2009年10月20日

リアスピーカーその後

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先日製作したFE108EΣのリアスピーカーR-101(ひょせんさん設計)は、マットブラックの塗装を施され、端子は半田づけし、ネジもちゃんと8本締め込んで、一応これで完成となった。

箱は完成しても音は完成に遠いわけで、反っているのを無理から真っ直ぐにされてすねているはずの板のストレスが緩和されるまで、まあ最短で3か月、普通は6か月はかかることと思う。バックロードホーンの場合、特にそうなのだが、板のストレスがそのまま音に現れてきて、妙な付帯音が耳につくものなのだ。これが、時間とともに減少していくのだから不思議なことではある。

ユニットのエージングは、XLOのバーン・イン・トーン(20hz~20khzのスイープ)を数十時間もかけてやれば、急速に進むことだろう。

とりあえず音を聴いてみることにした。最近、ニアフィールドというかスピーカーを壁に押しつけず、部屋の真ん中に置く聴き方が、一時反射をキャンセルする観点からも、どうも正しいのではないかという気がしており、どんと前に出してみた。

まあ、これがなんとも、歌う歌う。歌いまくる。低音はたしかにまったく足りないのだけど、バックロードホーンとしてはホーンロードのかかりが少ないタイプで、動作としてはほぼ共鳴管といっていいのだろう。そのせいでユニットの背圧がほとんどゼロに近い。

ネットワークもなんにもないから、リミッターになる要素はほぼ皆無。だもので、ユニットを手に持って鳴らしているように、振動板が楽々と動いて音を出してくる。ボーカルなど聴くと、繊細微妙な抑揚をよく表現して、歌い手の心のこもり方まで伝わってくるような再生になる。ピアノもサックスも素晴らしい。ベースは苦しいけど、まあ仕方ない。

付帯音は少しはあるものの、やがて消えていく方向だろうし、消えなくたってかまわないというほどの魅力ある音。これでもう少し低音が出てくるのなら、立派にメインとして通用すると思う。まあ、背が1412mmもあるから、そのままではナニだけれど。

できない

男と生まれてしまったからには、子供の頃から男としてしつけられて育つものである。ある程度育ったら、今度は自分で自分をしつけなくてはならない。男だから...、というだけで一体どれほどの不条理や理不尽さをこらえてきたことであるのか、その総和の巨大さに目もくらんでくる思いがする。

つまり男というのは、日常的にやせ我慢の中に生きており、やせ我慢の中に死んでいくものだ。そのおかげで、とりあえず家族が生き、仲間が生き、結果として社会にナニゴトか資することができれば御の字であるという価値観がある。ない人もいるのかもしれないが、残念ながら私はそのようだ。

で、ロード・オブ・ザ・リングスにおけるモルドールのように、あるいは筒井康隆の熊の木本線のように、「その名を口にしてはいけない」とか「それを口にするだけで悪いことが起こる」というような、言葉としてのタブーもたくさん背負っている。

そのひとつが、「できない」という言葉だ。今、ここでこの言葉を書くだけで、どこか心がオノノクような気配があるのだから、ワタシの自己教育も相当なものである。思えば、社会に出てからこれを言った記憶がない。だから、たくさんのチャンスを与えられてもきたのだが、今となっては、そろそろ、そんなのもありではないかという気がしている。

気がしているだけではいけないので、お風呂に入っている時に、試しに叫んでみた。

「できないぜ」
「できんちゅうに」
「できんもんは、できん」
「できないぞ、このやろう」

毒をもって毒を制すというやつである。常にできそうもないことをできていかせるために、ナニゴトかと戦っている心が、これでむくむくと反発心を起こして、「できねーわけねーじゃねーか、ばかやろ」と吠えた。同時に、「できない」と口にしたことで、「できないくらいのことがなんだ」という覚悟まで生まれてきた。

人間の体が、ほぼ、その人が食べたもので出来ているように、人間の心は、その人の言葉で出来ているのだと思う。だから、毒のある言葉は怖いし、弱い言葉は人を弱くする。

一方で強がりばかりで、強い人間になれるほど、人間は強くもないし、弱い言葉ですぐに心が折れるほど人間は弱くもないのではないか。

ただし、ものすごく時間をかけて効いてくる毒もある。言葉の毒は、そんなのが多いように思う。

2009年10月19日

Oメソッドを検証してみた

パイプのマウスピースには、主にエボナイト製とプラスティック製があるわけだけれど、それぞれ一長一短。単純に喫い心地の良さからいうとエボナイトの圧勝だけれど、これは紫外線や水分によってすぐに変色するという欠点があって、使うたびにきれいに拭いて、ポーチなり箱なりに入れて保管しなくてはならない。

放っておくと、こんな具合になるわけである。
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手前はJan Zeman 作のロード・オブ・ザ・リングシリーズのGandorr というパイプで、とにかく煙草がおいしい。現在はうちのラタキアのエースとなっている。向う側は、あるぽさんオリジナルのALPO3 で、こちらも喫味が素晴らしく着香系の2番手くらいで活躍している。

ところがどちらもエボナイトのマウスピースであるため、ちょっと気を抜くとこの有様である。これを見て「ああ、エボナイトだから紫外線には弱いよね」とか「年季の入った渋いパイプですな」とか言ってくれる人は、広い世間といえども皆無であろう。普通は、「きちゃないパイプだなあ」である。自分だってそう思う。

ワタシにしても手をこまねいていたわけではない。ホームセンターに行ってバフがけのマシンを買い、なんとかいうワックスを買い、研磨にトライしてみたこともある。ただ、これはなかなかむずかしい技術がいるもので、うっかりマウスピースを焼いてしまいそうになった。焦げた匂いがあたりにたちこめ、有機材であるマウスピースはやばい色になっていた。これで断念。

サビネリのDeniCare(吸い口用)も試してみたのだが、強い溶剤の匂いがするし、あまり研磨の効率がよくない感じだったので、適当なところで断念。根気のある人は、これでもいけるのかもしれない。

有名パイプ店では研磨を引き受けてくれるところもあるので、そういうのを利用しようかと考えていたところ、Oメソッドなる言葉が飛び込んできた(参考サイト)。発信源はアメリカらしいのだが、オキシクリーンという酸素系漂白剤を使う。なかなか優秀らしいので、どんなものだか検証することにした。以下、手順を説明する。

1)適当な容器に60度のお湯500CCを入れ、オキシクリーン10gを溶かして、マウスピースを放り込む。
2)30分ほどで引き上げて水洗い後、乾燥させる。
3)「激落ちくん」などのメラニンフォームで研磨。
4)400~600番の耐水ペーパーで歯型などの大きな傷を研磨。
5)耐水ペーパー1000~2000番で全体を水研ぎ。
6)乾燥後、プラスティック用コンパウンドで仕上げ。

オキシクリーンはワイドハイターなどの酸素系漂白剤で代用できそうだったのだが、とりあえず本家の流儀に従った。マウスピースのダメージが、それほどシリアスなものでなければ、4)および5)は省略可能。今回は省略した。

下は、オキシクリーンの溶液に浸けているところ。薄いビールのような色になる程度で、思ったほど盛大に汚れが出てこないので、こんなものかという印象。
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ところがマウスピースを引き上げて乾燥させてみると、汚れというか不純物のようなものが表面に皮膜を形成している。これにはちょっと驚いた。この浮き出た部分を、メラニンフォームで研磨していく。
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メラニンフォームで磨いた後、コンパウンドで仕上げて出来上がり。写真以上に、良い出来になった。
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作業時間は、オキシクリーンから引き上げて約1時間(2本分)、使ったメラニンフォームは45mmx32mmx20mmの超小型のやつを6個。研磨はやればやるほどきれいになるのだが、例によって、まあまあ適当。

結論。Oメソッドは優秀。マウスピースへのダメージが少なそうなのもいいと思う。

2009年10月18日

TOPPING TP21のこと

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音が出た瞬間、「あれ?」という感じだった。自分の耳がおかしくなったかな、と。普段聴いている金田アンプと、音の出方がそんなにちがわないのだ。というか、よく似ている。

以前、SONY TA-F333ESRと金田アンプを聴き比べてみた時に、大人と子供とはいわないけれど、大人と中学生くらいの差を感じたものだけど、今回は、よく聴かないとわからない。

すぐに気づくのは低域の押し出しとか、全体のスケール感で、スーパースワンが一回り小さくなったような鳴り方をするのだけれど、それでも、BGMで聴いているかぎりそんなに気になるほどでもない。

まあ、音のふるまい方として、金田アンプは普段は当たり前の音を当たり前に出しながら、ここぞというところでは、スピーカーの振動板をわしづかみして、勝手な鳴り方は許さないかんな、私の言う通りに鳴らないと後が怖いかんな、というような圧倒的な支配力を見せることがあるのだけれど、さすがにそんなことはない。

あとは鮮度感とか、空気が澄んでいる感じとか、ダイナミックレンジとか、そういう点についても劣るといえば劣るのだが、全体としてうまくまとまっているし、しなやかに、出るべきところは出してくる。中高域だけにしぼってみれば、質の良さは「一級品」(カッコで閉じるのは、どうもそう言い切っていいのか戸惑うからだが)ではないのか。少なくとも一昔前の中級プリメインより上等な鳴り方をしている。ように思う。

TOPPING TP21という中国製のデジタルアンプである。サイズは105x40x140、重さは量ってないけど1キロ2キロというものではない。これを駆動するACアダプター(14V)よりずいぶん軽い。トライパスのTA2021Bというオーディオ用ICを使っている。これで4980円、ACアダプターと送料込みで7000円くらい。

例のNS-5用に買ったもので、まあ普通に鳴ればいいやという感じだったのだけれど、これはちょっとしたものである。この手の小型アンプにありがちな高域のカンカンしたところも皆無、かといって切れ込むべきところは切れ込んでくる。低域の押し出しが...、と書いたけれど、それも金田アンプに比べればという話で、音楽のバランスが高域寄りであるとか低域不足であるとかいう感じはない。

そもそもスーパスワンというのは、機材のちがいをことさらに拡大してみせるようなところがあって、良いものはより良く、悪いものはより悪く聴かせてしまう傾向がある。そういう、オーディオのリトマス試験紙のようなスピーカーで鳴らして、特に破綻をみせずに鳴らしきるというのは、ほんとに「あれ?」なのであった。

話のタネに買ってみるかという方がおられたら、ACアダプターは12Vよりも14Vの方が良いらしい、という話なので、そちらをどうぞ。

追記:

CDを替えながら試聴を続けてみたところ、低域はやはりちょっと量感不足かなという気がしてきた。質はともかく量が少し足りないような気がするのだが、どうなんだろうなあ。

2009年10月16日

ヤマハNS-5きたる

オクサンがベースの耳コピーをするのに、iPodにイヤホンでは無理だというので適当なスピーカーを物色していた。作ってやってもよかったのだが、こないだリアを作ったばかりで疲労コンパイしており、そもそも、小型ブックシェルフの場合、価格性能比でメーカー製に勝つのは容易でないので、おとなしく中古を探すことにしたわけである。

作戦としては、こうだ。

1)おおむね15年前までの小型ブックシェルフで、当時の評価が高かったもの。
2)価格帯は当時の定価10万円(ペア)以内。
3)高さは35cm以内。
4)低音感がしっかりしており、ベースの耳コピーがしやすいこと。
5)なるべくウレタンエッジでないこと。
6)メーカー不問。

4)がポイントである。スピーカーの設計において、ほんとに低いところさえ欲ばらなければ、トランジェントのいい低音を出すことはむずかしい話ではない。反応がいいということは、余計な音が出ないということで、耳コピーには必須なのだが、いわゆる「低音感のある」音ではなくなるため、この価格帯を購入する層には、ウケがよくないということもありそうだ。

だから、売れている小型スピーカーというのは、低音が不自然にふくらんだり、ゆるかったりするのがあったりする。最近のiPod用とかPC用はたいていそうだ。そういうのは、自分的にもあまり好みではないのだが、昔のオーディオ入門クラスのスピーカーはまったく聴いていないので、出たとこ勝負ではある。

候補としてリストアップしたのは、BOSE MODEL 121 、VICTOR SX-A103、同じくSX-C7、ONKYO D-102A、INFINITY referense One 、YAMAHA NS-10M、TANNOY SYSTEM6、audio pro IMAGE11 なんてところである。

どれも、ほとんど聴いていないのだが、まあ、どうせiPodにつなぐわけだし、アンプは5000円のデジタルアンプだし、劣化さえしていなければ、どれがきても十分引き合うだろうと考えていた。

ところが、つい買ってしまったのは、これであった。YAMAHA NS-5
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ヤフオクをうろうろしていたら、こいつが3000円であった(苦笑)。想定外のスピーカーだったのだが、ためしに100円上積みしてみたら、その後誰も反応がなく、思わぬものを落札してしまったという感じ。

90年代半ば頃の製品で、当時の定価はペアで5万円。13cmと2.5cmの2ウエイでリアにポートをもつバスレフ。卵の黄身みたいなツイータが特徴だが、ウーファーも黄色っぽい色をしている。バッフルは青みがかっていて、お洒落といえばお洒落だが、変といえば変だ。まあ、箱はしっかりしているし、重さも6.5kgあるのでちゃちい製品ではなかろう。

とりあえず音出しをしてみる。最初は、定番のアート・ペッパー「meet the rythm section」。シンプルな録音なのだが、左チャンネルから出るサックスの切れ込み、金管らしい艶、音離れ、右チャンネルのベースとピアノの音色と実在感といったあたりが聴きどころになる。昔から聴いているので、自分にとってはわかりやすい盤なのだ。例によってスーパースワンのヘッド部に載せて試聴開始。

音が出た瞬間、「なんじゃこりゃ」であった。

音が死んでいる。余韻もない。ダイナミックレンジ不足。振動板から放たれた音が、こちらの耳に届く前に、力尽きてばったりと討ち死にし、こちらにはナキガラだけが届いてくるといった風である。全体に根暗サウンド。鈍重で切れがなく、ジャズらしいスウィング感などは、望むべくもない。

ツイータが壊れているのかと耳を近づけてみたのだが、ちゃんと鳴っているから、そもそもがこんな音なのだろう。

しかし、ものはいいようである。こんな場合、「エレガントで上品、嫌な音は一切出さず、一定のスケール感の中で音楽を描ききるバランスの良さがある。ふっくらとしたアダルトサウンドで、奔放に鳴りまくるというよりも、内に秘めた慎み深さを感じる」というのが、プロなのだ。こちらはプロではないので書くことが正直である。

ふと思いついて、ツイータを内向きになるようにセットしてみた。こんな具合。
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これで激変。中域に力が出てきて、密度感が増した。討ち死にしていた音の何割かは生き残って、こちらにたどり着く。もともと、中域の密度があんまり高くないというか、エネルギーが多くないので、ツイータ同士を近づけてやった方がセッティングとしては正解だったらしい。

とはいえ、ワタシは超高能率でトランジェント命みたいなスーパースワンを15年も聴いてきた特殊なオーディオ人生であるから、上記感想は鵜呑みにしてはいけない。あくまでも、いつも聴いている音に比べて、というのが前提である。おそらく、このあたりのスピーカーは、ほとんどが大同小異であることと想像している。サイズ的にも仕方がないのだ。

大体、3100円で落札しておきながら、長所を探さずに欠点ばかり述べるというのは、人として了見に問題があるのではないか。せっかく来てくれたのにごめんねとNS-5に謝りなさい。今すぐ謝りなさいと叱られながら、さらに試聴を続ける。

荒井由美の「海を見ていた午後」。これも反応のいいスピーカーだと、幽玄の世界が現れるのだが、これはきれいな音で聴けた。普通のヒトが聴いたら、目をつぶって耳を傾けてくれるだろうというくらいの音。

クーベリック/ベルリンフィルの「新世界より」第3楽章。ああ、このスピーカーの持ち味はこのへんなのだなということがわかる。低音はサイズなりではあるけれど、オーケストラを聴くのに決して不足ということはない。ややふくらみのある音が、俯瞰的に音楽をとらえるのには向いている。こういう音を聴いて育った子供は、穏やかでいい性格になるのではないか。

全体に、きれいな音である。ジャズのベースは音階がしっかりしていて、そう不要にふくらむという感じもない。ピアノの音は、少しボリュームが上がると苦しいけれど、やはり美音。超小音量ではくっきりしないし、大音量でもどうかというところはあるので、適当な音量で気軽に音楽を楽しむには何の文句もないスピーカー、ということはいえる。

足どりの重さや音抜け感の不足、中高域のつまった感じ、ダイナミックレンジについては、まあそういう個性なのだと割り切るしかない。この音質とレンジでスーパースワンなみの反応の良さがあれば、ブックシェルフとしては怪物だ。そんなものは(今のところ)聴いたことがない。あっても、この価格帯では無理だろう。

なにしろ、3100円である。エッジがそろそろあやしいので、そう長くは聴けそうもないのだが、超掘り出しものではあった。こういう、かつて評価の高かった小型スピーカーを、片端からコレクションしている人は、きっといるだろうと思われる。エッジ修理の技術を身につければ、さらに面白い遊びになりそうだ、。


追記:

この後、「コッキー・ポップ・ベスト」を聴いてみたら、なんとも肩の力が抜けた、いい再生になった。70年代のハイファイ音は、こういう感じだったかもしれないと思い返している。いってみればFMの音に近い。オーディオはフォーマット拡張の予感とともに帯域を広げ、かつ音像から音場へ、またクリアで抜けの良い音へという流れになっているわけだけれど、それだけではないなあと、こういう音源を聴くと思う。

2009年10月 8日

リアスピーカー完成のこと

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うう、腰を痛めて眼鏡を踏み折ってしまったが、とりあえずリアスピーカー完成。バックロードホーンで、部品点数が26点あり、尺の長い部材が多かったので精度を出すのがむずかしかった。途中で精度を出すのをやめたから、気楽なものだったけど、ちゃんと作ろうとすればハタガネが必須だろうと思う。

ついさっき完成して、部屋もご覧の通りの有様なのだが、片付けるよりも先に音出しである。作りたてのバックロードホーン+新品ユニット(FE108EΣ)がどんな音になるのか、ほぼ想像はつくのだけれど、想像よりはまともな音がするのはESコーンだからか。いわゆる紙臭さをほとんど感じない。

当然のことながら音は硬いし、全体にぎしぎしするし、油を差したくなるような感じで上も下も出ていない。ただ、例のボーボー、コーコーいう音は、あまりない。けっこう早く聴ける音になるのではないかという気がする。

全高1415mm、ユニットの中心が1300mm。重さは、12mmサブロク1枚分+ユニット+デッドスペースにつめる砂利。上等なリアに育ちそうである。

2009年10月 7日

キャンセリング・マグネット

二六製作所というところに注文しておいたマグネットが届いたので、さっそくキャンセリング・マグネットの実験をしてみた。対象はスーパースワンに取り付けてある6N-FE108S。

キャンセリング・マグネットというのは、スピーカーを駆動する磁石に、同極を向き合わせて別の磁石を背負わせてやることによって、外部に漏れる磁界を打ち消そうというもので、テレビがブラウン管だった時代に(ついこの前だ)、磁力線による画面の影響を軽減するためによく使われた。

いわゆるユニットの防磁化のテクニックのひとつなのだが、オーディオにおいては別の意味を持つ。単純にユニットの重量が増えることによって不要共振等が軽減されることもあるのだろうけれど、一般にいわれている効果としては、

1.SN比の向上
2.低域のしまり、スピード感の向上
3.高域の切れ込みの向上

なんていうことになっている。

現用のスーパースワンについて、確かにもっと高域が鋭く切れ込んでくれたらいいと思うこともあるし、中低域のふくらみに気になるところもないではない。これが、磁石2個でなんとかなるならお得な話である。

用意したのは、直径90ミリ、厚さ16ミリ、内径50ミリのドーナツ状の磁石。二個をくっつけた状態で梱包してあったのだが、猛烈な磁力でもってカタクナにひっついており、はがそうとしてもはがれるものではない。指などはさむと大けがをしそうな勢いであった。

両手で磁石を持ち、少しずつずらしていく作戦に出て、ゆっくり時間をかけてなんとかはがしてみたところで、疑問がふつふつと湧いてきた。

これだけ強力な磁石である。おそらく6N-FE108Sの磁石も同等かそれ以上のものがついていると思われるのだが、その二つの磁石を「同極を向き合わせて」貼り付けるなんてことが、一体どうやったら可能なのだろうか。めちゃくちゃな勢いで反発し合うに決まっているではないか。

ところが、見る前に跳べというやつである。実際にやってみたら、なるほど最初は、ぐよん、ぐよんというか、ゆわん、ゆわん、というか、磁石と磁石の間の目に見えない空間に、激しい反発力が働いていたのだが、ある地点で、ちょっとセンターをずらしつつも、人間でいえば「ハスに構える」という恰好でもって、二個の強力磁石はひっついてしまったのだった。

このあたりの理屈がどうなっているのか、さっぱりわからないのだが、「反発しあう者同士でも、ちょっと視点をずらせば仲良くなれるものである」という真理がひらめいたわけである。磁石みたいな融通のきかなそうなやつでもそうなんだからな。人間なんてちょろいものであろう。

で、普通はこのキャンセリング・マグネットを接着してしまうわけなのだが、とりあえずその前に試聴してみることにした。

高域の切れ込み。確かに少し向上したように聞こえる。
低域のしまり。これも向上したように聞こえる。というか明確に向上した。
SN比。以下同文。

ということで、うたい文句通りの効果を確認したのだけれど(劇的・大幅な変化というほどではない)、迷った末にやはりキャンセリング・マグネットは使わずに、ノーマルのままでいくことにした。

ひとつひとつの「音」をとれば、確かに良くなっている傾向ではあったのだが、どうも息が詰まるような気がしたわけである。モニター調になるというか、厳格になるというか、こういう音が好きな人はいると思うのだが、なんとなく伸びやかさが後退したような感じだった。

ノーマルに戻して試聴してみると、中低域のちょっとしたゆるさが元通りになっていたのだが、その分、音が弾む。ジャズだとスウィング感が出てくる。おおげさにいうと、スピーカーが歌っている。

もともと、超強力なオーバーダンピングユニットだから、キャンセリング・マグネットの利点よりも、バックロードホーンとして空気室が狭くなったこととか、ダンピングがさらに強化されたことで、何か引き替えにしてしまったことがあったのかもしれない。

面白い実験ではあったのだが、強力な磁石が二つ余ってしまった。砂場で砂鉄でも集めてみるか。

2009年10月 5日

リアスピーカーを作ること

2006年1月頃から、スーパースワンに合わせるリアスピーカーを何とかしなくてはなんない、と考えていた。考えてはいたのだが、なかなか決まらなかったのは、自作・既製品含めて、これといったものがなかったからだ。

長岡鉄男設計の「クレーン」というリアスピーカーがあって、もともとスワンに合わせることを念頭に設計されたものであるから、これがベストマッチであったことは間違いないのだけれど、それも1990年頃のお話である。

当時は、ドルビーサラウンド、ドルビープロロジックの時代であり、まずソフトがなかった。それで多くの場合、2chステレオ録音された音源をAVアンプで加工してサラウンドを作り出していたのだが、音質は当然劣化する。ドルビー方式の利点は認めるとしても、現実的にはへたなAVアンプを通すよりも、スピーカーの結線だけでサラウンドを実現するスピーカーマトリクスの方が、はるかにましな音がするではないか。という長岡師の提案を形にしたものが、「クレーン」であって、それは確かにその通りだっただろう。

しかし、現代の標準はドルビーデジタル、DTSになっている。ソフトもDVDで大量に供給されている。スピーカーマトリクスでは、左右チャンネルの差成分だけをリアに受け持たせればよかったので、低域も超高域も必要なく、高能率で反応のいいスピーカーが理想だったのだが、今の方式では、リアにもフロントと同じくらいの低域が入っている。これを無視することはできない。

できないのだが、ほんとうにワイドレンジなスピーカーをリアに置こうとすると、マルチウエイかフルレンジでも巨大な箱が必須になる。さらにワタシの場合、映画のDVDをサラウンドで鳴らしつつ、ピュアオーディオもマトリクスで楽しみたいという欲がある。

むしろ、当座はスピーカーマトリクスで鳴らしながら、いずれAVアンプを導入した時にも使えるリアスピーカーがほしい。マルチウエイだとレンジは十分なのだが、マトリクスで使えない。スーパースワンに比べて能率が低すぎるのだ。マトリクスはAVアンプを通さないから、リアの音量は能率に頼るしかない。かといって巨大な共鳴管やバックロードホーンでは置き場がない。こういうジレンマの狭間で、3年ほどうろうろしていた。

で、2007年6月の時点で、以下のような理想を描いていた。

1)振動板の性質を合わせるために、フォステクスのFEシリーズかこれに準じるユニット。口径は10~12センチ程度。
2)音質や特に低域のスピードを合わせるために、バックロードホーン、共鳴管が理想。
3)映画鑑賞時にセットして、それ以外にはすぐに撤去できるように、そこそこの重量であること。
4)床の占有面積が、それほど大きくないこと。背は高くても可。
5)低域のレンジ、周波数特性は、フロントと同等か、これに準じるものであること。

今でも、理想は変わらない。変わらないのだが、理想はあくまで理想であって、これをすべてクリアするシステムは、なかなかない。特に5)が大問題となってくる。1~4を実現しながら、フロントと同等の低域を確保するというのは、相当困難である。ネッシーMINI が近いけれど、音源の高さが足りないし、超強力な限定ユニットを前提にした設計だから、ことがおおげさになりすぎる。

しかし、無理を承知で理想に一歩でも近づこうとするのが、人生というものである。そういう人をネットで見つけた。ひょせんさんという自作派マニアで、この方が今年のステレオ誌7月号で発表していたバックロードホーン(実際には共鳴管動作と半々くらいか)によるリアスピーカー「R-101」の図面を譲っていただき、本日から工作スタートなのである。

R-101は、ひょせんさんのサイトにもまだ登場していないのだが、高さ1412mm、幅184mmのトールボーイ。ユニットはFE108EΣを使う。これなら、マトリクス再生にもそのまま使え、いざとなれば低域もそこそこがんばってくれるのではないかと思う。

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2009年10月 2日

モアイへの道(2)

FE108Sによるスーパースワン(人気投票第1位である)を、15年ほど前に作り、以来、スワンはわが家のエースとして働いてきた。細かいことをいえば高域の伸びが今ひとつであるとか、中低音にもう少し解像度がほしいとか、不満点はないでもなかったのだが、10cmフルレンジとしては、まさに奇跡の設計であり、奇跡の音であったと思う。

ユニットが寿命を迎えるまで、このシステムは使うつもりだったのが、昨夜、まったく低音の足りないFE103Mバスレフ箱の音を聴いて、考えが変わってきた。というか、打ちのめされた。そろそろ、スワンは卒業しなくてはならないのではないか。

次のエースになるべきスピーカーについて、いろいろ検討したところ、PMCのGB1i、ヤマハのSOAVO-3、KEFのiQ90なんてところが候補に上がってきた。いずれもトールボーイで、ピュアオーディオにもシアターにも使える。圧倒的なクオリティは、ひとまず置いてもかまわないから、いわゆる現代のオーディオの基準はどこらへんなのか、C/P比の高そうなところで確認してみたい気持ちもあった。タイムドメインのyoshii9も考えたのだが、あれは最高のサブシステムにはなりそうだが、いずれもうひとつ、大黒柱が欲しくなりそうだったので、今回は除した。

そうした中で、モアイのことを思い出したわけである。これは、たまたま高さ1mのトールボーイで(プロジェクター視聴を考えると、トールボーイが収まりがいい)、現在、検討しているリアスピーカーのユニットFE108EΣとの相性も良さそうだ。それに何より、このユニット構成でありながら、長岡師自身が「高能率、フラット、ワイドレンジの理想的なモニター特性である。音は方舟のメインシステムに似ている」とコメントしている。その5年後に亡くなるのだが、最晩年の傑作として長く語り継がれていくシステムになるのだろう。

ただ、どうしても1.6Ωというインピーダンスが気になった。わが金田アンプは、70年代の設計であり、しかも、ただでさえスピーカーをぶっ壊すことで知られる金田明彦氏の設計である。どこでどんな無理がしてあるか、自分では見当がつかないのだが、「メーカーでは絶対やらないようなことを、音のためには躊躇せずにやる」傾向があったことは確かなようだ。ユニットは飛んでも買えばすむのだが、あの時代のトランジスターの名石は、入手がなかなか大変だともいう。

例によって、とりあえず、白男川さんに電話してみた。

「トータルインピーダンスが1.6Ωになるスピーカーがあるんですけど」
「え、何?もう一度言って」
「いや、あのFE168Σをメインに使って、別にウーファーの箱を作るわけです」
「うん」
「そのウーファーがFW168というやつで、これを2発パラに使う」
「なるほど」
「そのパラったやつを、さらにパラってメインにつなぐと見かけ上の能率が4倍になりますよね」
「そうだね」
「そうすっとトータルで1.6Ωくらいになるわけなんですが、例の金田アンプ、大丈夫でしょうか」
「うーん...」
「無理かな」
「保護回路が働くか、こないだみたいにトランスが断線するか」
「ふむ」
「最悪、トランジスタが飛んでおしまいになる可能性があるね」
「そうかあ」
「でも、まあ、大丈夫かもしれないけど。でも、瞬間的に大電流が流れれば、怖いよね」
「ふむ」
「インピーダンスが低いということは、だーっと電流が流れるということで、スピーカーのインピーダンスは低音になるにつれて低いから、低音の大入力とかやると、かなり危険」
「そうですよねえ」

この時点で、もうあきらめていた。歴史遺産ともいえる70年代の金田式A級30Wを、そんなへんてこでイレギュラーな自作スピーカーのために、オシャカにしてしまうわけにはいかない。ここで、昨夜からの思考が断線状態になったワタシは、しばらくピュアオーディオはあきらめて、現用のスーパースワンを軸に、シアター方面の機器充実に向かってもいいかと思っていたのだが、ここで朗報。

なんと、問題のFW168(4Ω)は、すでに生産中止となり、FW168N(8Ω)に代替わりしていた。これなら、システムのインピーダンスは約2.7Ωになり、そこそこ、安全域といえるのではないか。見かけ上の能率は4倍から2倍になり、低域は3dbダウンという計算になるが、作例ではほんの少し量感不足にはなるが、実用上は問題ない範囲だという。

さて、パーツ代12万、板代3万、工具、塗料ほかで2万とみて17万くらいはかかりそうなこのシステム、試聴する機会もなさそうだけれど、作ってみるかなという気になってきたのだ。

モアイへの道(1)

長岡鉄男師が設計したスピーカーシステムに、SS-66「モアイ」というものがある。たしか、96年頃の『ステレオ』誌で、フルーティストの加藤元章氏の、相当、無理難題といえるリクエストに応じて設計した3ウェイのモニタースピーカーだ。

長岡師の3ウェイというのは、作例がないこともないのだが、何しろ自作で使えるスコーカーにろくなものがないこともあり、どちらかというとPAユースの、「直径1mのフライパンで頭を殴られるような」スピード感や押し出しの良さ、あるいはローコストでもこれだけできる、といったものをめざしたものが多かったように思う。

これは、珍しくピュアオーディオの3ウェイである。それも相当、本格的なモニターとして使えることを目標にしている。今、本棚を探してみたら当時の雑誌(「ステレオ」96年4月号)があったので、加藤氏が出してきた要求を抜き出してみる。

●方舟(48畳ある長岡師のリスニングルーム、全国のファンの憧れの場だった)の音質が、そのままほしい。
●(運搬性を考えて)小型モニター+サブウーファーという形でいきたい。
●メインは14cm~16cmフルレンジ+ホーントゥイーターで。
●フルートの音域にクロスオーバーを持たない。
●f特は40hzから25khzまでフラット。
●低域は(ホーンや共鳴管ではなく)振動板の振動で再生したい。
●メインの外寸は200mm x 300mm x 450mmを基本。
●メインだけでもモニター使用可能。

つまり加藤氏は、自分の演奏を録音する時に、現場に持ち込む最上のモニタースピーカーがほしかったわけなのだが、おそらく、長岡師数十年のキャリアの中で、ここまで図々しいリクエストをしたのは、この人が最初であり、その後もいないこととと思われる。「できるわけないじゃん」というのが、当たり前の反応であって、この企画自体もボツになるのが当然だったとも思われる。

大体、方舟のシステムはオール共鳴管で、しかも高さ3mのネッシーを主体としたものであって、音質もいわゆる録音モニターのものではなさそうだ。どちらかというと、圧倒的ど迫力と圧倒的スピード感で、しかも繊細な入力にも反応し、聴く人をひれ伏させるようなものではなかったかと想像する。

それを小型モニターで、しかもウーファーの直接音でなんとかして。というのは、いくらなんでも虫が良すぎるというか、人として育ちが良すぎるのではないか。ワタシら苦労人は、常に相手のことをオモンパカるように出来ているので、とてもこういうことはいえない。

だが、しかし、ものは言ってみるものである。長岡師もこういう無茶なリクエストに燃えたのだろう、見事にその解を出してきた。それが、SS-66モアイだった。

基本は、フルレンジのFE168Σである。このユニットは中域の質が非常に良くて、高域も20KHZまできれいに伸びているので、通常はツィーターは不要なのだが、コンデンサーを1個だけかまして、スーパーツィーターFT96Hを持ってきた。

つまり、2ウエイというよりも、フルレンジ+スーパーツィーターの、最近の言い方をすれば1.5ウェイということになる。ネットワークが最小限のものだから、音質劣化の心配もない。

ただし、このメイン部だけでは相当なハイ上がりになることは、作る前から十分に想定できた。FE168Σというのは、質感は高いのだが、使い勝手からいうとかなり中途半端なユニットで、普通のバスレフ箱に入れると低音が足りなくなる。かといってバックロードに使うと、今度は駆動力が足りなくて、低音がゆるゆるになる。

これをまともに使おうという作例が長岡師にあって、友人のトヤマ氏(宮崎びびの会メンバーで水産行政のプロ)のシステムとして、旧家村で合宿しつつ一緒に作ったことがある。BS-168「ノヴァ」である。45リットルくらいの箱を、全面30mmの板厚で固め、異常なほどでかいバスレフポートが開けてある。このくらいしないと、使いこなせないユニットなのだ。

で、モアイは、別にFW168というウーファーを2発、水平対向に設置したウーファーボックスを作り、その箱の上に、メイン部を載せるという、バスレフの二段重ねになっている。

しかし、ここからが常人の発想を超えているのだが、インピーダンス4ΩのFW168をパラで接続して、見かけ上の能率を2倍にする。それをさらにパラでメイン部と接続することで、メイン部に対するウーファー部の見かけ上の能率は4倍にも達する。

つまり、アッテネーターをフルレンジにかますわけにはいかないから(当然、音質に影響する)、ウーファーの方の見かけ上の能率を上げることによって、レベルを合わせてしまおうという荒技である。しかし、この時点で、トータルのインピーダンスは1.6Ωだ。そんなスピーカー、世の中にあるのか。アンプは火を吹いて倒れるのではないか。

それが、最近のアンプは良く出来ていて、案外、大丈夫なようなのだった。実際、ネットで調べた範囲では、この猛烈な低インピーダンスでアンプが壊れたという話は聞かない。

かくて、長岡師にとっても希代の名システム誕生となり、近年になって行われた「歴代長岡スピーカー人気投票」においても、堂々第3位に位置している。500本からある作例のうちの3位であるから、相当な人がこれを作り、その音にたまげたのだろうと思われる。

以下、(2)に続く。