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[6882] アオギス>怪投乱麻>転載です 
2003/6/5 (木) 10:25:46 小西英人HomePage
 行橋のアオギス、来週発売号の週刊釣りサンデー『怪投乱麻』に書きました。転載しておきますね。

                              英人


■怪投乱麻Vol.96■週刊釣りサンデー2003年6月22日号より転載
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青い鳥だ。それは君の足元にいる


福岡県
行橋市の干潟の奧で呆然とするの巻


■行橋の小さな防波堤を目指し大阪から八時間ひた走る。道中は快晴だ。天気予報と潮汐表を睨みに睨んで走った。なにもかも、うまく行くはずだった。
       ■
■福岡県北九州市から大分県豊後高田市までの広い海を豊前海という。この海は広大な干潟であり、沖合も水深十メートルより浅い緩やかな地形で、おそらく南日本の川が入る広大な干潟には、どこでもいたであろうアオギスの、最後の砦となっている。アオギスのアラモなのだ。豊前海は、空港に、農地に、工業地帯に、あれに、これに、人のさまざまな欲望で埋められ虫食いにされながらも、豊かな干潟を残し、豊かな生物を育み、アオギスは、ふつうにいる。
■アオギスに逢いたい一心で走っている。豊前海は広いから、ピンポイント、福岡県行橋市の小さな防波堤を目指す。空はあくまで青く、雲は白く、アオギスは微笑んでくれるだろう。
       ■
■荒れていた。海は一面荒れていた。水平線まで、波頭は白く崩れ、いっぱい白馬が走っていた。浅いだけに海は真っ赤に濁っていた。強風が吹いていた。どんどん満ちこむ、いい時間、とりあえず防波堤にでて投げてみるが吹き倒されそうな風である。大きく揺れる竿を、もっと大きく揺すって、スズキの若者が釣れてきたが、満ちるに従って、波しぶきは防波堤をこえはじめる。桑原桑原。転進だ。
■行橋から大分県の中津市まで海を見ながら走る。小さな川が何本も何本もはいり、埋立地がいくつもいくつもあって、海岸伝いの道はない。海岸へのアクセスは極端に悪い。道も狭く、どう走っていいかわからない。あちこち右往左往する。海はひっくり返っている。中津市の埋立地まできた。きょうは十二時間ほど車に乗っている。豊前海の広さを実感する。その海が市民生活からあまり見えないことも実感する。これほど豊かな海が見えないのは、いいことか悪いことか。見えないがゆえに潰されたのか。見えないがゆえに残されたのか。わからない。
■松林越しに釣り場が見える。防風林に地道があってこれを抜けたら行けるのか。轍はある。車は通っている。けど危ない。迷っていたが望見する釣り場ほど、よく見えるものはない。誘惑に負ける。ぼくの城、これさえあれば海辺のどこにでも寝泊まりできるプレサージュで突っこむ。曲がり、くねり、でこぼこ、両側には防護柵。ぎりぎりで走り抜け最後の最後、悪い予感はあたった。抜けられない。防護柵が迫って降りることもできない。バックも不可能。右をぎりぎり通す。左側に前から後ろまで擦り傷をつけてしまう。作業用軽トラックの道だろう。苦労して着いた釣り場もがっかりだった。ああ、これまで。明日があるのさ。そう、すべからく釣りには明日があるべし。
       ■
■夜明けの海は大荒れだった。明日なんてなかった。またまた行橋の海岸をうろうろ。早くしなければ満潮が近い。カーナビを睨んで海を睨み、カーナビに目的地を打ちこむ。昨日のような無茶はせずカーナビに連れて行ってもらおう。大回りになっても。道中よさそうな護岸が見える。危ないなあ。やめるべきか悩む。まあコンクリート護岸だから奧で転回できなきゃ、えんえんバックすりゃいいと突っこんじゃう。釣り師がいた。
■何を釣ってはるんですか?
■きす。
■おおきいのは釣れますか?
■あし。
■寡黙な地のおっちゃん。嫌みはない。あしといわれて面食らったけど、足を指さして笑う。そうか。足の大きさなんだ。
■三十センチはありますか?
■指を広げ、いろいろ悩んでいたけど、やはり、あしといってにやりと笑う。そうか。二十六センチくらいが釣れるのか。
■きすってアオギスでしょうと聞くと、そうだという。断って離れたところに陣取る。風はいよいよ強く、道糸はふけ、大きく流される。おっちゃんは釣りにならないとぼやく。海も赤く濁る。およそ清い水を好むアオギスが釣れるとは思えない。
       ■
■ふぐふぐふぐふぐふぐ。スズキ。ふぐふぐふぐふぐふぐ。マハゼ。そんな感じである。ふぐはクサフグだった。大きなアオギスを釣りたいと欲張り、イシゴカイとアオイソメを鉤素までたくしあげ大きくつけていた。鉤をとられる。クサフグ対策に鉤だけに小さく餌をつける。とたんに被害は少ない。簡単な奴だ。シロサバフグだと堪忍してくれへんで。クサフグと遊んでいたら、こっきん。風に揺れる竿に魚信らしきものがでる。
■横にすいすい走るような気がする。どきどきどきどき巻くと清楚な白い影が水面を走る。
       ■
■出逢いは、いつも突然。小振りだがアオギス。鰭を立て怒っている。竿を放りだして撮影にかかる。強風の中、生きているアオギスを記録する。けっこう長くかかる。目の前に放りこんであるシーバスロッドの動きが怪しい。どうにもできない。撮影完了、シーバスロッドを聞いてみると、むちゃくちゃ重い。走る。大スズキのように重いがスズキよりシャープだ。赤い水面を白い矢が切る。飛びだしたのはでかい。アオギス。二尾の撮影をして精も根も尽き果てて時合いは終わった。満潮の潮止まり、直前のひととき。アオギスとの邂逅は、一瞬である。
■三十二・三センチ、太かきすご。アオギスは四十センチにもなったらしいが、いまはどうだろう。食べたいと強烈に思うが京都大学総合博物館に収めるため丁寧にクーラーにいれる。
■ふう。ふう。ふう。ふう。ふう。ふう。興奮している。この強風、この赤濁りの中でアオギスが釣れるとは思わなかった。こんな奧の奧の浅い浅いところで釣れるとは思わなかった。
■満ちても浅いですねえ。地元の人に聞くと、ここは餌を掘るところらしい。満ちるとアオギスが来て餌をあさる。引くと海は消え、アオギスは沖に散る。アオギスは青い鳥と同じ。きみの足元にいる。遠投はいらないと聞いていたけど体感した。
■強風、大荒れ、赤濁りなのに次の満ちでまた二尾のアオギスを釣り撮影した。尺を超えるアオギスが鰭を立て怒っているのを記録したのは開闢以来ぼくだけだろう。つまらない誇りをもつ。写真記録だけにならないことを願う。いつまでも、そこにいて欲しい。きみの足元に。
       ■
■一尾の尺鱚で、すべて輝く。人にしたらただの魚、大きくもない。そんな小魚に呆けられるぼくがいる。それが嬉しい。