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[4856] 5000>『新さかな大図鑑』って 
2003/2/21 (金) 07:19:23 小西英人HomePage
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■新さかな大図鑑■小西英人編・荒賀忠一・望月賢二・中坊徹次・小西和人・今井浩次著■週刊釣りサンデー・1995年・B5判・560ページ・収録魚種845種・定価6700円(税込み)

 ちょっと宣伝めくから厭だったのですけど、あたりまえのように『新さかな大図鑑』とかいわれても、知らない人もいるでしょうから、ちょっと、ぼくの図鑑三部作を簡単に書いておきます。

 ぼくは1985年に『さかな大図鑑』というのを編んでいますが、このときは荒賀忠一さんに、おんぶにだっこで、図鑑を創らせていただいたようなものでした。この図鑑はベストセラーになったのですが、まあ、ぼくとしては、そうそう魚にのめりこんだわけでもありませんでした。

 その、しんどさを知っていたのに、勇気あるというか、また1995年にやろうとしたのが本書です。

 これは、ぼくの転機になりました。『新さかな大図鑑』を編むまでは、ぼくはただの釣り師であって、とりたてて魚に詳しいと言うことはありませんでした。釣りフォーラムの連中は、よく知っていますが、ぼくが魚魚魚と、寝ても覚めても、魚と言いだしたのは、これ以降です。ぼくは生物学を勉強したこともありませんし、どちらかといえば文科系です。

 これのおかげで、変な釣り師になったのです。渡辺さん、恨むのなら、ぼくではなくて『新さかな大図鑑』を恨んでね。

 まあ、新版を創るといっても、柳の下に、そうそうい泥鰌はいませんし、2号機というのは苦しみます、ほんと苦しみます。苦しみながら、とことんやって、いろいろあって、ついには編集を5週間でやらなければいけないほど日程につまって、事務所で頭が割れるほど痛くなって手が震えだしたら椅子の上で寝るというような、むちゃをやりまして、とうとう高熱を出し、肺炎になり、それでもがんばって、印刷の立ち会いまで40度の熱に浮かされながらこなし、印刷を見届けてから入院して、一週間かかって、やっと熱が下がったら結核菌が検出されて、そのまま療養所、4ヶ月だしてもらえず、やっとでたら、こんどは喫煙による肺気腫と巨大ブラーが見つかって再入院、右肺上葉切除手術をうけて一ヶ月の入院、それから半年の自宅療養と、ぼろぼろになったのでした。

 『新さかな大図鑑』のあがりは、閉じこめられた病室で見たのでした。

 本書の、ぼくの序文と、荒賀忠一さんの序文を引用して紹介を終わりましょう。

                              英人
■新さかな大図鑑■序
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■もの言わぬ魚たちが饒舌に語る”もの”   小西英人

 魚たちは美しい。
 たとえばクロダイの美はシンプルの美だと思う。無駄のない形。あらゆる魚の基本形に近い形。釣り人に騙され、怒り、鰭をいっぱいに張ったとき、釣り人はたまらない。モノクロームの輝き。真っ黒ではない黒がにぶく輝くとき、釣り人は勝利に酔い、ただただ息をのんで見つめることしかできない。
 しかし、そのシンプルの中に、混沌が潜んでいることに、気づいている釣り人は多いのだろうか。
 クロダイは、その体形や、色彩に、さまざまな変異がある。細長いの、丸いの、四角いの、かっこええの、かっこわるいの、さまざまな形をしている。色にいたっては、黒だと思っていた中に、赤いの、茶色いの、黄色いの、青いの、驚くほど多様だ。
 鰓蓋の上部に、黒斑のあるクロダイもいるということは知っていただろうか。その黒斑がインディゴブルーに輝くクロダイもいるといえば、信じてもらえるだろうか。
 釣り人は魚の玄人だから、無意識に、クロダイのようなシンプルな魚を好む。そして、その無意識の眼で、基本の中のさまざまな形、黒の中のさまざまな色を眺めている。混沌はクロダイに限らない。すべての魚がそうだ。自然とは、混沌なのだ。
 すべての魚の、その多様性、そのさまざまな個性を、無意識であったとしても、ほんとうに知っているのは釣り人しかいない。
 いや、釣り人は、ひとりぼっちではない。
 魚類図鑑というのは何かというと、魚類分類学のひとつの成果である。魚類分類学のテーマはさまざまではあるが、大命題のひとつに、なぜ生命は多様な形態をとったのかということがある。いま、遺伝子、生態、行動、生理、さまざまな方向から研究がおこなわれているが、その基本は形態である。
 生命の形態や、色、模様は、自然の厳しい圧力と均衡を保っている。その圧力こそ自然選択なのだ。つまり、形態は自然選択の実際の目に見える姿のひとつなのだ。
 人がその圧力をちょっと変えるだけで、生命はその形態をさまざまに変えてしまう。タガが外れてしまう。厳しい自然選択の圧力の中で、さまざまに形態を変えてきたのが生命であり、生命は、いつも、いまも、変わろうとしている。
 この図鑑を編集する前に、釣りサンデーに眠る膨大な写真のファイルの中から、十万点以上の写真を選びだして、その中から二万点に絞り込み、三人の魚類学者と、ルーペで一点一点確認しながら、議論を尽くした。写真で確認できないものは標本集めもした。その作業は「同定会」と呼ばれ、議論は深夜におよび、時には、コンビニの弁当を食べながら、おおよそ2年にわたり続けられた。そこから最終的に2000あまりの写真が、本書に収められた。
 その作業は、とても、楽しいものだった。それは「釣り」そのものだった。魚類学者も、釣り人も、同じ「ただの魚好き」なのであった。
 よき釣り人は、よき眼を持っていて、ライバルの魚たちの、形、色から、さまざまな自然を読みとっている。無意識に自然にとけこめるからこそ、よき釣り人なのだ。よき魚類学者も同じなのだ。
 この図鑑に、もし功績があるとしたら、それは魚類学者と釣り人の接点を、はっきりさせたところにあると思っている。この図鑑は、大勢の釣り人と、大勢の魚類学者の協力があって、できあがった。
 おたがい、「ただの魚好き」だからこそ、魚をそのまま見ることができ、魚を通じて、自然を考えることができる。無意識であろうと、意識してであろうと、同じことをして楽しんでいる。
 魚は、美しく、多様であり、これこそが生命の最大の謎であって、その謎に、素直に酔えるのが、よき釣り人、よき魚類学者なのである。
 だからこそ。
 自然の美しさ、多様さを知り、豊饒さを知っているからこそ、それらが、われわれの目の前で急速に失われつつあることを知っている。
 数十億年の地球の遺産を、われわれが、一瞬で潰すかもしれない恐怖感に、密かに震えている。
 もの言わぬ魚たちが饒舌に語る”もの”を、はっきりと聞ける釣り人。われわれはひとりではなかった。魚類学者という仲間がいたのだ。
 われわれの魚が、これほど饒舌に語ってくれているのに、まったく聞こえない人たちが多い。われわれの社会の選択は、水圏の多様性を消してしまう方向に動いている。自然が厳しく押さえ込んでいる形態、そのタガを外そうとしている。生命のタガが外れたら、どうなるのか、それは誰も知らない。
 われわれの魚は、われわれが見つめて、われわれが守ろう。そうでなければ誰が守るというのだ。
 それに決意はいらない。魚の語ることに素直に耳を傾け、その美しさを、みんなに伝えていけばいいのだ。楽しめばそれでいいのだ。「ただの魚好き」が増えるだけで何かが変わる。そう思いたい。
 もっともっと魚を見つめよう。
 その美しさに酔おうではないか。未来のために。


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■釣りマニアと魚マニアの図鑑        荒賀忠一

 「さかな大図鑑」で、写真集めに走り回り原稿用紙の山と格闘したのは、つい先日のように思えるが、早いものでもう10年がすぎ、このたび、週刊釣りサンデー創立20周年を記念して「新さかな大図鑑」に生まれかわることになった。これはひとえに読者の皆様のご支援のたまもので、心からお礼を申し上げたい。
 この10年間における魚類学の進歩は実にめざましいものがあり、その結果、旧版の記載の中にも改訂を要する箇所が少なからず見出だされた。本書では最新の業績にもとづき、記載を書き改めると共に、より詳しい情報を提供できるようにした。
 釣りサンデーのスタッフによるカラー写真の資料も、この20年間で膨大なものとなった。私たちが「同定会」と呼んだ作業では、毎回、会議室の大机に溢れかえる写真の山に、腰を抜かしそうになったが、そこは好き者同士、けっこう楽しみながら整理作業を進めた。
 魚類の標本写真は、釣り上げたばかりの生きているものを対象とし、それらの配列は釣りの分野ごとにまとめ、著名な釣り対象魚には多くのページをさくという、旧版の基本方針は本書でも踏襲されているが、次のような目新しい点も少なくない。
 収録動物の種類数のうち、頭足類と釣り餌などの動物は、旧版とほぼ同数であるが、魚類は188種増えて845種となった。
 旧版では、釣りサンデー社にない写真資料を、多くの方々のご好意で提供していただいたが、今回はそれが大幅に減り、言うなれば自前の写真がほとんどとなった。メジャーな釣り魚種に関しては、それらの形態や色彩の多様性に注目していただこうと、“これでもか”というほど、たくさんの写真を載せた。マイナーな釣り魚種や餌動物を加えたカラー写真の総数は2000点を上回り、釣り好き・魚好きの皆様には、必ず満足していただけるはずである。
 外国産魚も旧版よりかなり増えた。これは、近年増加しつつある海外に遠征する釣り人の便宜を考慮したものである。それらは旧版では巻末にまとめられていたが、本書では国内産の近縁種との比較がしやすいように、それぞれの釣り分野ごとに掲載した。各魚種の記載は望月賢二・中坊徹次・荒賀忠一の3名が担当した。科を主とする分類群ごとに分担を定め、各人が得意とする分類群を解説した。多岐にわたる収録種の中には、3人の誰もが不得手なものも少なくなかったが、標本や文献を精査し、専門家の意見も聞いて、手落ちのないように努めたつもりである。
 記載の内容は、旧版では形態よりも生態の紹介に重点をおいたが、図鑑の最も重要な役目である種の同定にさいして、写真では読みとれない形質も少なくないので、本書では形態の解説とくに類似種との区別点は、できるだけ詳しく述べるように心掛けた。さらに、主な釣り対象魚については、ページの許すかぎり多くの情報を盛り込むことにした。そのために、記載には専門用語をあえてそのまま用いた。それらの術語は巻末の「釣り人のための魚類学入門」に説明してあるので、ぜひ読んでいただきたい。
 スズキ科やメジナ科のように、分類学上の再検討が必要と考えられているグル−プに関しては、その問題点を指摘し、問題解決の糸口となるはずの多くの写真を掲載した。また、釣り人だけでなく、魚類学を志す学徒や専門家への便宜も考えて、巻末に魚類の「成長表」と「産卵期表」を付け加えた。
 このような内容は、従来の魚類図鑑では考えられてもいなかった「魚類学上の問題提起」の文献として、本書を位置づけるものと自負する次第である。 もう一つの新しい試みとして、主な釣り魚が含まれる分類群では、より正確な同定の一助として、絵解き式の検索表を掲げた。これを活用していただくことにより、従来ともすればあやふやだった釣り人の皆さんの、魚類の名称に関する知識が向上されれば幸いである。
 旧版の新機軸として、小西和人と今井浩次の「独断と偏見」でなされた五つ星による釣魚評価と食味評価も、その後にいただいた多くの読者や各界のご意見をとり入れ、かなりの修正を加えた。
 本書の編集は旧版と同様に、小西英人が1人で担当した。ここ数年、彼の魚類学に関する造詣はとみに深まり、専門家であるはずの私たちがやり込められることもしばしばであった。それだけに本書に対する彼の思い入れは並々ならぬものがある。編集者の熱意には執筆者も巻き込まれて当然。というわけで、本書の内容にかなりマニアックな点があることは否定できまい。
 とはいえ私たちの「思い入れ」が、良い意味で読者の皆様に受け入れられ、今まで以上に魚類の姿やかれらのすむ自然への思いを深めていただければ、執筆者一同の喜び、これに過ぎるものはない。
 また、数々の新しい試みを取り入れた本書には、不備な点も少なくないと思われる。将来、これをますます充実した内容にするため、読者の皆様の手厳しいご意見・ご指摘をお願いする次第である。