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[4858] 5000>『釣魚検索』って 
2003/2/21 (金) 08:32:55 小西英人HomePage
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■釣魚検索■小西英人編・中坊徹次監修・中坊徹次・岩田明久・波戸岡清峰・高崎冬樹・小西英人著■週刊釣りサンデー・1998年・AB判・208ページ・収録魚種625種・定価1900円+税

 これは、ムック、いわば雑誌形式であるし、図鑑としては小さい物だが、ある面で言えば、とても苦労しました。編集作業だけで、みっちり六ヶ月かかり、中坊さんとも、大喧嘩しながら創りあげたのです。しかし、中坊博士のような魚類分類学の泰斗が、釣り人のために、写真でキーを示しながら落としやすい本を、真剣に考えてくれたのは嬉しかったし、いっさいの手を抜かず、いっさいの妥協を許さず、ぼくと、がっぷり組んでくれたのは、ほんとうに嬉しかたのです。また、これほど知的興奮を味わいながら創った本も珍しい。

 『新さかな大図鑑』は釣り種別に魚を配置しました。ということは、同じフグ科でも、波止釣り、投げ釣り、船釣りなど、分散して収録されています。

 未知の魚を釣って同定するのが難しい本ではあるのです。

 『釣魚検索』は、その同定に特化した本です。分類群ごとに、部分写真でキーをたどりながら、二分岐で、選択をしていくと、自動的に目的の魚に落ちるという物です。解説は基本的にありません。『新さかな大図鑑』の解説ページをいれています。名前を知るための本と割り切ったのです。それでも、これは、ほんとうに本としてまとまるのかと、怖がりながら、それぞれの研究者と大喧嘩しながら、創りあげていきました。

 じつは、このとき、まだまだ体調が悪かった。結核の後、右の腋をざっくり切って肺の摘出をしたのだから、予想以上に体はダメージを受けていました。いつまでも、ぐずぐずするのは厭だったので、リハビリもかねて、やろうということになったのです。それが、中坊さんとふたりで、打ち合わせを始めると、どんどん尖っていってしまいました。

 ぼくの敬愛する、ある編集者に献本したら、ある面、『新さかな大図鑑』より力仕事だったでしょう、凄いことするなあと礼状をもらい、分かる人には分かるんだなあと嬉しかったのです。

 これも、ぼくの序文と、中坊さんの序文を引用して、そのあとに図鑑類のことを書いた『快投乱麻』もいれておきましょう。

 そうそう。ぼくの序文の最後は、ほんとうは、…すべて善き釣り人たちよ。愛する神は「細部」に宿り給う。…としていました。自然科学者としての中坊博士に、徹底的に嫌われまして、自然科学の本に、言葉だけだといえども宗教を持ちこむなとおこられちゃったのでした。

                             英人

■序■小西英人

■釣り名人や漁師さんは、ぱっと見て魚を見分けます。長く海辺で過ごしてきたから、好きな魚も、嫌いな魚も、水面で暴れるのをちらりと見ただけで、どういう魚か、分かってしまいます。どこを見ているのか意識していないでしょう、ぱっと見たら魚が訴えます。印象です。
■風と波と潮と…。気まぐれな地球の刻々と変わる自然の中で、すいすい泳ぎまわっている魚たちを、そういう「勘」で読み解くには、それだけの「時間」がかかります。気の遠くなるような時間を、地球のリズムにゆだねて、やっと、ぼんやりとした勘が働くのです。魚を知るのに王道はありません。長い長い時を、海と過ごさなければなりません。
■「王道」はありませんが「ヒント」はあります。魚の全体印象というのはとても重要ですが、その印象は細部からきます。美術の分野で「ディテール」といいますが、「細部」こそ「全体」を決めてしまいます。マアジとマルアジに迷ったとき、ある研究者が「ぜんご」の違いを教えてくれました。眼から鱗がぼたぼたっと落ちたのです。それで全体も見えてきました。はじめは「ぜんご」に頼っていても、ぱっと見て分かるようになったのです。そう「細部」こそ最大の「ヒント」なのです。
■「ヒント」に満ちた魚の名の分かる本が欲しい。その時、強烈に思いました。ほんとうに魚が大好きで、いい眼を持つ善き釣り人が集えるように。それが「釣魚検索」です。この本にいっぱい詰まった部分写真は「細部」なのです。三人の研究者が、ぼくたちに分かるように、苦労して考えてくれた最高の「ヒント」最高の「細部」を、お届けします。
■すべて善き釣り人たち。細部から、魚、海、地球を見つめてみよう。


■序■中坊徹次

■名前を知ると、その魚に親近感を覚えませんか。「釣魚検索」は、できるだけ早く魚の名前を正確にしらべることができ、多くの人に魚に親しみを持っていただけるように作られています。
■海のなかにはいろいろな魚がいます。彼らをていねいに見てやると、お互いに大変よく似ているけれども別々の種類である、というのにしばしば出合います。魚に近づこうと思えば、名前を知ることが第一歩なのですが、そのためには、このようなものたちの違いを知らなければなりません。
■しかし、よく似ている種類を見分けるにはちょっとした知識と経験が必要です。この本は、そういう「知識と経験」を写真をつかった「検索」というやり方で、皆さんに提供しています。こうすると、なにも特別な知識と経験は要らなくなります。釣った魚を見て、「釣魚検索」を開くだけでいいのです。
■検索という耳慣れない言葉も、コンピューターの普及ですっかりお馴染みになっていますので、とくに説明は要らないと思います。鍵になる特徴を魚の部分写真で示してあります。それらをたどればいいのです。あるいは、終点に示した魚の全体写真から特徴を確かめながら、検索を逆にたどってもいいのです。いろいろなやり方で、魚の名前をしらべることができます。
■名前を知るということは、その魚を理解することです。釣りを通じて魚とつきあうには、相手をよく理解することが必要です。「釣魚検索」を使って釣った魚の正しい名前を覚えていただけることを願っています。


■快投乱麻■No.29週刊釣りサンデー2000年9月3日号より
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魚に遊ぶ。新世紀の釣りは楽しく

間奏曲B
『釣魚図鑑』で書斎におこもりだぞの巻

■三十歳で『さかな大図鑑』を創った。四十歳で『新さかな大図鑑』を創った。そして四十三歳で『釣魚検索』を創り、四十五歳のいま『釣魚図鑑』を創ろうとしている。これほど図鑑にのめりこむようになるなど、夢にも思っていなかった…。
       ■
■釣り人は、「研究者は何も知らない」といいたがる。あれは「専門ばか」であり専門以外は何も知らないといいたがる。釣り人の、ほんとうに欲しい情報を教えてくれないという「もどかしさ」もあるのだろうか。
       ■
■生意気な釣り人、ぼくの頭をがつんと叩いてくれたのが『さかな大図鑑』だった。いや当時京都大学理学部付属瀬戸臨海実験所にいた荒賀忠一さんであった。右も左もわからない素人のぼくに、気長に懇切に魚の「いろは」を教えていただいた。
■魚のことについて「知った」といえるほど知っている人はいない。魚は「永遠の謎」だ。たとえばクロダイ、これほど身近な魚であっても、生態はわからないことの方が多い。海の中でどんな産卵をするのか、見た人は誰もいないのだ。
■知るための第一歩は、情報を整理して名前を知ること。それが魚類図鑑の役目なのだ。そんな「第一歩」さえ、ままならないのが「魚」なのである。
       ■
■かなり苦労したけれど『さかな大図鑑』はできあがった。六百五十七種の魚を、すべて写真でいれて、釣り人の好きな魚を大きく、嫌いな魚は小さくあつかうという「変てこ」な魚類図鑑を懸命に創ったのだった。
■大反響であった。うれしかった。ぼくの創ったもので、これほど「釣り人」が受け入れてくれたものもない。発売直後から増刷増刷増刷で、印刷を担当した図書印刷から「月刊誌」のようですなあと喜ばれた。
■二十刷までいき、十二万部を超える魚類図鑑としては日本の出版界でも空前のヒットとなった。もちろん売れたのは嬉しかったけれども、これだけ支えてくれた「釣り人」の熱い意気を実感でき編集者冥利、そして釣り人冥利につきると思った。
       ■
■図鑑は生きている。いまだに『さかな大図鑑』を見て問い合わせを受ける。嬉しくはあるのだが、さすがに「古く」なり、内容的にも無理がある。魚類図鑑の分類学的な知識は「変わらない」と思われがちだが、なんのなんの日進月歩で変わる。
■そこで『新さかな大図鑑』を企画した。ものを創ったことがある人はわかると思うが、「産みの苦しみ」というのもきついけれど、「パート2の苦しみ」というのは、もっときつい。
■悩みに悩んだ。荒賀さん、千葉県立中央博物館の望月賢二さん、京都大学の中坊徹次さん。研究者たちと何度も何度も議論し、とにかく『さかな大図鑑』でできなかった、細かいところをリファインするという地道な作戦にでた。写真を徹底的に洗いなおした。何度も何度もやった。成長論文をすべてあたり、成長表をつくるような作業もした。そのうちに見えてきたのは釣り人の苦手な「検索」をいれようということと種の「はば」を、つまり「変異」を写真で示せないかということだった。
■それは「遊び」からはじまった。膨大な写真の整理をしながら、ぼくと、中坊さんは、いつも遊んでいた。たとえばクロダイとキチヌの写真を似た形態の順に並べると、境界が消えてしまう。キチヌのようなクロダイもいれば、クロダイのようなキチヌもいる。典型的なクロダイから典型的なキチヌまで、ずらりと見事に並んでしまう。
■「おもろい、おもろい」
■いつも、ふたりで大騒ぎしていた。最終段階になったとき、これを目玉にしませんかと研究者に提案した。変異をずらりと並べる図鑑を創るのである。
■図鑑とは「教科書」であり、典型的な魚を示すのが筋だ。そんな「人心を惑わす」ようなことをしてはいけない…。荒賀さんのきついお叱りである。
■「悪戯」を叱られた小僧っ子のように「しゅん」となった。しかしアイデアを忘れられなくて、クロダイで二十四点、キチヌで十六点の写真をいれた「変異図鑑」とでもいうような試作品を内緒で創り、その色校正を研究者にいきなり見せた。
■「おもしろいやんか!」
■あのときの荒賀さんのぱっと輝いた笑顔を忘れない。八百四十五種の魚を千七百四十七点の写真で「表現」した『新さかな大図鑑』誕生の瞬間である。
■幸せなことに「パート2」も釣り人は受け入れてくれた。五年間で七刷、七万部を超えた。怪物『さかな大図鑑』が「みすぼらしく」見え、絶版させるのに十分のパワーがあった。
■一年以上、寝食を忘れ書斎にこもり写真と文献を渉猟し、釣りにも行けなかったが釣り以上に「エキサイティングな釣り」を、経験させてくれた。
       ■
■次に中坊さんと練った悪戯、「悪巧み」が『釣魚検索』だ。『週刊釣りサンデー』に『似たモン魚譜』というカラー連載をし『磯釣りスペシャル』に『ウオっち』という連載をしながら議論し研究した。世界でも初めてだと思われる写真による「キー」だけで「落として」いける写真図鑑である。これも苦しんだけど、中坊さんと、がっぷり四つに組ませていただき知的な興奮があった。これほど独創的な図鑑も珍しいと思うが、またもや受け入れてくれ十万部を超えてしまった。ぼくはほんとうに幸せな「釣り人」である。
       ■
■『釣魚検索』は徹底的に、そぎ落とした。六百二十五種の魚を同列にあつかい、見開きに一覧し、写真のキーで落とす。名前を知るという図鑑本来の目的に特化させた。いい物を安く。普及価格にする策でもあった。解説は『新さかな大図鑑』を見てもらえばいいと割り切り、それのページを示したのだ。
■これでいいのだろうが、釣り人が知っていなけりゃ「恥ずかしい」魚の解説を「気楽に」読みたいという声もあった。解説と、釣り人の重要な魚の「似たモン」の見分けに割り切った図鑑を創ろうと思いたった。『磯釣りスペシャル』に連載している『ぎょぎょ事典』と『ちぬ倶楽部』に連載していた『棘鯛の系譜』もまとめて、見て読んで楽しめる魚類図鑑を創ろう。
       ■
■釣り人としての、ぼくのライフワークは「釣り人」のみなさんが教えてくれた。新世紀を遊べる図鑑を創ろうと思う。これからまた「おこもり」である。しかし、これは、ぼくの釣り以上の「釣り」なのである。