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[1199] 魚あれこれ>分布…魚たちの遙かな旅について 
2002/6/13 (木) 18:28:58 小西英人
■『磯釣りスペシャル』2001年5月号より転載
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魚あれこれ
ぎょぎょ事典 番外3

それはヒマラヤで生まれた! のかもしれない
分布■

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■はじめて瀬戸内から太平洋の海に立った日…どきどきした。どんな魚が釣れるのだろう。実際、少年にとって、そこは熱帯だった。極彩色の魚が釣れ、釣れる魚、釣れる魚、名さえ分からなかった。力持ちが多くてへとへとになり、驚いた。
       ■
■はじめて男女群島に立った日はじめてトカラ列島に立った日はじめて石垣島に立った日はじめて父島に立った日…どきどきはしたけど、まったく知らない魚ではなかった。経験を踏むとみんな同じ魚であり、目新しい物は少なくなった。韓国でも、中国でも、台湾でも、インドでも、ミクロネシアでも、ハワイでさえ、そうだった。ちょっとづつ違いはある。冷水性のものか暖水性のものかというような変化はある。しかし、なじみの魚はなじみの魚なのだ。これはちょっと理不尽に感じる。せっかく外国に来たら外国の魚になれよと思う。標準和名をいうと驚く釣り人が多い。魚に国境はないのに。ボーンフィッシュはソトイワシである。英語で呼ぶから外国の魚なのではない。
■本州中部以南に住むものにとって、海の魚は、黒潮の魚だ。この魚たち、基本的には西北太平洋を循環する大海流の申し子である。日本人が捨てた百円ライターをハワイ諸島のミッドウェイの海鳥が呑み問題になる。実際、ミッドウェイでは研究者によりイシダイとイシガキダイが確認されている。たぶん海流に流された「漂魚」で再生産はしていないのだろうけど。
■われわれは、魚類の生物地理区分でいうと「インド・西太平洋域」という、世界の熱帯域の半分以上をふくむ大きくて多様な魚類相の周縁部にいる。魚の宝庫にわれわれはいるのだ。
       ■
■魚類の分布って、重要であるのに分かりにくい。魚類図鑑を編すると、読者からの不満のトップは地方名が分からないぞであり、次は分布がおかしいやないかである。まあ、地方名は許してやろう。けど分布は「許せへんぞ」と一オクターブ高い声で文句をいう釣り人は多い。
■日本が誇る最新最高の図鑑からメジナとクロメジナの分布を見てみよう。『日本産魚類検索第二版』(中坊徹次編・2000年・東海大学出版会)によるメジナの分布は新潟・房総半島以南〜鹿児島;朝鮮半島南部、済州島、台湾、福建、香港。クロメジナは房総半島以南;済州島、台湾、香港。しっかりした魚類図鑑のなんとなくのお約束として、〜は連続分布、読点は独立した分布、セミコロンからあとが外国の分布となる。
■「ほらあああ」「やっぱりいい」「最高の図鑑でこれやもんな」と日本中の磯釣り師の黄色い声の大合唱が聞こえたぞ。
■この図鑑のメジナ科の著者はわれらが中坊徹次京都大学教授である。中坊博士のメジナ科の「分類学的付記」を読むと、そんなことは先刻ご承知で−−その分類、形態と分布については Yagishita and Nakabo (2000)が詳細に報告した。示した分布域については違和感をおぼえられる方もいると思われる。彼らはメジナ属3種の地理的分布について「単に流れついて記録されたに過ぎないと思われる」採集地点は「副分布域」とみなし重視しなかった。本書では、彼らの「副分布域」はすべて表示しなかった。分布表示についての、ひとつの試みである。全分布域については Yagishita and Nakabo (2000) を参照されたい−−とある。引用を英語でやるのは英文論文のことだ。その論文から、ぼくのへたくそな和訳で分布域を引用する。
■メジナ=主分布域は新潟南部から北西九州、朝鮮半島南岸、対馬、済州島、房総半島南部から南九州、台湾、中国福建省沿岸。副分布域は本州北部と北海道の日本海(成魚の記録はないと3論文を引用している)、琉球列島、小笠原諸島、香港付近(希、小西和人氏私信)。そしてこのあと5論文を引用してフィリピンの分布に言及、標本はなく、この地域にメジナが出現するのは疑問だとしている。
■クロメジナ=主分布域は房総半島南部から南九州、対馬、済州島、男女群島、台湾、香港付近(小西和人氏私信)、香港でふつうに見られる。副分布域は琉球列島、小笠原諸島、本州北部の太平洋岸(体長60ミリ以下の標本の記録を引用)。
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■どうだろう。とにかく研究者は自分のデータ以外にも標本と文献をすべてあたり、その種の分布を確定する。それを簡単に図鑑で表現するのは難しい。この主分布と副分布という形はひとつの面白い試みであると、ぼくも思う。研究者たちとよく話をする理想の分布図とは、生息密度を点で示したドットマップなのだろうけど、これは大量に捕る水産魚種でなければ難しいし図鑑にそれだけのスペースもない。釣り人も正確に魚種を記録していけば正確な分布が得られる。文句をいうことばかりではなく、われわれが記録を集積することも考えていきたい。
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■それではなぜ、インド・西太平洋域は魚の宝庫になったのであろうか。タイ科クロダイ属の時空を超えた遙かなる旅路を描いた、ぼくの『釣魚図鑑』(小西英人・2000年)のコラムから引用してみたい。
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■「大地中海」とか、「古地中海」とか、聞いたことがあるだろうか。これはテーチス海という古生代から古第三紀に、チモール、スマトラ、インドシナ半島、ヒマラヤ、パミール、ヒンズークシ、小アジア、地中海方面にひろがっていた古海洋のことで、アンガラ大陸とゴンドワナ大陸にはさまれた広大なこの海は、浅く、温暖な時代が多く熱帯から亜熱帯の海洋動物群が多く生息した。第三紀の中頃に北上したインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかり、ヒマラヤができ、東西に分断された。いまの地中海はテーチス海の名残とされる。エベレストから浅海性の海洋動物の化石が発見されるのは、海底が持ち上がったのがエベレストだからである。
■『地理的分布から見たタイ型魚類の分散』(赤崎正人・1970年)を参考に、クロダイ属の長い長い旅路を見てみよう。タイ科魚類は白亜紀の終わりから第三紀のはじめに、テーチス海で出現したらしい。白亜紀なら恐竜に原始タイ科魚類は喰われちゃったかもしれない。地中海にタイ科魚類の種数が多くタイ科の原型に近い形質を持ったものが多いのは、テーチス海起源の証拠とされる。
■クロダイ属は、東南アジア、東インド諸島を小さな分散の中心として、インド洋、オーストラリアおよび日本の、いろいろな方向に分散したといわれる。東太平洋には深海があり強い海流もあったので、これらが「東太平洋障壁」となり、分散を遮断したので、日本とオーストラリアが分布の限界になった。
■一般に、各大洋の西岸に部分的な分布の中心地があるといわれる。それは暖流がそれらの沿岸にぶつかり、魚類の移動の終末地域になっていたこととテーチス海からの「分散」の影響が残っているためだといわれている。つまり日本は分布の中心から、どんどん送り込まれる周辺地域、「吹き溜まり」にあたるわけだ。日本近海が約四千種の魚類の生息する豊かな海になっているのは、こういう地理的に恵まれた特性があったためなのだ。日本に生まれ落ちたことを釣り師は感謝しなければ。
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■分布の研究は動物地理学と呼ばれる。ある分類群の祖先種が発祥して長い年月をかけて種分化をしながら地理的に拡大してきた結果がいわゆる「分布」なのである。ただ、どこにいるかという研究ではない。特殊化した種が分散の中心にいて原始的な種は周縁部にいるという説と原始的な種が発祥地の近くにいて特殊化した種は発祥地から遠いところに分布するという、ふたつのまったく逆の考え方がある。とにかく硬骨魚類は先のタイ科魚類のようにテーチス海起原のものが多く、種分化しながら分布を拡大し、東太平洋障壁により、日本が終着点と思われるものが多い。西太平洋と東太平洋は魚類相が違う。北の吹き溜まりが日本であり、南の吹き溜まりがオーストラリア・ニュージーランドで、赤道をはさんで泣き別れたと思われる種が多くそれを反赤道分布という。
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■世界のメジナ科魚類を見てみる。『世界の魚類第三版』(ネルソン・1994年・英文)ではメジナ科はイスズミ科のメジナ亜科にされている。メジナ科をイスズミ科に含める研究者も多い。メジナ亜科魚類は2属およそ17種とされている。およそとあるのは、まだ世界的な見直しができていないからだ。この17種の分布は南アメリカの太平洋岸、北アメリカの太平洋岸、日本、中国、オーストラリア、ニュージーランド、ガラパゴス諸島と、環太平洋に広く分布している。そして、ぽつんと大西洋の真ん中、東アフリカのセネガルの遥か沖合にあるカーボベルデ諸島に、1種だけいる。
■これはなんなんだ!?
■東太平洋障壁はどうした。この分布は際だって珍しい。メジナたちが、われわれに饒舌に語ろうとしてるものは何か…。
■地道な分布研究の積み重ねによってのみ、彼らは、その時空を超えた旅を教えてくれるだろう。二十一世紀、この謎を明かす若者は現れるのだろうか?