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[1965] 棘鯛の系譜3>ミナミクロダイ 
2002/8/24 (土) 06:17:15 小西英人
 棘鯛の系譜の3を転載します。ミナミクロダイです。1オキナワキチヌと2クロダイは、過去ログに潜りこんでしまいました。URLを書いておくね。

■棘鯛の系譜@>オキナワキチヌ
http://fishing-forum.org/cgi-bin/zk_bbs/zcyclame.cgi?ol=200207&tree=c1659
■棘鯛の系譜A>クロダイ
http://fishing-forum.org/cgi-bin/zk_bbs/zcyclame.cgi?ol=200207&tree=c1600

 また、ミナミクロダイとオキナワキチヌ(オーストラリアキチヌ)をめぐる動きが、ぼくの書いた2000年から変わっています。オキナワキチヌで注記を入れたけど、それと同じものを転載しておきます。

■注記転載
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 ぼく、『釣魚図鑑』の色校正をかかえて、2000年の魚類学会に行くと、そこで琉球大学の粂さんに声をかけられたのです。彼らは、オーストラリアキチヌの研究をしていたのです。

 もう、その最新情報を入れて書き直せなかったので、その情報は、先に『快投乱麻』から抜いておきます。

■快投乱麻
http://www.nifty.ne.jp/forum/ffish/hideto/ranma/37/37.htm

■この「棘鯛の系譜」でオーストラリアに棲むオーストラリアキチヌと、沖縄に棲むオーストラリアキチヌ、そしてミナミクロダイの関係は「いまのところ研究者でさえ、しっかりしたことは、なにもいえないという困りもの…」だと書いた。琉球大学理学部海洋自然科学科大学院生の粂正幸さん、吉野哲夫助教授、東京大学海洋研究所の西田睦教授によってオーストラリア産と沖縄産のオーストラリアキチヌとミナミクロダイとナンヨウチヌの遺伝子分析がされ、すべて同じ程度の遺伝的分化が確認された。つまりオーストラリアのオーストラリアキチヌと沖縄のオーストラリアキチヌはやはり別種であり、ミナミクロダイとも別種であると遺伝子からも確認された。(2000年度日本魚類学会年会講演要旨)

■この日本魚類学会年会は神奈川県立生命の星・地球博物館で十月六日〜九日まで行われた。そのポスターセッションという展示発表会場を歩いていたら声をかけられた。クロダイ属の話をするときに、眼を輝かせ、くりくりくりくり動かす好青年、琉球大学の粂さんだった。彼からオーストラリアキチヌとミナミクロダイの識別点をご教示いただいた。ただし、彼の研究は発表されていないので、まだ書けない。とにかく『釣魚図鑑』に書いたことは古くなりそうなのだ。また一九九七年に赤崎正人博士はオーストラリアキチヌを「おきなわきちぬ」という和名に変えようと提唱されたけどその提唱の方法が乱暴だから、しばらく使わないと書いた。しかし十二月二十日に出版されるであろう『日本産魚類検索・第二版』では、この赤崎博士の提唱を受けオキナワキチヌを採用したようだ。世紀末になってクロダイ属研究が動き始めた。
       ■
■今世紀は地球破壊の世紀になってしまった。新世紀は地球との共存の世紀にしなければ。生物としてのヒトを見直さなければならない。『釣魚図鑑』は、はや古くなりそうだけど世紀末に元気な分類学はうれしい。
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 また本文中で、鹿児島県種子島のクロダイを「オキナワキチヌ」ではないかと書いたが、これは、そのときの気の迷い、クロダイと、そしてたぶんミナミクロダイだと思われる。この文章を書いてからのちに、種子島で写したクロダイ類の写真を琉球大学の吉野哲夫助教授に見ていただいて、いろいろご教示いただいたが、オキナワキチヌではなかった。ミナミクロダイに見えるものもいた。しかし、クロダイとミナミクロダイは、非常に近縁で、分けることに意味がないかもしれないらしい…という面白いことを教えていただいた。

 それでは、前置きが長くなったね。始めます。

                             英人


■『釣魚図鑑』(小西英人・2000年)より転載
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魚あれこれ■棘鯛の系譜3

琉球列島を根城に頑張るぞ。謎の鱗4.5枚軍団
ミナミクロダイ■


■琉球にしかいない黒鯛


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■ミナミクロダイ、これは世界のクロダイ属の中でも、いちばんの新参者である。そして「琉球列島」に行くとごくふつうに見られる「くろだい」の仲間なのだが、謎も多く、いまのところ研究者でさえ、しっかりしたことは、なにもいえないという困りものでもあるのだ。
            ■
■1962年、ケネディ大統領がキューバ海上封鎖を声明、フルシチョフ書記長とつっぱりあって核戦争の恐怖に巻き込んだ「キューバ危機」に、世界が固唾をのんだ年、極東の片隅で、京都大学みさき臨海実験所の特別報告書が出版された。『タイ型魚類の研究−形態・系統・分類および生態』という題名で、著者は当時京都大学農学部水産学教室にいた赤崎正人博士である。この特別報告書ではじめて記載されたのがミナミクロダイで、このように新しい学名をつけられたものを「新種」という。ミナミクロダイは、1962年に新種として記載されたのだ。
            ■
■琉球列島から台湾、中国にかけて、背鰭棘条部中央下側線上方横列鱗数が4.5枚のクロダイ属がいる。背鰭棘条部中央下側線上方横列鱗数(TRac)というとややこしいが、背鰭の棘の真ん中まで、小さな鱗をふくめて側線の上にある鱗を数えるとよい。クロダイ属の背鰭棘は11〜12本あるので、前から6本目あたりの棘の下の鱗を数えるとよい。背鰭のすぐ下の小さな鱗は0.5枚と数える。この鱗数が5.5枚以上ならクロダイ、3.5枚ならキチヌかナンヨウチヌだ。何の問題もない。これが4.5枚の「くろだい」になると、俄然、話はややこしくなる。
■琉球列島には、クロダイとキチヌはいなくて、鱗数が4.5枚の「くろだい」しかいなかった。それを赤崎博士が新種として1962年に発表して、まあ、めでたしめでたしだった。ところが、ミナミクロダイに似ているのだが形態的に分離できる「くろだい」もいて、それを赤崎博士はオーストラリアの Acanthopagrus australisと同種だとし、オーストラリアキチヌという和名を『日本産魚類大図鑑』(益田一・ほか編、1984)で提唱した。
■「ミナミクロダイ」とそれから分離できる「極東のオーストラリアキチヌ」と「オーストラリアのオーストラリアキチヌ」の3種は、それからややこしくなった。
            ■
■赤崎博士が、いちばん最近に書いた図鑑の記載を見てみる。『日本の海水魚』(岡村収・尼岡邦夫編、1997)でミナミクロダイは「奄美・琉球列島の固有種」と書いている。「オーストラリアキチヌ」を赤崎博士は、この図鑑から消した。オーストラリアのオーストラリアキチヌと極めて類似しているが「若干の差異につき現在検討中である」とし、「おきなわきちぬ」という新称を提唱してしまったのだ。ちょっと提唱の仕方が乱暴なので、よけい混乱を招いてもいけないから、しばらく1984年に提唱され定着している「オーストラリアキチヌ」という和名を使う。赤崎博士は分布は琉球列島としている。
■「琉球列島」という用語は魚類学ではよく使われる。ただし、きちんと定義された言葉ではなく定義らしいものといえば『魚類図鑑・南日本の沿岸魚』(益田一・ほか著、1975)の解説に−−従来慣用されていた「南西諸島」の代りに、「琉球列島」を用い、これにはトカラ列島から八重山諸島南端までが含まれる−−と書かれているくらいのものだろうか。とにかく屋久島、種子島までは日本の魚類相の本土圏内であって、トカラ列島より先が違うという「常識」のようなものはある。簡単にいうと琉球列島の海中は「熱帯」であり、屋久島・種子島以北の海中は「温帯」なのだ。ただし、ご存じのように、この海域は黒潮がまともに流れるところであり、単純な線引きはできない。季節により「亜熱帯」ラインはふらふら移動し、大きく、北上したり南下したりする。
            ■
■ミナミクロダイとオーストラリアキチヌの違いを、おさらいしておこう。はじめがミナミクロダイの特徴、そして()の中にオーストラリアキチヌの特徴を書く。
■体色は黒っぽい(体色は白っぽい)
■腹鰭と臀鰭は暗灰色(腹鰭と臀鰭は淡色)
■臀鰭中央は暗色(臀鰭中央が黄色いのもいる)
■尾鰭は全体に黒っぽい(尾鰭後縁が黒いのもいる)
■背鰭は全体に黒っぽい(背鰭縁辺が黒いのもいる)
■ということだが、なんともいえないものも多い。またいまのところ別種に間違いないともいえない。同種内の型、もしくは老成魚の形質と考えられないこともない。この2種はいろいろな特徴を複合的に組み合わせ、やっと分離できる。それでも沖縄の釣り人が「ちん」と「ちんしらー」と分けているので別種だろうと思う。よく魚を見ている釣り人の眼は漁師や研究者と同じく鋭い。
            ■
■外国では、この2種をどう扱っているのだろうか。
■琉球列島から連なる台湾の魚類図鑑を見よう。『臺灣魚類檢索』(沈世傑編、1984)は、クロダイ、キチヌ、ナンヨウチヌ、ミナミクロダイの4種を収録、クロダイは「ごく普通」に見られ、それ以外は「やや珍しい」となっている。ミナミクロダイの産地は台湾の東北部と蘭嶼海域。それが同じ編者の『臺灣魚類誌』(沈世傑編、1993)になるとミナミクロダイは消され、かわりにオーストラリアキチヌがはいり、ミナミクロダイに似ていると注記され、台湾南部で発見が予想されるがまだ見つかっていないとなっている。写真にはオーストラリア産のオーストラリアキチヌが掲げられている。中華人民共和国の『福建魚類誌・下巻』(1985)を見るとクロダイとナンヨウチヌとキチヌの3種のみが収録されている。
            ■
■ふう。ややこしいね。しかし台湾の魚類図鑑の扱いから見て現在のところミナミクロダイは琉球列島の固有種としていいのかもしれない。いや、そうしかできないだろう。オーストラリアキチヌは東アジアから琉球列島まで広く分布する可能性がある。香港で釣りあげ標本にした「くろだい」もオーストラリアキチヌだと思われる。そして、このオーストラリアキチヌは、オーストラリアのオーストラリアキチヌとは別種だと思われるのだ。
            ■
■東アジアにもう1種、鱗数4.5枚の「くろだい」がいるとされる。1962年の赤崎博士のミナミクロダイの原記載の前のページに「からちぬ」という新称が提唱されている。中国の北部と中部沿岸に生息するとし、その形態記載は香港の「オーストラリアキチヌ」とよくあう。またミナミクロダイの原記載には、ミナミクロダイは多くの点で「からちぬ」に最も近縁であると書いている。
■ああ赤崎大先生、ミナミクロダイは、いったい、どう考えたらいいのでしょうか?
■赤崎正人元宮崎大学教授、「タイ科の赤崎」は1999年5月12日、73歳で永眠された。ご冥福をお祈りいたします。いちど長崎で夜をご一緒した。ぼくのようなアマチュアには親切で、好々爺であったが、厳しい先生であったと聞く。日本人にとって海外など「夢のまた夢」だった時代、世界中からタイ科の標本を集め、広い視野で研究し、記載された。標本に欲しい魚が水族館で泳いでいると毎日通って睨み、ついに手に入れた「赤崎の睨み殺し」という「伝説」まである。クロダイ属のお話を伺いに行こうと思っていたのに聞けなくなってしまった。
■赤崎博士以後、クロダイ属は総合的には研究されていない。「何ともいえない」状況はしばらく続くだろう。
            ■
■1999年9月20日、鹿児島県種子島に行った。地元の釣り人たちは異口同音に、クロダイはいる。本土とまったく同じだよ。それとキチヌもいるということだった。
■釣りあげた「くろだい」の幼魚はミナミクロダイだった。いや、鱗数4.5枚の「くろだい」だった。やはりクロダイより白っぽく、一目で違うとは思うけれど慣れないと見分けがつかないかもしれない。ぼくは幼魚を見分けたことがなく何ともいえないのだが、どちらかといえば「オーストラリアキチヌ」ではないかと思った。
■1999年7月19日、沖縄の屋我地で釣れた「幼魚」と、それはそっくりである。これはミナミクロダイなのか、オーストラリアキチヌなのか。わからない。
■まあ「謎」は「謎」だからこそ、おもしろいのだが。

初出●『ちぬ倶楽部』1999年12月号