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[14291] 書評>『サメのおちんちんはふたつ』 
2004/11/2 (火) 12:05:02 小西英人HomePage
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▼ みなさん

 海の中道海洋生態科学館のトークショー「メガマウスと驚異のサメたち」をしはる、北海道大学大学院水産科学研究科、仲谷一宏教授にちなんで、先生が書きはった一般向けサメ解説書『サメのおちんちんはふたつ』(築地書館・定価1900円+税)の紹介をしましょう。これは去年の夏に刊行されています。

■『サメのおちんちんはふたつ』アマゾンから
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4806712701/ref=ase_3w-asin-books-22/249-9844113-3509949

■『サメのおちんちんはふたつ』築地書館から
http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN4-8067-1270-1.html

 サメというのは、非常に人気があります。

 釣り人の一般的な感覚だと、意地悪な目をしているし、ぬか喜びをさせてくれるし、南の海に行くと、せっかく釣った獲物を横取りさせるし、うっかりハリに掛けてしまうと、引っ張り回されるは、重たくて上げられないは、危なくてハリをはずせないは、ろくなものではありません。

 そのうえに標徴形質が少なくて、図鑑でもかなり苦労します。写真に撮ることが難しいうえに、写真同定が、ほとんどできない分類群でもあります。

 そんなこんなで、ぼくは苦手にしているのですが…。

 ほんとうに、人気があります。やはり映画「ジョーズ」などで、よく知られていることなどと、その大きさ、その流線型の流麗さ、その精悍さなどが、人をひきつけるようです。

 サメ類の種数は、仲谷博士によると、世界で約400種、日本で124種だそうです。すべての魚類で、世界では2万種〜4万種、日本で約4000種だと言われていますから、ほんとうに種数は少ないですね。

 でも、サメは特別の人気があり、分類屋さんでも、サメ屋さんは、また独特です。そして、けっこう本が出版されています。専門の教科書から、一般向けのものまで揃っているのです。うらやましいほどにね。

 ひとつに、サメは種数が少ないので、見渡しやすく、まとまりがいいから研究しやすいということがあるかもしれません。

 こう書くと、サメ類は、ほとんど研究され尽くしたと思うでしょう?

 違います。謎だらけの分類群なのです。

 仲谷博士は、魚類系統分類学の北の雄、北海道大学で、30年以上、サメ類、軟骨魚類の研究ばかりをしてきてはります。その仲谷先生が、あるサメ展を監修したとき、子どもにも分かる、やさしい解説を心がけて、アンケートなどもとったところ、おとなも子どもも、サメのおちんちんがふたつあることに興味を持っていたと言います。

 それから、サメの権威が、いかにサメのことを知ってもらおうかと、工夫に工夫を重ねたのが本書です。

 サメのおちんちんとは、クラスパー、日本語では、交接器とか交尾器とか呼ばれます。これは腹鰭の基底軟骨の一部が変化しています。仲谷先生は、こんなに難しくは書いていませんけどね。

 腹鰭が変化しているので、2本あるのですが、それでは、これで、どんな風に交接するのでしょう。いろいろ謎に包まれていますが、わかりやすく学説と、先生の推論を重ねていきはります。また、雄には海水ポンプが腹の中にあって、これが交接のときに役立つらしいのですが、このへんも、まだよく分かっていません。先生は、いろいろ考えてはります。

 よく分からないからこそ、面白いということの見本のようです。サメ学はね。

 それでは、もっと基本的なことを聞いてみましょう。「サメ」とは何でしょう?

 これに答えられる人は、そうそう多くはないと思います。ぼくも、図鑑をつくるための勉強をはじめた頃、いろいろ頓珍漢をいって、恥をかいたものです。のんびりしているときなら、笑い話ですが、仕事で図鑑を一気につくっているときに、頓珍漢をいうと、研究者は、説明の時間が惜しいから、無視されてしまいます。それが口惜しくて、一所懸命勉強したのです。それで、はまりこんでしまったのですけどね。そのときに、この仲谷先生の本があれば、一通りの常識は、簡単に身についたのになあと思います。

 ああ、脱線。脱線。

 「サメ」って何でしょう?

 ここでは本のなかから仲谷先生の質問を書いてみましょう。

 1)コバンザメ
 2)ネズミザメ
 3)チョウザメ
 4)カラスザメ
 5)サカタザメ

 この中で、ほんとうのサメは、ふたつだけです。どれでしょう?

 この設問に答えられて、理由も言えたら、「サメ」とは何かというのが分かってはる人です。これを答えられない人は、サメが分かっていません。答えは、本を読んでね…。

 といっても気になるでしょうから、正解だけ書いておきます。カラスザメとネズミザメが、ほんとうの「サメ」です。

 あと、いろいろ面白いことを書いてはりますが、サメによる事故、シャークアタックの例と分析、またメガマウスザメの発見物語と、マリンワールドでの国際的な共同解剖や、その肉の試食の話など、わくわく読めます。

 オナガザメ科のニタリの尾はなぜ長い?

 シュモクザメ科の頭はなぜあんなに変なの?

 原子力潜水艦も、ちょこっと襲われたダルマザメって?

 こういうのがあれば、もちろん、ロレンチニ瓶などの基礎解説もきちんとしてあります。基礎的なことでないのは、板鰓と呼ばれる、特殊な鰓の説明がないことくらいかな。

 そうそう分類学など、完全に答えがでている学問だと思われがちですが、仲谷先生のヘラザメ類の世界を股にかけた奮戦記を読むと、分類学の、ひとつの難しさと面白さが浮かび上がると思います。

 分類屋って、いろいろ難しいことを言って煙たがられます。簡単に言うと、あいつ、こんなことも知らないのかと思われるのを嫌がる人もいます。

 けど、仲谷博士は、分類学の中でも難しい、サメの分類を、やさしく書いて、その面白さを教えてくれます。

 それで、あえて、交接器と書かずに、「おちんちん」と書き、書名にまでこだわりはったのです。

 サメの魅力に、あなたも触れてください。この本は、仲谷先生の大サービスなんですからね、読まなきゃ損ですよ。

                        英人