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[1600] 参考>棘鯛の系譜…クロダイ>転載します 
2002/7/16 (火) 19:12:25 小西英人
 タイ科のクロダイ属は学名で Acanthopagrus といいます。読むとアカントパグルスですね。これはギリシャ語で「棘の鯛」という意味です。『棘鯛の系譜』という連載を、ぼく、むかし『ちぬ倶楽部』でやっていて、これを書き直して『釣魚図鑑』に再録しました。日本産クロダイ属5種について書いたので5本あります。しかし、オーストラリアキチヌの項など、ちょっと古くなってしまっています。

 5本すべてを転載するかどうかわかりませんが、とりあえず、このうちのクロダイの項を、参考のために転載しておきます。

                          英人


■『釣魚図鑑』(小西英人・2000年)より転載
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魚あれこれ■棘鯛の系譜A

南の海から北の吹き溜まりに。食べるマシンの旅
クロダイ■


■いちばん北に棲む黒鯛


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■マダイとクロダイの違いを、いえるだろうか。
■赤いか黒いか。顔が違う…。まあ、そんなとこなんだろうけど、もっと違うところはないのだろうか…。
            ■
■タイ科魚類を大きく分けるために研究者たちがよく使うのは歯だ。世界のタイ科は見直さなければならないのだろうけど6亜科いるとされ、日本にはヘダイ亜科、マダイ亜科、キダイ亜科の3亜科の魚が棲む。これを分ける形質で、いちばん決め手になるのは「歯」である。
            ■
■ヘダイ亜科。日本産で、ヘダイ、クロダイ、キチヌ、ミナミクロダイ、オーストラリアキチヌ、ナンヨウチヌの6種。マダイ亜科。日本産で、マダイ、チダイ、ヒレコダイ、タイワンダイの4種。キダイ亜科。日本産で、キダイ、ホシレンコ、キビレアカレンコの3種。
■以上の3亜科に分けて歯を見てみる。ヘダイ亜科の前部には上下それぞれ6本の「門歯状犬歯」がある。犬歯とは先のとがった歯であり、門歯とは鑿のようになった前歯であるが、ヘダイ亜科の前部の犬歯は基部の断面が楕円であり門歯状といってもいいくらい発達している。対してマダイ亜科、キダイ亜科の両顎の前部は、4〜6本のただの「犬歯」になっている。(5ページ参照)
■ヘダイ亜科とマダイ亜科の上下の顎の側部の外側には先のとがった犬歯が並んでいる。その内側には臼歯列があるが、ヘダイ亜科は片側3〜5列で、かなり発達している。マダイ亜科は片側2列である。キダイ亜科には臼歯列も犬歯列もなく、小さな円錐歯列があるだけだ。
■ヘダイ亜科の臼歯列は、こんなものに噛まれたくないと思うくらい凄い。見たことのない人は、こんど釣ったら、よく見て欲しい。ちなみに、この臼歯列の大きさがほぼそろっているのがクロダイ属で、後部の方に一本だけ、でかいのがあるとヘダイ属になる。
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■門歯と犬歯と臼歯。まるで人の歯のように、この3セットがそろうのがヘダイ亜科、クロダイたちだ。門歯で噛み切り、犬歯でくわえ込み、臼歯で貝やカニなどを割り、殻などは吐きだして、中身だけ食べるというような高等な「食事」ができるように進化した、恐るべきクロダイたち。クロダイの稚魚は体長4pになると、臼歯が形成されると報告されている。そんな小さな時代から、さまざまな餌を追いかける。まさに「食べるためのマシン」が、タイ科ヘダイ亜科の魚たちなのだ。
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■クロダイは琉球列島をのぞく北海道以南の日本各地、朝鮮半島南部、中国北中部、台湾に分布する。あまりにも、日本人になじみのある魚であること、外洋向きより内湾に多いこと、いぶし銀の渋い色であること、などなどから、温帯特有の魚であると思われているようだが、クロダイ属は南方系の魚。クロダイは、いちばん北にまで分布する「北限のクロダイ」ということになる。
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■「大地中海」とか、「古地中海」とか、聞いたことがあるだろうか。これは「テーチス海」という古生代から古第三紀に、チモール、スマトラ、インドシナ半島、ヒマラヤ、パミール、ヒンズークシ、小アジア、地中海方面にひろがっていた古海洋のことで、アンガラ大陸とゴンドワナ大陸にはさまれた広大なこの海は、浅く、温暖な時代が多くて、熱帯から亜熱帯の海洋動物群が多く生息した。第三紀の中頃に北上したインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかり、ヒマラヤができ、東西に分断された。いまの地中海はテーチス海の名残だとされる。エベレストから浅海性の海洋動物の化石が発見されるのは、海底が持ち上がったのがエベレストだからである。
■『地理的分布から見たタイ型魚類の分散』(赤崎正人、1970)を参考に、クロダイ属の長い長い旅路を見てみよう。タイ科魚類は白亜紀の終わりから第三紀のはじめに、テーチス海で出現したらしい。白亜紀なら恐竜に原始タイ科魚類は喰われちゃったかもしれない。地中海にタイ科魚類の種数が多くタイ科の原型に近い形質を持ったものが多いのは、テーチス海起源の証拠とされる。
■クロダイ属は、東南アジア、東インド諸島を小さな分散の中心として、インド洋、オーストラリア、および日本の、いろいろな方向に分散したといわれる。東太平洋には深海があり強い海流もあったので、これらが「東太平洋障壁」となり、分散を遮断したので、日本とオーストラリアが分布の限界になった。
■一般に、各大洋の西岸に部分的な分布の中心地があるといわれる。それは暖流がそれらの沿岸にぶつかり、魚類の移動の終末地域になっていたこととテーチス海からの「分散」の影響が残っているためだといわれている。つまり日本は分布の中心から、どんどん送り込まれる周辺地域、「吹き溜まり」にあたるわけだ。日本近海が約四千種の魚類の生息する豊かな海になっているのは、こういう地理的に恵まれた特性があったためなのだ。日本に生まれ落ちたことを釣り師は感謝しなければ。
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■クロダイには謎が多い。これだけふつうに見られ親しまれている魚なのに生態などの基礎的な情報は、ほとんどない。クロダイは「性転換する魚」として有名ではあるが、実際の詳しいところは分かっていないし、「性転換」という言葉さえ不適切なのかもしれない。
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■魚は、ふつう雌雄異体とされているが、かなりの魚種で、さまざまな雌雄同体現象が知られている。1個体に雌雄双方の性機能があらわれるのを「機能的雌雄同体現象」とよぶ。それらのうち雄から雌に性転換するものを「雄性先熟」という。クロダイは一般に「雄性先熟の機能的雌雄同体魚」だとされている。
■『魚類の性転換』(中園明信・桑村哲生、1987)からおもな日本産タイ科魚類の雌雄性を抜く。クロダイ、キチヌ、ミナミクロダイ、ヘダイは雄性先熟の機能的雌雄同体魚になっている。マダイとチダイは、痕跡的雌雄同体魚になっている。「痕跡的雌雄同体魚」とは、機能的には雌雄異体であるが、将来雄になる個体の生殖腺が未成魚期に卵巣様の構造をみせてから満2歳までに精巣になるからそう呼ばれる。ただし、台湾産のマダイでは、雌性先熟の機能的な雌雄同体魚だという報告もある。キダイは雌性先熟の機能的雌雄同体魚とされる。赤い鯛は雌性先熟、銀色の鯛は雄性先熟が多いといわれる。
■『タイ型魚類の研究』(赤崎正人、1962)から、簡単にクロダイ、キチヌ、ミナミクロダイ、ヘダイなどの性を見てみると、体長が14〜25pくらいまで、雌雄の性巣をそなえ、外側の精巣と内側の卵巣は、ほぼ同じ大きさになる。両性巣の精巣は、生殖期には精子を放出して雄の機能を備えるが、卵巣の部分に季節的な変化は見られず、雌の機能も持たない。クロダイは体長20pくらいになると、両性巣が分離して雌か雄になるが、体長35.6pで両性巣のクロダイが採れたこともある。ヘダイ亜科の生殖巣の分化はふつう体長20〜30pの時期に起こる。
■簡単にまとめてしまうと、とにかく幼魚の頃は卵巣部と精巣部をあわせ持った雌雄同体魚であり、はじめは雄として機能するものが多く、成長するに従って、雄と雌に分化して、5歳以上の大きな個体の生殖腺は、卵巣か精巣であり「性の分化」は完了しているらしい。
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■性転換というよりは雌雄同体魚の性分化という方がいいようだ。なぜ、こんなややこしい性をヘダイ亜科は持つのだろう。ギスリンの考えた「体長・有利性モデル」というのが、性転換する機能的雌雄同体現象の説明とされる。体が小さいときと、大きいときで、雌雄が変わった方が多くの子孫が残せる場合、このモデルになる。たとえば大きな雄が多数の雌を独占する場合は雌性先熟が進化しやすい。ベラ科の魚などがそうだ。逆に雄の繁殖の機会が体の大小に関係なければ、体の大きい方が雌の産卵能力が増加するので、雄性先熟が進化しやすい。また雌雄がランダムにペアをつくって産卵する魚種は雄性先熟が進化するという説もある。
            ■
■クロダイ属の自然産卵を見た人はいない。婚姻システムはまったく分かっていないのだ。

初出●『ちぬ倶楽部』1999年8月号