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[1828] 乱麻>京都府★暗くて静かな伊根漁港の一夜だの巻 
2002/8/7 (水) 19:08:02 小西英人
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アオハタ■Epinephelus awoara

■これを見たら日本海を実感する
黄色いけれど青と呼ばれる波太■

 マゴチを狙って一晩中…。暑かったぜ…。

 ちょっとアオハタとシーボルトのこと書きましたので、ここにアップしておきます。

 ご笑覧あれ。

 それと、みなさん、特に九州の人に質問ですが、なんで、黄色っぽい「あら」を長崎の人は「あおあら」と呼んだのですか?

 分かる人こたえて。

                           英人


■小西英人■週刊釣りサンデー9月1日号より転載
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あをあら。シーボルトの気迫の名


京都府
暗くて静かな伊根漁港の一夜だの巻


■蛍が…。六匹飛んでいる。
       ■
■闇が漁村を埋め尽くしたけど焼けた鍋の底のように熱気が澱んでいる。その澱みの底で三匹の蛍がじっと動かない。その周りを、ゆらゆらゆらゆら三匹の蛍がまとわりついている。雄が雌を誘っているのだろうか。
■闇の底で、ぼおっと妖しく光る化学蛍を見つめていると幻想的なシーンに見えてくる。三つの竿先が海の上にあり竿先ライトの化学蛍が水面に映る。水面はゆらめき、艶めかしく動き、いかにも異性を誘うように見える。こちらまでくらくらする。闇の底の妖しい光は官能的だ。夜釣りは好きだ。真冬でも真夏でも、いつでもよく夜釣りをする。夜釣りは集中しやすい。釣りとして、とてもピュアなんだと思う。釣りとして、とても純粋なんだ。だから、化学蛍はよく見つめている。しかし、これほど艶めかしく見えたことはなかった。なぜなんだろうか。
       ■
■京都府の、丹後半島に優しく抱かれたような漁港、伊根にいた。ふつう日本海は護岸から海までが高い。夏、いかにおとなしそうに見えようとも、冬の日本海は北西風が吹き荒び恐ろしく荒れる。そのため日本海の護岸は高いのだ。しかし、伊根の一帯は北西を大きな丹後半島に守られたうえに、入り口も島に守られ、周囲を山に包まれている。いつでも海が静かだから、護岸は低い。海は近い。それで舟を階下に引きこむ伊根の舟屋が発達したのだろう。そう、壺中の天なのだ。ここ伊根は。
■水面は池のようだ。それで竿先の蛍と、すぐ下の水面に映る蛍は、ゆったり戯れている。艶めかしく見えるのだ。これは決して海釣りの感覚ではない。
       ■
■静かだ。静かだ。たまに鏡の海面を物音が伝わってくる。
■コーン。コーン。コーン。村落のあちこちから拍子木を叩く高い音が響いてくる。九時だ。夜回りをしているのだろう。
■ひそひそひそひそ…。はるか対岸で人が話しているのだろう何を喋っているのか分からないけれど、人語が響いてくる。
■ははははははは…。ときどき笑い声も水面を流れてくる。
■はっくしょっんんん! 驚くやんか、遠いはずなのにくしゃみが、すぐそこで聞こえる。
■壺中の闇の底で、距離感をなくし、方向感覚をなくし、不思議な空間感覚に陥っている。海の蛍はますます妖しく光る。
■日本の漁村というのは、こんなに暗く、こんなに静かだったんだろうなと思う。ところどころに常夜灯が輝く。蛍光灯がぼうっと輝いている。無骨な水銀灯でもナトリウム灯でもないから壺から天空を見上げると真っ暗な空に星が凄まじく美しい。北斗七星って、これほど輝いていたか。そういや、ぼくが子供のころ、日本の漁村に常夜灯などなかった。夜の明かりって大きな顔をしているけど半世紀の歴史もないんだ。夜とは真っ暗闇だった。何十億年もそうだった。太陽がひとつしかない地球という惑星ではそうなのだ。
       ■
■伊根で真鯒か鮃を釣ろうと思った。いままでこういう釣りはボートからの呑ませ釣りしかやっていなかった。徳島県の那佐湾で白鱚を釣っていて、二度ほど白鱚の鱗をずるずるに剥かれた。たぶん真鯒の仕業である。生き餌を使ってやろうと思いながら我慢した。こういうのは白鱚を餌にすると消えるんだよね釣りのマーフィーの法則だ。
■賢く我慢したのはいいが、小さな紙魚が本を蝕むように、いつのまにやら小さな我慢がぼくの心を蝕んでいた。真鯒真鯒真鯒真鯒ひょっとして鮃。そんな文字がぼくの心を蝕んでいたのだ。日本海に行こうと強烈に思った。真鯒と鮃は日本海なのである。決まっている。生き餌は迷ったけど白鱚にしようと思った。小鰺という手もあるけどさびきは嫌いだ。伊根か養老か迷って伊根に決めた。明るい間は餌釣りをせっせとする。釣れないんだよね、これが。餌を釣ろうと思えば釣れないというのもマーフィーの法則、青羽太、皮剥、真鯛、御歯黒倍良、星笹葉倍良などなど釣れる。伊根の港の底は岩だ。白鱚はいない。餌にできないものばかり釣れてくれる。でもいいんだもんね。
       ■
■青羽太って、なぜアオハタなんだろ。これ南日本に分布することになっているが、日本海に多い。知っている人は知っている。知らない人は知らない。そういうハタだ。なぜか。名の連想がいけない。青羽太といえば誰しも青いハタを想像するだろう。ところが青くない。茶褐色の横帯があり、黄色点が体にちらばり鰭も黄色っぽいので、無理にいうのなら黄色い。英名はイエロー・グルーパー、黄羽太という。なぜ青なのか、たぶん江戸時代の末期に長崎の出島周辺の人たちは、そう呼んでいたのである。アオハタの学名は、Epinephelus awoara である。AWOARAとは「あおあら」だ。九州では「はた」のことを「あら」と呼ぶ。長崎の出島からシーボルトがオランダに送ったコレクションを、ライデン博物館のテミンクとシュレーゲルが記載した。シーボルトの『ファウナ・ヤポニカ・魚類編』の第1分冊は一八四二年に出版され、それで新種記載された。シーボルトは不便な出島でいながら日本の動植物を収集するために和名を熱心に調べ記録した。それをテミンクとシュレーゲルは学名にした。江戸末期の長崎人は、なぜ「あおあら」と呼んだのだろうか。東京帝國大學の田中茂穂博士は標準和名の始まりとなった『日本産魚類目録』(英文、一九一三年)ではAWOARAを採用し、のちアオハタとした。AWOARAの響きは、耳を澄まし日本語をアルファベットに書きとめたシーボルトの気迫がこもってないか。
       ■
■暮れはじめてきた。ぼくのような玄人は、餌を釣ろうと思えば釣れないと分かっているから秋刀魚を短冊に切ったのと真鰯を塩でしめて持ってきた。慌てない。確率は悪い。しかし餌はなんであっても、釣り方はどうであっても、釣れるときは釣れてしまう。釣れないときは釣れない。これ、ヒデトの法則。
■静かだ。暗い。暑い暑い暑い暑い。夜は続く。餌は盗られたり盗られなかったり、大きな魚はまったく動かない。いつのまにやら夜は明けてしまう…。
       ■
■食卓の端に、そっと皮剥と青羽太がならんだ。嫁は真鯒はとも聞かず、知らぬふり。おかずはきちんと用意されていた。できた釣り師のヨメである。亭主が張りきってでると釣れない。これ、ヒデトのヨメの法則。