さかなBBSトップ
魚のことならおまかせ。WEBさかな図鑑
釣具の通販・Gear-Lab
HOME 似たもの検索  携帯版  | Gear-Lab

新コミュニティ(掲示板)オープンのお知らせ

WEB魚図鑑では、2013/7/25より新しいコミュニティをオープンしました。 「このお魚何?」というQ&A専用のページもあります。是非新しいコミュニティを使ってみてください。新コミュへの投稿はズカンドットコムへのアカウント登録が必要です。2013年1月以前にWEB魚図鑑へ投稿したことのある方はアカウントの引き継ぎを行うことができます。


[このスレッドを表示]

[2162] 棘鯛の系譜4>キチヌ 
2002/9/5 (木) 12:10:08 小西英人
◆画像拡大
キチヌ■2000年5月22日 鹿児島県小湊


 棘鯛の系譜の4、キチヌを転載しますね。

                           英人
■『釣魚図鑑』(小西英人・2000年)より転載
==============================================
魚あれこれ■棘鯛の系譜4


西太平洋とインド洋に広がる。熱帯の魚だという
キチヌ■


■謎が謎呼ぶ汽水の黒鯛


==============================================
■海水魚は、あの塩辛い水を、がぶがぶがぶがぶ、がんばって飲んではるって知ってただろうか?
■淡水魚は、食道の括約筋をぐっとしめ、がんばって水を飲まないようにしてはるって、知ってただろうか?
            ■
■ふつう、海水魚を淡水に放りこむと死んでしまう。反対に淡水魚を海水に放りこんでも死んでしまう。これは体内の「浸透圧」の調整ができないからだ。
■あらゆる動物は「体液」で満たされているが、この体液の浸透圧と電解質組成を一定に保たなければ生きていけない。水中にすむ生物は周囲の浸透圧を直接体表で受けてしまう。魚類の体表面の大半は鰓がしめ、その鰓はその呼吸のために、透過性の高い一層の扁平上皮からできているので、水分や塩分は勝手に通ってしまう。
■簡単にいおう。
■海水魚は周囲の浸透圧の方が高く、体内の水が鰓からどんどん逃げだして「しぼんで」しまう。だから、どんどん水を飲んで、しぼんでしまわないようにしている。そして摂りすぎた「塩分」は、鰓に特に発達している塩類細胞から排出する。尿は少ししか出さない。
■淡水魚は周囲の浸透圧の方が低く、まわりから水がどんどん入ってきて「水ぶくれ」になってしまう。ほとんど飲まないようにして、水ぶくれにならないようにしている。そして「塩分」は鰓から取り込む。鰓から体内に入った水分は尿として多量に出してしまう。
            ■
■水中の生物は、海水と淡水でこのように劇的に状況が変わってしまう。入れ替えると「ふつう」は死んでしまう。このように、死んでしまう魚を「狭塩性」の魚という。しかし平気な魚もいる。海水と淡水を行ったり来たりする魚たちだ。浸透圧の調節器官の機能をうまく切り替えることができる魚たちを「広塩性」の魚という。
■黒鯛たちは「広塩性」だ。
■海水と淡水を行ったり来たりするとは一種の回遊である。マグロのような「海洋回遊」と区別し、この回遊は「通し回遊」と呼ぶ。通し回遊を細分しよう。
■遡河回遊=サケ科の魚など=河川で孵化し海で成長して河川に産卵にもどる。
■降河回遊=ウナギなど=海で孵化し河川で成長して海に産卵にもどる。
■淡水性両側回遊=アユなど=河川で孵化し海で成長し河川でも成長して産卵する。
■海水性両側回遊=ボラ、スズキ、キチヌ、クロダイなど=海で孵化し河川で成長し海でも成長して産卵する。
■この海水性両側回遊魚というのは、日本には少ないのだが、稚魚期に河川に入って成長するボラ、スズキ、キチヌ、クロダイなどは、この仲間にいれてもいいくらいの生活史を持っている。
■それでは、なぜ、塩辛い水をがぶ飲みしたり、水を飲まないようにがんばったり、そんな「ややこしい領域」に魚は、わざわざ踏み込んでいくのだろうか?
            ■
■世の中に賢い人はいるもので1987年に出されたグロスの回遊進化仮説がおもしろい。
■熱帯域では海より河の方が生産性が高いので海水魚から淡水魚へ移行する方に、温帯域では反対に海の方が生産性が高いために淡水魚から海水魚へ移行する方に「通し回遊」は進化するというのである。
■熱帯では、海水魚→広塩性回遊魚→海水性両側回遊魚→降河回遊魚→淡水魚に。
■温帯では、淡水魚→広塩性回遊魚→淡水性両側回遊魚→遡河回遊魚→海水魚に。
■それぞれ進化が進みやすいというわけだ。降河回遊の代表であるウナギはたしかに熱帯性であり、日本に海水性両側回遊魚が少ないのもうなずける。ボラや黒鯛類は熱帯に行くほど川の中で生活していることが多い。遡河回遊の代表であるサケ科魚類はたしかに冷水性であり、淡水性両側回遊魚のアユは日本でふつうに見られる。
            ■
■これらのことから、黒鯛の仲間は熱帯起源であり、そのため淡水にはいる傾向を持っているのだろうか。キチヌが熱帯地方を中心に広い分布を持ち、いちばん北に勢力をのばしたクロダイよりも淡水を好むのは、こういうダイナミックな「進化」を物語っているのだろうか。
            ■
■クロダイも謎の多い魚だが、キチヌは、もっと謎が多い。生活史や生態など、ほとんど知られてはいない。
■産卵場所や産卵生態はわかっていない。さまざまな情報を総合すると、南日本での産卵期は9〜11月であり、盛期は10月だと思われる。クロダイが春に産卵する黒鯛だとしたらキチヌは秋に産卵する黒鯛なのだ。そしてクロダイと同じように「性の分化」が見られる。
■クロダイ属の見分けで、よくいわれる背鰭棘条部中央下側線上方横列鱗は3.5枚であり、クロダイは5.5枚以上なので間違うことはない。ぱっと見た目に、かなり鱗のあらいと感じる黒鯛が、キチヌなのだ。
■尾鰭の下葉と臀鰭の真ん中が黄色く、若い間は腹鰭も黄色くて、一目でキチヌと分かるのだが、ここが黄色というより淡色であったり、なんともいえない黒鯛も混じってしまう。3.5枚を覚えておくと間違いない。
            ■
■分布は琉球列島をのぞく本州中部以南で、中国沿岸から西部太平洋、インド洋、紅海、アフリカ東岸と、かなり広いとされているのだが、世界中の魚類図鑑をひっくり返し見比べていると、いろいろ疑問がわいてくる。
            ■
■東南アジア、オーストラリアにいるとされているが、オーストラリアや東南アジアの、ほとんどの魚類図鑑にキチヌの記載はない。やっと見つけたのは西オーストラリア博物館の『マリン・フィッシーズ』のアレン博士の記載。英名はウェスタン・イエローフィン・ブリームとなって、北西オーストラリアと南東アジア、北インド洋と西太平洋にいるとなっている。写真はなく簡単な図で腹鰭と臀鰭と尾鰭がすべて黄色く描かれており、とても違和感があるけれども、図だからなんともいえない。
■もうひとつ見つけたのはアラビア半島のオマーンの魚類図鑑『コースタル・フィッシーズ・オブ・オマーン』でハワイ、ビショップ博物館のランドール博士が書いている。41pの親と、17pの幼魚のランドール博士の写真が載せられているが、親は、ぼくはキチヌに見えない。どちらかといえばオーストラリアキチヌに見えるが、ほんとうに何ともいえない。幼魚もキチヌに見えないこともないがオーストラリアキチヌのようにも思える。どちらも写真が小さいので背鰭棘条部中央下側線上方横列鱗数は数えられない。記載によると、第4棘条部下側線上方横列鱗は4.5枚。日本での数え方は中央下なので第6棘条部下であり、3.5枚になる。数える場所が違うのでなんともいえない。英名はイエローフィン・シーブリームで、アラビア湾から南アジア、西太平洋、そしてオーストラリアから南日本に分布しているとなっている。
            ■
■インド・太平洋域の熱帯と亜熱帯地域に、広く分布するとされているキチヌだが、なにか混乱があるようだ。特にオーストラリアキチヌとの関係は、もういちど、きちんと見直さなければいけないのだろう。
■南日本のキチヌは見間違えない。韓国のキチヌも、中国のキチヌも見たけれどキチヌであった。東南アジアからオーストラリア、そしてインド洋、アフリカにかけてのキチヌは、少し形態が違うのだろうか、オーストラリアキチヌと、かなり似ている部分もあるのだろうか、謎は深まるばかりである。キチヌをキチヌであると証明するのは学名の基準となったタイプと呼ばれる標本と見比べなければならない。キチヌの学名は1782年にホウトタインがつけており模式産地は日本、しかしタイプは知られていない。どこにあるのか分からないのだ。この場合キチヌの国際的な「基準」はないということになる。
            ■
■ああキチヌよ、おまえもか。
■謎は謎を呼ぶばかり。まあいい。世界中のキチヌを、こつこつと釣って見て歩いてやるさ。そのうちにね。


初出●『ちぬ倶楽部』2000年2月号