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[351] 魚あれこれ>ふぐ毒…知られているようで 
2002/3/13 (水) 06:33:59 小西英人
 ふぐ毒。みんな怖いと知っているけど、それならどういうものかと聞かれると、ほとんど知らないでしょう。

 ふぐを食べる日本では古くから研究されていたのですが、ほんとうのところが分かりかけてきたのは、やっと近年のことです。

 それは泥の中にあったのです。

 今回の魚あれこれは、知られざるふぐ毒を転載してみます。

                             英人


■『釣魚図鑑』(小西英人編著・週刊釣りサンデー・2000年)より転載
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魚あれこれ
ぎょぎょ事典F

それは泥の中から命を狙う! のかもしれない

ふぐ毒■

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■瞳孔は開き眼球さえ動かせない。「脳死」の状態になっているのに意識は「はっきり」している。ああああああ…呼吸ができないよう…死んでしまうよう…。そんなめに遭いたくなかったら「ふぐ」には気をつけよう。
            ■
■ヒトという動物は「言葉」の動物なのだろう。なんとなくでも、しっかりした「言葉」さえあれば、いたく安心して「理解」したと思いこむ。いつやら、ふぐの毒って、ようわからん…、なんてつぶやいていると、めちゃくちゃ馬鹿にされたことがあった。なにいってるのん、あれはなあ「テトロドトキシン」なんやでえ。
            ■
■Tetraodontidae というのがフグ科の学名だ。「テトラ」はギリシャ語で「四」のこと、釣り人おなじみのテトラポッドも意味は「四脚」になる。「オドント」はギリシャ語で「歯」であり、「四枚歯」という意味。フグ科の上下の顎の歯は大きく「くちばし」のようになり、中央に縫合線がある。きれいな四枚歯なのだ。
■「トキシン」はギリシャ語で矢毒のこと、いまは動植物が持つ猛毒の「毒素」という意味で使われる。テトロドトキシンとは「四枚歯毒」という意味しかなく「ふぐ毒」と言うのと同じなのだ。薬学では TTXと略される。TTXとは、1909年に田原良純博士により分離、命名され1950年にはじめて結晶化され、1964年になって構造が解明された。動物毒に多い「たんぱく毒」ではなく、植物毒のアルカロイドに似た低分子量の毒であった。
            ■
■動物毒は「神経毒」が多い。神経はナトリウムチャンネルで電気を起こし、伝達するが、このナトリウムチャンネルを遮断するのが「神経毒」であり、筋肉は麻痺して動物は倒れる。ふぐのTTXもナトリウムチャンネルを遮断する。それで、骨格筋が麻痺し、続いて心臓の筋肉が麻痺する。症状でいうと食後20分から3時間で唇や舌が痺れ、それから指先が痺れてくる。頭痛や腹痛が伴うこともある。あと、歩行困難、嘔吐、知覚麻痺、運動麻痺、発声不能、嚥下困難、チアノーゼ、血圧降下、反射消失、呼吸困難、意識混濁などがあらわれる。意識がなくなると呼吸停止し、やがて心臓も停止する。致死時間は1時間半から8時間で、4〜6時間で死ぬことが多い。死因は呼吸麻痺と血圧降下。症状がでると、とにかくはやく救急設備のある病院に運び、人工呼吸器をつけて血圧の昇圧剤をつかえば、およそ10時間で筋肉の麻痺が回復しはじめ、20時間以内に自発呼吸ができるようになるという。回復するとTTXは排泄されて後遺症はない。
■このように筋肉の神経伝達を遮断する毒だから脳死のように見えて、意識がはっきりしている場合もあるという。軽い中毒にかかった人は、車を運転していると明かりがぼやけ「変だな」と思ううちに首が固定できなくなり足も動きにくく、命からがら親戚の家にとびこんで眠ってしまった。翌日、うそのように元気になった。
■内臓の筋肉である平滑筋は神経伝達をカリウムチャンネルでおこなっているようでTTXでは麻痺しない。一撃で骨格筋を麻痺させ敵を倒し、その間に逃げる。猛毒。強烈かつ一過性。動物の神経毒の特徴である。
■TTXは青酸カリの1200倍以上の毒性がある。1972年から1986年の15年間でふぐ中毒の患者は917人、そのうちの253人も死んでいる。この間、ほかの魚介類による中毒の死者は3人だけだ。治療法がわからなかった時代のふぐ毒の死亡率は高かったが、いまは減少している。
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■1945年に九州帝国大學の谷巌博士は北九州産のふぐ類を中心にマウス試験法で季節別、部位別の毒性を克明に調べ「日本産フグの中毒学的研究」を発表した。これが有名な「谷のフグの毒力表」である。ところがふぐが海外から大量に輸入されるようになり、毒力表があわなくなって厚生省は1983年に「安全に食べられるフグの種類と部位」を発表している。いまはそれが基準になっている。とにかく毒があったりなかったりするから難しい。たとえば谷の毒力表でトラフグをみてみよう。
■卵巣=猛毒。
■精巣=無毒。
■肝臓=強毒。
■皮=無毒。
■肉=弱毒。
■その調査個体数と有毒個体数をみてみよう。
■卵巣=16個体中16個体。
■精巣=4個体中3個体。
■肝臓=20個体中20個体。
■皮=20個体中18個体。
■肉=20個体中2個体。
■このようにばらつきがある。TTXは食物連鎖でふぐに蓄積される。だからTTXの量は、その種、その部位、その季節、その場所により違う。これは大丈夫だと、いつも食べていたのに「あたる」こともある。また、ふぐの同定は難しく、分類の専門家でも泣く。「まがい」などと呼ばれる天然交雑種も多くて、それの毒力など誰にもわからない。たとえばシロサバフグは無毒で食べられるというが、これに似る有毒種はかなり多い、絶対に素人同定をしないこと。そして料理はプロにまかせよう。
            ■
■TTXをつくる犯人は最近になって、やっとわかった。
■海洋細菌である。それもかなりの種の海洋細菌がTTXを生産していた。そして海洋底を調査してみると、浅い東京湾の海底からも、8000mの深海底からもTTXを含む泥が採集されたという。海の底はTTXに満ちていたのだ。
■海底には有機物を含む泥がある。この泥を、デトリタスといい、これを食べる生物は多い。魚のような大型生物でもデトリタス食性を持つものがいる、有名なのはボラだ。この「泥」が食物連鎖により、おもにふぐに蓄積されるのだが、なぜ、ふぐだけが蓄積されるのか、どうやって蓄積されるのか、わかっていないことが多い。
■フグ科の魚には、ほとんどTTXがある。あとハゼ科のツムギハゼだけTTXを持つ。フグ亜目のウチワフグ科、ハリセンボン科、マンボウ科はTTXを持たない。ハリセンボン科は、ふぐに見えるので嫌う人が多いがハリセンボン、ネズミフグ、イシガキフグなど大型になり、沖縄地方では鍋にして食べる。かなり美味しいという。フグ目ではモンガラカワハギ亜目のハコフグ科がふぐに似ていると敬遠されがちだが、パフトキシンという体表粘液毒は持つが強い毒ではなく、肉は無毒で美味しい。
            ■
■食べられてしまってから敵を殺しても「丸損」やないか…というのも、長い間、ふぐのTTXの謎であった。ところが、ふぐにストレスを与えると体表からTTXを多量に放出するということがわかってきた。生物はTTXを嫌うようだ。海鳥はふぐをくわえてもすぐにはなす。
■マコガレイとクジメを釣り場で「ぶた猫」に失敬されたことがある。そのときヒガンフグには知らん顔した。TTXは動物の忌避物質であるらしい。ヒトが忘れ「ぶた猫」さえ忘れていない、何かがTTXにはあるのだろう。

初出●『磯釣りスペシャル』2000年7月号