鳴り方はにぎやかで派手目な感じはある。ゴージャスという人もいるだろう。

丸山太郎(75万。いちいち値段を書きたくないけど)は、高音は伸びず、ボリュームも負ける。低音も、特にヴィラ・ロボスのような「ギターらしい」あるいは「スペインっぽい」躍動感や色気のある曲には、むしろ不向きのように思われた。

黒澤哲郎(50万)は、両者のいいとこどりのような感じで、丸山ギターの表現力にスケール感や色気が加わる。ハカランダも重厚で、値段に比しても相当いい材料を使っていることが一目でわかる。前奏曲第一番の冒頭部の5弦など、第一音から心にしみる。セゴビアを聴いて育ったぼくには、これ以上はない楽器のように思われた。

にも関わらず頭の中を占めているのは、丸山太郎なのだ。これは、いったいどういうことなのだろう。がんばってバッハを弾こうとは思わない。これからクラシックをやるのだから、めざす曲は「アルハンブラ」「前奏曲第一番」「アストリアス」「魔笛」なんてところだ。こういうドラマティックな曲をやるなら、黒澤哲郎の方がよさそうに思うのだが、なかなか頭の中に黒澤の音が再現されてこないわけだ。

前に、マーチンOOO-28ECを買った時に書いたけれど、ギターというのは鳴りではない。もっというと「音」ですらないのかもしれない。少なくとも、高音、中音、低音と分けて考えられるような音ではない。やはり音楽性であり表現力なのだ。丸山ギターは、その意味で図抜けているように思えた。ぼくの胸には、そう届いてきたといった方が誤解がないか。黒澤も河野も誠実に作られた、ぼくの手にはあまるほどのいい楽器だから。

さて。さて。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://fishing-forum.org/mt4/mt-tb.cgi/1057

コメント

ひろすけさん>

この丸山ギター、よく見ると側板がでこぼこしているのです。
側板加工までプレスを使わずに手曲げしているのですね。
それに加えてセラックですので、何か19世紀頃の古楽器をみているようでした。

悶々と思い悩む楽しい日々?でしょうか?(^_^;
いっそのこと丸山工房へ取材に行ってしまいましょう~!
「月光」あらためて聴くと良い曲ですね。昔練習した記憶があるので、どっかにTAB譜とCDがあるはずですので探して見る気になりました。
そうそう、我がGC-10S、ロングスケールの強みで「狐の嫁入り」のような変則チューニングでも、音がさほどダヨダヨせずに鳴ることを発見しました(^^)
邪道かもしれませんが、クラギの音でも独特の雰囲気が出て面白かったです。

月光違いでしたm(__)m

いい曲ですね。ボクも2枚ほど、クラシックギターのCDを持っています。何と言うか、クラシックギター曲を聴いていると、独特の郷愁感に「襲われる」んです。

どうしてなのかなあ・・・

と~るさん>

そうそう。と~るさんはピアニストでしたね。
この『月光』はベートーベンの方ではなくて、ソルのギター練習曲なんです。
http://jun.fishing-forum.org/data/gekkou.mp3

入門曲なのですが、いい曲です。

月光、ベートーベンの月光でしょうか?

小学校2年から高校2年までピアノ習ってまして、一時はその道も、と、頑張っていたときもあったのですけどね・・・

このところピアノは殆ど触れず、先日、久しぶりに釣魚迷さんの八ヶ岳ペンションにお邪魔したときに、今でも唯一弾ける月光一楽章をやってみたら、やっぱ忘れてまして(^^;)

年末年始、実家に戻ったときに久しぶりに楽譜開いて練習して、何とか再び弾けるようになりました。

月光のガットギターバージョン、聴いて見たいですね。

ps:メールの件、ありがとうございましたm(__)m

コメントする