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[4861] 5000>『釣魚図鑑』って 
2003/2/21 (金) 08:59:42 小西英人HomePage
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■釣魚図鑑■小西英人著■週刊釣りサンデー・2000年・AB判・160ページ・収録魚種277種・定価1900円+税

 ぼくは昔気質の紙の編集者であります。

 いま編集者といっても、いろいろあって、ほんといろいろなんだな。

 けど、いちばん大事なことは、出版の企画です。いまは、これだけに特化した編集者が多くて、この編集者の号令のもとに、レイアウターやら、デザイナーやら、コピーライターやら、なんやかかんやら、ちゃらちゃら集めてプロデュースするのが、エディターであって、アートディレクターのようになってきています。カタカナでいって、かっこいいのが編集者というものであるらしい。

 けんども、編集者はディレクターとして、すべてに精通していなければいけないと思うし、できればやるべきだと、ぼくは思っているのです。

 ぼくは、わがままなのかもしれないとも思います。だいたいカメラマンになりたくて、フリーカメラマンについて修行したこともあるから、なんでも、自分でやりたがるのです。けど、いまの世の中で、ひとつの本の企画制作出版まで、ひとりでやれるということは、ほとんどありません。

 そういう意味では、図鑑を、ぜんぶ、企画、編集、デザイン、装丁、なにもかもやっちゃえるのは、幸せかもしれません。『さかな大図鑑』『新さかな大図鑑』『釣魚検索』すべて、そうです。

 『釣魚図鑑』は、記載までやっちゃったから、なにもかも、ぼくがやって、なにもかも、ぼくの責任です。

 まあ、機嫌良く、創らせてもらいました。

 これも序文と、できあがったときの『怪投乱麻』改めまえの『快投乱麻』から引用して紹介にかえますね。

                          英人

釣魚図鑑■序
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新世紀を言祝ぐ■
■小西英人

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■一月一日午前零時、慶応義塾で送迎会。一月二十二日イギリスのビクトリア女王が没し、三月十一日国木田独歩は『武蔵野』を発表し、四月二十九日裕仁親王が誕生され、九月七日義和団事件最終議定書が調印され、十月十八日海軍省は無線電信機を兵器として採用。ドイツのレントゲンはX線発見で第一回ノーベル賞を授与され、オランダのド・フリースは突然変異説を発表し、アメリカのスタンフォード大学初代総長、生物学者のジョルダンはスナイデルとともに、マガレイ、チョウチョウウオなど、七十七種の魚類の新種記載論文を発表した。明治三十四年。一九〇一年。かくして今世紀は始まった。
            ■
■釣りは楽しい。いま、太陽の下で弾けるように輝くことってあるだろうか。命を相手に思いっきり力をだしてへとへとになることってあるだろうか。そして釣り人の勝利は好敵手の死を意味する。最後の命を輝かせ断末魔にうちふるえる彼を見つめる。彼の死を無駄にはしないきちんと食べる。それが海洋民族日本人の心意気だ。
■いま日本人は「殺す」ことをしなくなった。自分の食べるものさえ「殺す」ことはなくなった。誰かが、どこかで殺してくれた「安全」なものを食べるのが、ふつうになってしまった。「殺す」ことを経験しない「新日本人」たちが増え自然と共生できるのだろうか。動物としての「ヒト」を忘れて生き残っていけるのだろうか。
■激動の二十世紀はX線発見の栄誉をたたえることから始まった。科学技術の勝利の世紀のはずだった。それが大量殺戮に向かい、地球環境の徹底的な破壊に走るなど想像もできなかっただろう。日本も上を向いて走ればよいころだった。ヒトはすべてに勝利するはずだった。
■魚を見つめたい。海で。そこから、なにか見えてくるのではないだろうか。魚の賢さに酔い、力に酔い、美しさに酔い、多様性に酔い、自然の精妙さに酔いしれたとき、新しい「地球共生系」の世紀が見えてこないか。
            ■
■新世紀を言祝ごう。新しい日本と海の姿を決めるのはぼくたちである。問題は山積している。しかし新しいキャンバスに新しい絵を、みんなで描こうではないか。
■一月一日午前零時。さてなにから始めていこうか…。
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■快投乱麻■No.37週刊釣りサンデー2000年12月24日号より
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民族技術。それを忘れたくはない

釣魚図鑑
分類学は元気いっぱい動いているぞの巻

■IT業界のような秒進分歩ではないが、魚類の分類学は日進月歩なのである…というと、へえと驚くあなたはふつうだ。生物の研究者の中でさえ、分類学というのは、よく知られていなくて、黴のはえた博物学、生物学ではなくて死物学、などなど陰口をたたかれてしまう。
■なんて、いつも偉そうに憤慨してたのにそれを『釣魚図鑑』で思い知らされちゃった。
       ■
■一九九五年。『新さかな大図鑑』は、八四五種の魚の解説と主要魚種の変異を並べ釣り人の魚類の基礎文献にしたかった。一九九八年。『釣魚検索』では六二五種の魚の写真検索と同定に力を入れた。素人による同定を可能にしたかった。
■いま。『釣魚図鑑』は「読んで楽しむ図鑑」にしようと思った。二七七種の基本的な魚の解説と最新情報。主要魚の似たものを並べて見分ける目を養うこと。そして週刊釣りサンデーの隔月刊誌『ちぬ倶楽部』に連載した日本産クロダイ属五種を詳しく解説した「棘鯛の系譜」を書き直して収録。もうひとつの隔月刊誌『磯釣りスペシャル』にいまも連載している「ぎょぎょ事典」を書き直して収録。魚類の分類学を中心に、生態学、薬理学、行動学、生理学、集団遺伝学、動物地理学、さまざまな分野の最新知見を簡単に紹介して読み物としてまとめた。
■釣り人のみなさんに「魚」を楽しんで欲しかったのだ。
       ■
■いま。海を体で感じ、なおかつ魚を殺している日本人といえば漁師さんと釣り人しかいなくなった。漁師さんはエリートでないとできない。釣り人ならぼくのような「ただのへぼ」でも好きならばやっていられる。ヒトは動物だ。食べるものは、自分で屠って自分で料理できなければいけないのではないか。
■ぼくはモンゴルの草原でモンゴルの人たちが、小さなフォールディングナイフ一本だけで羊を屠って解体したのに驚いた。三十分ほどですべて終わり、草原に血の跡ひとつ残さず、物欲しげにきた痩せこけた犬に投げ与えたのは脾臓だけ、あとはすべて食べるか利用する。それはいまもチンギスハーンの定めた作法通りに行われる。騎馬民族の技術であり、誇りだ。
■われわれ海洋民族の誇りは、魚の解体と料理と食べ尽くすことにあるのではないか。それこそ日本人のアイデンティティーではないのか。羊を三十分で解体するのと同じような凄い民族のテクニックをわれわれは持っている。これは世界に誇れる技術なのである。そう思う。それは釣り人が伝えなければ、プロのみの技術になり、民族としての技術ではなくなってしまうのではないか。そう思う。
■魚を釣って楽しみ、魚を食して楽しめば、新世紀、われわれの生きていく道は、おのずから拓けていくのではないか。ただでさえ楽しい釣りに魚をめぐる知識の輝きがあればもっといいのではないか。釣りを通して魚を多角的に、ただただ楽しんだだけでも、見えてくる大切なものがあるのではないか。
■それが、『釣魚図鑑』の基本的なコンセプトなのである。
       ■
■アユやカツオ、マグロなどに「第三の眼」がある。そしてそれはヒトにもあるという…。
■シガテラ中毒って聞くけど、いったいどんな毒だろう…。
■魚にいろいろ寄生虫がついているけど、これはいったい、どういう動物なんだろう…。
■放流はいいこととされるが問題ないか、また人工種苗の放流マダイは見分けられるの…。
■刺されて痛い毒って、どんな毒で治療法はあるのか…。
■魚の眼は前方を見つめてピントを合わせているらしい…。
■ふぐ毒って、どんな毒で、中毒すると、どうなるのか…。
■魚に耳はあるのか、また、どんな音を聴いているのか…。
■匂いと味を魚は、どのていどわかっているのだろうか…。
■こういう話題を追いかけたのが「ぎょぎょ事典」だ。
■オーストラリアキチヌ。クロダイの仲間の定義ってなんだろう。また世界にクロダイ属はどれくらいいるのだろうか…。
■クロダイ。クロダイとマダイの違いは。クロダイ属の起原と進化史は。性転換って…。
■ミナミクロダイ。オーストラリアキチヌとの違いは…。
■キチヌ。海水と淡水を行き来する魚の意義とは…。
■ナンヨウチヌ。これの学名から読みとれる、ある博物学者の情熱と紅海の悲劇とは…。
■クロダイをめぐる話を追いかけたのが「棘鯛の系譜」だ。
       ■
■この「棘鯛の系譜」でオーストラリアに棲むオーストラリアキチヌと、沖縄に棲むオーストラリアキチヌ、そしてミナミクロダイの関係は「いまのところ研究者でさえ、しっかりしたことは、なにもいえないという困りもの…」だと書いた。琉球大学理学部海洋自然科学科大学院生の粂正幸さん、吉野哲夫助教授、東京大学海洋研究所の西田睦教授によってオーストラリア産と沖縄産のオーストラリアキチヌとミナミクロダイとナンヨウチヌの遺伝子分析がされ、すべて同じ程度の遺伝的分化が確認された。つまりオーストラリアのオーストラリアキチヌと沖縄のオーストラリアキチヌはやはり別種であり、ミナミクロダイとも別種であると遺伝子からも確認された。(2000年度日本魚類学会年会講演要旨)
■この日本魚類学会年会は神奈川県立生命の星・地球博物館で十月六日〜九日まで行われた。そのポスターセッションという展示発表会場を歩いていたら声をかけられた。クロダイ属の話をするときに、眼を輝かせ、くりくりくりくり動かす好青年、琉球大学の粂さんだった。彼からオーストラリアキチヌとミナミクロダイの識別点をご教示いただいた。ただし、彼の研究は発表されていないので、まだ書けない。とにかく『釣魚図鑑』に書いたことは古くなりそうなのだ。また一九九七年に赤崎正人博士はオーストラリアキチヌを「おきなわきちぬ」という和名に変えようと提唱されたけどその提唱の方法が乱暴だから、しばらく使わないと書いた。しかし十二月二十日に出版されるであろう『日本産魚類検索・第二版』では、この赤崎博士の提唱を受けオキナワキチヌを採用したようだ。世紀末になってクロダイ属研究が動き始めた。
       ■
■今世紀は地球破壊の世紀になってしまった。新世紀は地球との共存の世紀にしなければ。生物としてのヒトを見直さなければならない。『釣魚図鑑』は、はや古くなりそうだけど世紀末に元気な分類学はうれしい。