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[4972] 鳥羽>怪投乱麻>置屋の女将の旦那の釣り 
2003/3/1 (土) 17:27:06 小西英人HomePage
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愛想よし。クジメが慰めてくれた
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■怪投乱麻Vol.90■週刊釣りサンデー2003年3月23日号


三重県
鳥羽市相差の小波止でよちよちの巻

■アイナメの投げ釣りって、やってると置屋の女将になったような気分になるときがある。
       ■
■波止がある。沈礁がある。藻場がある。砂地がある。あれがある。これがある。どこでも釣れそうだなあ。困ったなあ。
■砂地へ遠投しておくと沈礁から遊び歩いてくる放蕩アイナメが釣れるかもしれない。こういう放蕩アイナメは大きいんだなあ。藻場ならアイナメが居ついているかもしれない。駄目でもクジメが相手をしてくれるだろう。沈礁にぶちこんでおくとそこの主が釣れるかもしれない。記録物が潜んでたりしてパワー勝負で引っぱりだしてやる。波止の際にも案外大物が潜む。
■波止の先から砂地の潮目に向けて遠投一本。藻場の真ん真ん中に一本。波止の付け根の沈礁に一本。波止際には小さな捨て竿を一本。ついつい竿の数が増え、ついついあちらに一本こちらに一本、ばらばらに竿を並べてしまう。それらの竿の真ん中あたりにどかんと座って、よしよし、みんな、がんばってやという感じで釣るから、なんか、置屋の女将になったような気がするのである。いいや、置屋の女将の旦那というところか?
■いっそ旦那なら、どてっと安泰にしていたらいいのだが、どうにも、みんなの稼ぎが気になる。ときどき、でばっていき竿を煽ってやる。重くない。巻いてやる。餌はない。河豚に鉤素を囓られている。なんだなんだついつい愚痴がでてしまう。
■どいつもこいつも、お茶ばっかりひいて…。あかんでえ。はよ、ええ客つかまんかいな。
■ぶつぶつぶつぶついいながら欲こいて、ばたばたばたばたしてるうちに終わってしまうのである。一日がね。一瞬にね。
■きっと、釣りとして散漫になってしまうんだ。しかし、ぼくは、こんな欲こいた散漫な釣りも好きだから困ったもんだ。
       ■
■あっ、滑るのに、わかっていたのに、ああっ、あほやなあ!一瞬のうちに、ひどく後悔しながら、こけた。子供みたいに前のめりにばったりと。竿をかばったまま倒れたので両膝と片肘を強かに打った。波止は濡れていたから、痛いのと冷たいのとが一気にくる。独りで釣っていたのに、傍目を気にし、すくっと立ち上がり、誰も見ていないのを確かめ、ほっとしてから、大変だ。痛みがどっとくる。
■ううううううううん。ううううううううううううううん。
■痛い痛い痛い痛い。子供のように、おおいおおい、しゃくりあげながら泣いたら、ましになるだろうか。気持ちがええやろな。なんで、こんな目に遭うねん。アイナメ釣りたいだけやのに。痛いよお。冷たいよお。
       ■
■三重県鳥羽市相差の千鳥ヶ浜にいた。夏は海水浴場になる美しい砂浜の北の端に、沈礁に向かって小さく低い波止がのびていた。先端でやりたかったのだけど、風は強く、波は荒く、潮をかぶって濡れていた。いつも濡れているようで、岩のりでずるずるになっていた。危ないので、波止の根元に陣取り、砂浜に一本、根元に一本、先端に一本、捨て竿を一本と欲ばっていた。先端のずるずるの所にだしている竿は沈礁の真ん中に投げこんでいた。この竿を見にいくと根に掛かっていた。思いっきり煽るが外れない。ずるずるだから、かなり気をつけていたのだが、ふと一歩踏みだして、ちょっと竿を煽る方向を変えようとした。その一歩は前にでず、後ろに滑った。わかっていたのに、ばったりと倒れたのだ。
■ぼくは高所恐怖症だし、怖がりである。いつも気をつけている。それでも竿を持ったりカメラを持つと怖がらない。あほである。ついつい一歩を踏みだしてしまう。何も考えずにね。
■うんうんうんうん唸りながら竿を煽った。ショックでか、根掛かりは外れていた。波止の根元までもどり、餌をていねいにつけて、また先端にでて投げておいた。羮に懲りて膾を吹くようによちよち歩く。いや膝が痛く動けないのが実情であった。みっともなく釣りしている。
       ■
■寒風をついて、ばたんという音が聞こえた。先端の竿が震えて波止を引きずられている。
■慌てるな慌てるな慌てるな慌てるな。心の中で大声で叫ぶ。大アイナメだろう。ずるずるぬるぬるの波止を痛む足をかばいかばい出ていった。大きなアイナメなら食い逃げはしない。
■竿は、まだ引きずられ、ラインと真っ直ぐになって、お辞儀を繰り返している。慌てるなよ慌てるなよ。海にまでは引きこまれないさ。やっと竿尻までいき、やっと竿を持ち、やっと大合わせをくれた。投げ竿は棒のように空を切った。あれあれあれあれ?なんで?空である。
       ■
■アイナメ、よほど機嫌が悪いらしい。あれほどの魚信で鉤に乗らなかったって初めて。竿はがんばってるのに、置屋の旦那が、すぐ動かなきゃ駄目じゃないか。ほんまにもう。しかし、よちよち歩くと間に合わない。そうだ。潮もちょっと引いたし先端で竿を持って、がんばってやればいいんだと思った。ほかの竿はほったらかしである。
■ふんふんふんふん先端で鼻息あらく竿を持ち、それにしても膝痛いなあと思いながら、ちょっとした悪い予感に襲われた。こういうときに、限って…。
■沖を見るとそうだった。大波が来る。一瞬足元を見たがずるずる。走れない。あきらめろ。おとなしく後ろ向きになり。
■ざっぱあああああああん!
       ■
■わかっていたのに。後ろも、どぼどぼに濡れてしまった。さっきは前に倒れて、前はどぼどぼ、今度は後ろもどぼどぼ。どうにも気持ちが悪いけど、服の替えなど持ってきていないから痛む膝を我慢し、寒風の中、突っ立って、風が乾かしてくれるのを待つしかない。痛いよお。冷たいよお。気色悪いよお。
■なんで、こんな目に遭うんだろう。ちょっと欲こいて、ちょっとどてっとして、竿たちを働かせているだけなのにな…。
■小一時間もすると、服は乾き痛む膝をかばいながら、あちらの竿、こちらの竿、ばたばたばたばた散漫に釣りをしているぼくがいた。なぜかクサフグが多く、餌を盗られて、忙しい忙しい。けど、大アイナメが潜んでいるのもわかっているから。
       ■
■大アイナメが好きだけど、下手くそ釣り師に愛想のいいクジメも好きだ。ぽろぽろクジメと遊んでいるうちに、輝ける日は終わってしまった。痛かろうが冷たかろうが気色悪かろうがなんであろうが、置屋の旦那の散漫な投げ釣り、おもしろい。