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[33683] 図鑑裏話1>写真について>多謝! 
2007/5/5 (土) 09:44:30 小西英人HomePage
▼ みなさん

 『遊遊さかな大図鑑』が終わりました。動きだしたのが8月、実質的な編集を始めたのが9月、それから休みなしで、せっせせっせと編集していました。

 終わって、寂しいやら…、ほっとしたやら…。

 まあ、リハビリがてら、ぼつぼつ裏話でも書いていきます。図鑑創りって、こういうところはどうするの? みたいな疑問があれば書いてくださいね。そういう疑問にもお答えしつつ書いていきます。ぼくも、30歳の時の『さかな大図鑑』を皮切りに、『新さかな大図鑑』『釣魚検索』『釣魚図鑑』『遊遊さかな大図鑑』と、5冊目の図鑑になりますから、たいていのことには、お答えできると思います。

 それでは1回目、写真について書きますね。

 というより、とにかくみなさんにお礼です。

 こんど、オールカラー400ページの本で、770種、1700点ほどの写真を使いましたが、ぼくと、中坊さんを除いて、29人の釣り人たちに写真を借りるようにお願いいたしました。

 そして、301点の写真をお借りして『遊遊さかな大図鑑』を飾っています。ほんとうにありがとうございました。

 この301点の写真の、ほとんどが【WEB魚図鑑】に集まって投稿してくださっているみなさんの写真です。

 ただ、分かっておいていただきたいのは、写真を借りる要請のあった人の写真が素晴らしくて、なかった人の写真が駄目なわけではありません。

 ここに集っていただいているみなさんの、すべての写真を、ぼくはありがたいと思っていますし、素晴らしいと思っています。

 ただ、図鑑を編むときには、いろいろありまして、必ずしも、いい写真を使うことにはならないのです。

 いや、泣く泣く落とした写真の方が多いのです。

 図鑑を編むと言うことは、集めることより泣く泣く「捨てる」ことの方が多いのです。

 【WEB魚図鑑】は、データベースですから多いほどよく、できるだけ「集める」ことに腐心します。

 『遊遊さかな大図鑑』のような紙の図鑑は、携帯性、価格など、さまざまな問題から、「集める」ことより、いかに「刈り込む」ことができるかが、編者、または編集者の腕になるのです。

 そういう価値基準で選んでいますので、ここに集っているのに写真が選ばれなかった人は「まだまだ」写真が基準に達していないのではなく、「たまたま」なのです。また、一枚も選ばれなかった人でも、ぼくが、なんど頼もうと悩んでいたかを分かってくださいね。

 また、どうしても欲しくて、メールを何度もしたのだけど、メアドが変わっていたり、返事がなかったりした人も、かなりの数になります。

 どうか、【WEB魚図鑑】に投稿するときは、非公開にしてもかまいませんから、メアドはいれておいていただければ助かりますし、用事が無くても、ぼくに、「こんちわ」とか「こんばんわ」とか、メールをしていただいておくと嬉しいです。

 せっかく、いい写真が【WEB魚図鑑】という形で社会に記録され、集積されているのに、それを「出版」という形で、一部の写真でも残せなかったことは、ほんとうに残念無念でした。

 また、使わせていただいた人の写真でも、「この写真だけは使って欲しくなかった…」という写真をお借りして、非常に無念だった人も多いと思います。

 ぼくも、プロとして魚の写真を撮影していて、条件が悪く、これだけは使いたくない写真を、いままで、なんど使ってきてしまったか…。

 この無念さは、よく分かります。

 ごめんなさい!

 図鑑の場合、こういうことは多いのです。それしかない場合、それを使わなければ仕方がないということが多いのです。

 とにかく。

 写真を使った人にも、使わなかった人にも、ぼくは負い目を感じていますが、こんどの『遊遊さかな大図鑑』は、【WEB魚図鑑】で、みなさんと目指した、釣り人の魚を、釣り人が美しく記録して社会に集積し、残していこうという理念の、ひとつの「答え」であることは間違いないのです。

 みなさんのおかげで、美しくまとめることができました。

 いまの、釣り人向けの図鑑の、ひとつの最先端の形を、ぼくは、みなさんと一緒に社会に提示することができたのを、凄く誇りに思っています。

 この図鑑は、【WEB魚図鑑】の、あくまでも「ひとつの形」であり、「ひとつの中間報告」に過ぎません。

 ぼくは、まだまだやります!

 「釣り人の魚は、こういう美しいものなのだ」

 「釣り人と魚の関係は、殺し合いではないのだ」

 「釣り人の魚、ぼくらの魚を、むちゃくちゃにするものはゆるさない」

 そういうメッセージを込めて、みなさんと、釣り人の魚を記録し、社会に集積し、社会に訴えていきたいと思っています。

 『遊遊さかな大図鑑』は、その、初めの一歩に過ぎません。

 みなさん。【WEB魚図鑑】を楽しみながら、ぼくと一緒に、魚の記録を続けていきましょう。

 まだまだ、いろいろなことをやります。

 こういう、ぼくの気持ちに賛同していただいて、ぼくの好きなように編集をすることを許していただけた、エンターブレイン社にも非常に感謝しています。もともとゲーム系の出版が多く、「遊び心」がわかっている所なので、釣り人の気持ちが分かってもらえたのでしょう。

 いい仲間に、【WEB魚図鑑】を通してめぐりあえて、ぼくは幸せな男です。

 ありがとうございました!        小西英人

[33696] Re:図鑑裏話1>写真について>多謝! 
2007/5/5 (土) 20:43:53 MKTHomePage
▼ 小西英人さん


いつもお世話さまです。

ちょっと、ゴールデンウィークは不幸があったため、釣りどころかPCを起動する
余裕もなく、ただ、ただ、みなさんの投稿写真を携帯から眺める日々でした。


小西さんには、図鑑採用のほか、他のメディアへの採用の話もいただいて感謝です。


まだまだやる小西さん!
おぉぉぉ!すごい!
今から拍手です。
頑張ってください。
自分も毎回変わりばえの無い、ヘタクソな写真をどんどん送ります。
で、淡水も容赦なく持ってきますのでよろしくです(笑


使って欲しくない写真という話、自分の場合、使って欲しくないというか、今年か来年のうちに、もう一度きちっと撮ってやる予定の魚なのに・・・うむむむ、このタイミングで図鑑採用の話がきちゃったかぁ〜!って感じの写真は正直ありましたよ(笑


でもですね、先日、小西さんが図鑑は常に中間報告だとおっしゃっていたので、それなら、あの写真でも、まぁいいか。そんな心境です。


さて、小西さんに図鑑のことで聞きたいこと、ひとつあります。
小西さんの初期の希望では、ページ数、掲載魚種はどれくらいでしたか?



[33698] Re2:図鑑裏話1>写真について>多謝! 
2007/5/5 (土) 21:25:54 小西英人HomePage
▼ MKTさん

> 小西さんの初期の希望では、ページ数、掲載魚種はどれくらいでしたか?

 エンターブレインと話し合いを始めた当初から、ぼくは400ページでプレゼンテーションしていました。掲載魚種数は777種を目指していましたので、まあまあ、いいところに落ち着いたなあとは思っています。

 しかし、それで始めましたけど、400ページに収めるのは、ちょっときつかったです。

 仕事にかかったときには大平洋に小舟で漕ぎだしたような感覚があって、ちょっと茫洋としていますが、だんだん大平洋は狭くなり、最後には、小さな箱になり、どないしていっぱいの「おかず」を詰めこもうか悩みつつ幕の内弁当を作っているような感覚になります。

 いつも、そうです。

 また、釣り人向きの図鑑で、512ページ、1000種以上の収録というのはやりたいなあとは思っています。しかし、これをやると、定価はどうしても6000円以上になります。

 今回は、どうしても定価を落としたかったのです。

 公刊して販売する書籍で、価格というのは非常に重要なのです。

 編集者が成功して、きちんとした基礎部数を出版できると、多数の人がリーズナブルな価格で情報を手に入れることができるのです。

 それを、ぼくは現在のところ、400ページで、5000円台と読みました。そういう意味では、思った通りに創って、思った通りの物ができています。

 こういう図鑑を、ぴたっと初めの計画通りにはめ込むのは非常に難しく、ふつうはやりません。はじめの計画をだるくつくっておきます。しかし、週刊誌を27年間やって、とにかく、決まったところにきちんと詰め込むことばかりをやってきたので、ぼくは、こんなことができるのだろうなあと思っています。しんどいですけど、ひとつのプロの意地でもあります。

 エンターブレインに、増減はありませんかと聞かれたときに、ぼくは、27年間、さまざまな本と雑誌を創りましたが、途中で計画を変更したことは、まだ一度もございません大見得をきりました。その通りに仕上げて、実は、ほっとしています。

 エンターブレインから、だいたいの進行表をほしいといわれたときには、いやあぼくの頭の中に描いている設計図を形にしていくだけですから、すべて、ぼくの頭に入っていまして…などと、生意気をいいまして…、よく信用してくれたなあと、いまでも思っております。

 じつは、いくつかの出版社は、信用していただけませんでしたから…。求めに応じて、きちんと企画書をだしたのに、ご返事もいただけなかったところもあります。このごろの編集者というのは、失礼なヤツもおります。

                         英人

[33727] Re3:図鑑裏話1>写真について>多謝! 
2007/5/6 (日) 09:59:53 MKTHomePage
▼ 小西英人さん


釣り人向きの図鑑で、512ページ、1000種以上ですか。
1000種を越えてくると、なんか、うわぁ〜・・・・すごい、すごすぎる!
というイメージです。

ところで、512というページ数は何かこだわりがあるのでしょうか。
(情報処理的にはピクッとくる単位ですが)


[33730] Re4:図鑑裏話1>写真について>多謝! 
2007/5/6 (日) 10:58:27 小西英人HomePage
▼ MKTさん

> 釣り人向きの図鑑で、512ページ、1000種以上ですか。
> 1000種を越えてくると、なんか、うわぁ〜・・・・すごい、すごすぎる!
> というイメージです。


 1000種を超えると、沖縄などの南方の魚と、北海道などの北方の魚を充実させられるのと、外国の有名な魚をいれられます。

 ぼく、今回、泣く泣く落としたのが、外国の魚です。まあ、きちんとそろっていないということもあるのですが…。

 できれば、次までに、世界中のメジナ科とイシダイ科の魚をそろえたいですね。タイ科も、できるだけそろえたいなあと思います。

> ところで、512というページ数は何かこだわりがあるのでしょうか。

 すみません。

 編集者は、ページ数を考えるときに折単位で考えます。

 折とは「おり」で、簡単に言えば一枚の紙に両面印刷をし、それを折って裁断するとページになります。

 ふつう大判の書籍だと16ページが1折になり、単行本だと32ページを1折にしたりします。

 そのため、ぼくは、いつでも16ページ単位でものを考えています。今回の400ページは25折です。

 それだけのことで、深い意味はありません。       英人

[33731] 図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/6 (日) 11:19:31 小西英人HomePage
▼ みなさん

 影より他に友は無し…。

 ほんとうなら、家にこもって、ぼくはそういう状態で図鑑を創っていたでしょう。まあ、家にこもっているから影はないし、実際には「FM802より他に友は無し」状態でありますが…。

 ちなみに、今回の図鑑のBGMはFM802から流れる風味堂の「愛してる」でした。ラストの追い込みは、ドリカムの「大阪LOVER」でした。どちらも、いい曲ですが、へたくそのぼくは、どちらもカラオケで歌えないだろうなあ…。

 いつも、音楽だけが友なのですよね。

 こんどは違いました。

 ある分類群にとっかかると、ぼくの写真を精査して選んでスキャンしてパソコンに取り込みます。弱い写真は【WEB魚図鑑】を見て、とりあえずパソコンに落とし込みます。

 いろいろ悩みながら、組み立てていき、ひとつの方針が決まったら、ばああああっとメールを打ちます。

 早い人は1時間もしないうちに、写真のオリジナルデータがメールされてきます。おそい人でも、その日の夜には処理してくれてオリジナルデータが、どんどんメールされてきます。

 そのメールのついでに、悩んでいること、釣り人としてどう感じるか、などなど、いろいろ聞いて、いろいろお話をしました。

 また、一部の人には、釣り人代表になってもらって、編集のプロトタイプを叩くときに、いろいろ叩いてもらいました。

 さすがに【WEB魚図鑑】に集まっている人は、ただの釣り人といえども、根っからの図鑑好きが多くて、鋭いことを言う人が多いのです。

 面白かったです。

 もっと、ボードでオープンに叩いてもよかったのですが、まあ、ぼくの編集者としての秘密事項もありますし、そういう意味では、あまりオープンにできないものもあるのです。

 だいたい図鑑ビジネスって、そうそうやっている人はいないですから、かまわないかもしれませんが、それでも、少ないだけに、その数少ないプロに、ぼくの手の内を見られたくないと言うこともあります。

 それに、船頭が多すぎると、こんどは船が山に登りかねないと言うこともあるのです。

 ごめんね!

 そんなこんなで、わりとクローズドで、プロトタイプを叩いていました。

 ぼくは、面白かったです。こういう「叩き方」もあるんだと思いました。

 ぼく、いろいろ、このボードで、こんちわ、おひさ、などとやっていますが、会ったことない人が、ほとんどなのです。

 顔も知らなければ、相手の年齢も知りません。時には性別も知らずに話をしていて、女性であって驚いたりもします。

 一生懸命、いろいろ議論していたら、相手は中学生であって、ずっこけたことも過去にはあります。

 とにかく、顔も、相手の年齢さえも知らない人たちと、プロトタイプを叩いたのは、新鮮な驚きでありました。

 よかったと思います。

 好き勝手に創らしてもらいましたが、ぼくが、創っていないところが、ひとつだけあります。カバーです。

 カバーは、ぼく、いちばん初めにデザインして、ぼくのデスクの前に置いて、それを毎朝、睨んでから仕事に掛かっていました。

 実体が無く、頭の中にしかないものを、ひとつの統一イメージで400ページの筋を通していくというのは、なかなか大変です。

 とくに、今回、ぼくは見切り発車をしています。

 とりあえず、全体をあまり考えずに、タイ科から始めたのです。

 そのときに、イメージがバラバラにならないように、カバーから創り、それを眼の前において睨みながら創っていくのです。

 最終的に選ばれたのは、ぼくのデザインしたカバーではありません。

 このカバーの選定作業のとき、いろいろな人に、相談しています。

 このときにいろいろありまして、いろいろ励まされました。

 こういう仲間の支えがなければ、ほんと進めなかったかもしれません。

 会ったことのない人に、励まされるって、ほんと、凄いなあと思います。

 みんなで創った! そう、ぼくは実感しています。       英人

[33787] Re:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/6 (日) 23:28:46 ぷいぷいユッケHomePage
▼ 小西英人さん

私もとりあえず一つ質問したいと思います。

掲載魚種の選定についてです。

タイ科魚類、イシダイ、メジナ、アジ科、サバ科……といったような釣り人に人気のある、「本命」と呼ばれるような魚種は、まぁ、釣り人のためと謳っている以上は載せて当然だと思います。


が、外道と呼ばれる魚たちのうち、どこまでを掲載することにして、どのような種の掲載を切ったのかが知りたいです。

もっとも、よく顔を見るクサフグ、ゴンズイ、ニシキベラのような外道から、稀にしか釣れないような外道……という確率的なものが一般的なのかもしれません。
釣法によっては、この釣りだと普通に釣れる外道だけど、この釣りじゃなきゃ釣れない!ような種もいると思うので。

あ、綺麗な写真があるか、ないか、という要素も強く関わってくるのでしょうか?

[33789] Re2:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/7 (月) 08:07:21 小西英人HomePage
▼ ぷいぷいユッケさん

> 掲載魚種の選定についてです。

 これ、図鑑にとって、いちばん重要なことです。ぼくは先に400ページを見切り発車したと書きましたが、いくらいっても、何もないのに頭の中で整理しながら進めるわけにはいきません。

 ぼく、この【WEB魚図鑑】のもとにもしたものですが、日本産全魚種と海外の主な釣魚で4000種あまりの、ぼく専用のデータベースをつくって持っています。

 この魚種別データベースには、ぼくの持っている写真のチェックも入っていますし、ぼくが持っていなくても、誰が持っているかのチェックもある程度は入っています。

 すごく簡単に言えば、写真を、ぼくが持っていて、他の釣り人も持っていたら、それは釣魚です。そういう考え方が基本です。

 『新さかな大図鑑』は釣り種別で、これ、けっこう難儀で、船でも、投げでも、防波堤でも、磯でも、ルアーでも釣れる魚はどこに入れるかと言うことを、ひとつひとつ悩まなければなりませんが、今回は、目を基準に大別して、釣り人の好きな順に並べればいいのです。

 これ、もっと簡単に言うと、ぼくの好きな順に並べます。

 編集者というのは、社会をよく知らなければいけません。テレビ、雑誌、新聞、インターネットなどを通じて、いまの「みんな」が持っている「実感」を身につけなければなりません。

 それを身につけてしまうと、編集者、彼は、読者の最大公約数になっているはずです。そうなると自信を持って、彼の好きな物を好きな順に選べば、「いい本」ができるのです。これが、ぼくの編集者としての理想像です。日頃、そういう社会を知る努力をしていれば、あとは自信のままに行動すればいいのです。

 ぼくの場合、この社会を知るために、ここ【WEB魚図鑑】と【さかなBBS】は大きいです。

 たとえば、釣り雑誌社にいて、名人などを話をしますと、彼らは魚を好きではありません。どうでもいいのです。自分が、いいかっこうしたり、メーカーからお金をもらったり、インタビューを受けるために、必要なだけなのです。

 たとえば、10万円の竿と10万円のリールを使って、100尾釣っても片手の手のひらに十分に乗ってしまうくらいの生まれたてのシロギスを釣って、楽しいと思う人などいません。トーナメンターというのは、そういう連中です。40万円の竿を使って、曳き船から逃げだすからと、ベストのポケットに小さいアユをいれて審査場に戻ってくるようなのがトーナメンターだったのです。いまは知りませんけど。そういう世界に、ぼくは嫌気がさして、釣りフォーラムで、いろいろな釣り人と話をしていたのです。

 そこには、ふつうの釣り人がいましたし、魚の好きな釣り人しかいなかったのです。

 そこで、ぼくは、ふつうの釣り人の感覚を磨いたのです。(なんて偉そうに言っても、変なフグを釣って、初めて見たぞと興奮して写真を撮りまくるのは、変な釣り人ではあるなあ…)

 いやいや、脱線しているなあ…。

 とにかく、ぼくが選ぶと釣魚なのです。

 見切り発車はしましたけど、図鑑の作業のトップに、4000種あまりのデータベースから、目の単位で、釣り人の好きな順に並べ替え、それぞれの中で、釣り人の好きな科の順に並べ替えをしています。それから、頭の中にある写真を見ながら、1200種ほどのリストをつくりました。この作業には、じっくり1週間をかけています。

 この1200種リストが、『遊遊さかな大図鑑』の基本設計図です。

 あとは分類群ごとに、とっかかり、いらないものを落としながら組み立てていくのです。本ですから、見開き2ページか、1ページ単位で、見やすいように配置します。ちょっと余ったり、ちょっと足りなかったりしてはいけません。その調整用に、多めに選んであるのです。

 基本的には、あとは刈り込むのみです。1200種は、釣魚なのですから…。

 ぼくは図鑑は刈り込み作業だといったのは、こういうことがあるからです。

> あ、綺麗な写真があるか、ないか、という要素も強く関わってくるのでしょうか?

 もちろん、きれいな写真があれば、それは重要な釣魚であります。釣り人が、うわあっと眼をひかれるでしょう。それが滅多に釣れないものであったとしても、それは十分に「釣魚」であると考えるのです。

 こういう基本方針は楽しいし、ほんとうに、創りたいように創ったぜと言う実感が、ぼくにはあります。

 まあ、こういうことができるのも、4000種のデータベースを持ち、誰が写真を持っているか、チェックをして、そのうえに、毎日毎日、みなさんと【さかなBBS】で話して【WEB魚図鑑】のメンテナンスをしているからなのです。

 はじめて創った『さかな大図鑑』のとき、基本方針として、釣り種別に魚を並べるとういのだけ決まっていましたが、まったく、なにをしていいか分からず、呆然としていました。それを見かねたのでしょうね。京都大学瀬戸臨海実験所にいた荒賀忠一さんが、収録魚種リストを、釣り種別に分けて創ってくれました。これ、きれいな表にしてあって、あの頃のことですから手書きです。

 ぼくは、この荒賀魚種リストをもとに、解説者の分配、写真の有無と手配、すべてを書き込んで、なんとか図鑑を創りあげることができたのです。

 『新さかな大図鑑』で、はじめて、ぼくがリストつくりをしまして、やっと、ひとりで図鑑ができるようになったと感じました。

 図鑑って、ふつうの人は、ただ並べたらいいように思って、簡単だと思います。日本産全種を並べるのならば、それでいけるかもしれませんが、それより少ない場合、何らかの基準で「選ぶ」のですから、ここに編集者、図鑑の場合は特に編者と言いますが、この編者の意識が入ります。これが、しっかりしていなければしんどいのです。

 すごい魚類分類学者でも、図鑑を編んだことのない人は、この辺の機微が分かりません。自分の専門分野は得意でも、それ以外との整合性が悪くなります。だから、全体を考えずに編んでしまうと、がたがたになってしまいます。

 結局、魚種選択というのが、図鑑を編むためのAであり、Zでありますから、ほんとうに難しいです。しかし、ぼくは、ぼくの好きなものを並べただけですから、申し訳ないかなあ…。

 いままで書いたようなことを、『遊遊さかな大図鑑』の後書きに入れいています。後書きを最後に引用しておきます。

 荒賀忠一さんと、『魚類図鑑−南日本の沿岸魚』のことは、ここに書いています。

■『魚類図鑑−南日本の沿岸魚』【遊魚亭】より
http://hideto.fishing-forum.org/001bookzukan/post_41.html

                            英人

■あとがき『遊遊さかな大図鑑』より

 ■すべての釣り人と研究者に…感謝します
 釣り人、研究者、魚が好きで好きでたまらないみんなが集まって、連日連夜の大パーティーをやっています。
 ポットラック・パーティーです。ポットラックとは、あり合わせの料理のこと、あり合わせをみんな持ち寄ってパーティーをやっているのです。「あり合わせ」とは釣った魚の写真だったり、調べた情報だったりします。とにかく「魚のごちそう」です。場所はインターネットです。しかしバーチャルではありません。騒いだあと、どんどん図鑑に登録していきます。読者参加型の魚類図鑑が、いま民間では日本最大のネット魚類図鑑に育っています。それが【WEB魚図鑑】【さかなBBS】です。
 ぼくは、ただの魚好き、ただの釣り人にすぎません。しかし、三十歳の時に『さかな大図鑑』(1985)を創りました。いや、これは創っていただいたのです。そのころ京都大学瀬戸臨海実験所にいた荒賀忠一先生に、手取り足取り図鑑の創り方を教わったのです。荒賀さんは日本の魚類図鑑を、たった1冊で劇的に変えてしまった『魚類図鑑−南日本の沿岸魚』(1975)の著者のひとりで、のちに日本産全魚種を写真で収録した『日本産魚類大図鑑』(1984)を創った研究者です。その荒賀さんに図鑑の「いろは」を教わったぼくは幸せでした。その後『新さかな大図鑑』(1995)で荒賀さんとともに、京都大学の中坊徹次博士に教わりました。中坊さんは『日本産魚類検索』(1993)『日本産魚類検索第二版』(2000)で、やはり魚類図鑑を劇的に変えた研究者です。ぼくは釣り人代表として、京都大学のふたりの先生に、いろいろ教わったのです。これほど幸運に恵まれたのならば、みなさんにお返しをしなければならない…と、強く思いました。そのひとつがネット図鑑です。釣り人の気持ちと、研究者の心が分かるようになったぼくは、釣り人と研究者が集まる場所をつくり情報交換をしたかったのです。そうしたら千客万来です。連日連夜、日本中、世界中の魚を見せていただき遊びながら勉強させていただいています。それらの成果をまとめたのが本書なのです。
 まとめるにあたり、たくさんの研究者に魚の同定をお願いしました。突然のお願いに、お忙しい中、すぐに同定や、ご教示をいただき、本当にありがとうございました。
 中坊徹次博士には監修をお願いいたしました。浅学非才の身、中坊さんの厳しいご指導はほんとうに嬉しく、ほんとうに勉強になり、ほんとうにありがたいものでした。ネット仲間の生き生きした写真も数多く使わせていただきました。エンターブレインの柴田一樹さんには東京からいつも支えていただきました。多くの人に助けられ多くの人の夢を満載して、本書はできあがりました。幸せをかみしめつつ、いったん筆をおきます。小西英人

[33888] Re3:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/8 (火) 22:43:54 KOUJI
▼ 小西英人さん

ああ〜、裏話で表の内容転載しちゃダメじゃん。
英人さんの文章、読むの楽しみにしてるんだから。
表の内容はせめて発売されてからにして下さいませ。

[33893] Re4:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/9 (水) 06:00:36 小西英人HomePage
▼ KOUJIさん

> ああ〜、裏話で表の内容転載しちゃダメじゃん。
> 英人さんの文章、読むの楽しみにしてるんだから。
> 表の内容はせめて発売されてからにして下さいませ。


 はあい!              英人

[33951] Re3:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/11 (金) 00:35:39 ぷいぷいユッケHomePage
▼ 小西英人さん

忙しくて返信遅れましたが、長々と有り難うございます。

非常に面白く読ませていただきました。

そして、図鑑が手元に届くのが、より楽しみになりました。


様々な魚種の綺麗な写真を撮り溜めることで、「釣魚」も増えていくということですよね?
もう少し、綺麗な写真を撮れる確率を上げて行きたいと思います。(笑)

[33955] Re4:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/11 (金) 06:35:44 小西英人HomePage
▼ ぷいぷいユッケさん

 とにかくみんなで釣ったのは釣魚、ぼくが好きな魚は、みんなが好き…。

 基本方針は簡単なほどいいのです。

 こんど、まえの図鑑と基本を、ちょっと変えているのは、前の図鑑は、大阪から日本を見すえた形になっていますけど、こんどは東京からみすえる形にしています。

 といっても、それほど違いはないのですが…。

                           英人

[33956] Re5:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/11 (金) 07:26:17 MKTHomePage
▼ 小西英人さん


>  基本方針は簡単なほどいいのです。

今、とっさの思いつきで、この基本方針とはちょっとズレた話ですが、
釣りではなかなか釣れない魚だけを集めて出版しても面白いのかなと思いました。
いや、当然、興味が湧く人は少ないでしょうし、難解な魚だらけになるでしょうけど。

あと、深海と淡水を捨て、港、砂浜、磯(陸っぱり釣り)だけに限定した図鑑も
アリかなぁ〜とも思います。

[33957] Re6:図鑑裏話2>みんなで創った! 
2007/5/11 (金) 08:02:09 小西英人HomePage
▼ MKTさん

> あと、深海と淡水を捨て、港、砂浜、磯(陸っぱり釣り)だけに限定した図鑑も
> アリかなぁ〜とも思います。


 深海と淡水を捨ててはおりませんが、陸っぱりほどほど偉いというのが、こんどの図鑑ではあります。

                           英人

[34081] 図鑑裏話3>AB判にしたこと… 
2007/5/13 (日) 22:26:57 小西英人HomePage
 「横にのばしたら、何か、いいことあるの?」

 『新さかな大図鑑』はB5判である。次の『遊遊さかな大図鑑』はAB判にするんや…新図鑑の構想を、ある人に話しながらプロトタイプを叩いていたら、ぼくがあまりにもAB判にこだわっていたのか、こう言われた。

 ぐっと詰まった。

 いいことあるの…どころか、こんどの図鑑の、ぼくの目玉なんだけどなあ。しかし、これは、なかなか分かってもらえないと思う。魚類図鑑を度も何度もレイアウトして、やっと気がつくことだから…。

 こういうことを遊びとしてでも、仕事としてでも、いつでも真剣に考えながら暮らしている幸せな男って、ちょっといないものなあ…。

 ということで、『遊遊さかな大図鑑』成功の鍵となった判型のことについて書こうと思う。

 と、書いて、我ながら強気だなあと思う。まだ、すべての色校正が上がったばっかりのところで、印刷さえもしていない図鑑の「成功の鍵」って言われてもねえ、みなさん。

 でも、長年の編集者の勘(著者なんだけど、やはり、こういう仕事をすると編集者としての感覚になります)で言わせてもらえるならば、こんどの図鑑もまた成功です。

 いまのところ、地球上で、エンターブレインの柴田さんところと、ぼくのところにしかない、色校正をきちんと切ってAB判のクリアブックに入れた『遊遊さかな大図鑑』を、ぱらぱら繰りながら書いています。

 編集者って、いちばん初めの読者です。これが気持ちいいんだよね。

 閑話休題。

 AB判って、知らない人もいるだろうから、ちょっと説明します。

 A判系列と、B判系列は知っていますよね。

 A4判は 210×297mmになります。 写真集や美術全集など、本や雑誌で言えば大型本になります。

 B5判は 182×257mmで、 週刊誌やふつうの雑誌などの大きさです。『新さかな大図鑑』は、この大きさでつくりました。

 AB判は正規の規格ではありません。 大きさは、210×257mm になります。そう天地がB5判と同じで、左右がのびてA4判とおなじになります。そのためにB5ワイド判などともいったり、A4変型判といったりします。

 とにかく『遊遊さかな大図鑑』はAB判、『新さかな大図鑑』と天地は同じで、左右が1ページで28mm、見開きの2ページで、56mmのびたのです。

 これが大きい!

 魚って、ふつうは左右に長いのです。

 この28mmで、魚は大きくなり、生き生きします。

 とにかく、こんどの図鑑は、魚の写真を大きくして、魚の絵合わせ同定をやりやすくするように腐心しましたが、この、「のび」が大きいのです。

 左右にのびたら、それほどいいのならば、天地ものばして、A4判の大型本にしたらどういかといわれそうです。

 これをやると、こんどは「間のび」するのです。やたらに大きい図鑑は、重たい感じがするのです。学術用はいいけれど民生用はしんどいです。AB判こそ魚を大きく扱い、なおかつ締まる判型だと思います。

 また、この左右ののびのおかげで、横2段組と、横3段組をきちんと混在させることができました。

 簡単に言うと、魚種などの解説文は、ゴチック体の紺色の文字にして、3段組にしました。一般の解説文は、明朝体の黒文字にして、2段組にしました。『新さかな大図鑑』は、左右の長さが足りず、このゴチック体の解説文字を3段組にできなかったのです。そのため非常に微妙に調整しつつ、文字と写真をレイアウトしています。また、基本の魚の写真の左右の長さは横2段組の1段、つまりページの半分の長さが基本となっています。

 『遊遊さかな大図鑑』は、横3段でのうち、2段が、基本の写真の大きさとなっています。ページ左右の3分の2の長さが、基本の魚の写真の左右の長さなのです。これは、かなり大きく感じると思います。写真と文字のレイアウトに無駄が無くシンプルに組み上げることができました。

 コンセプトは明快で単純なほどいいのです。

 写真が大きくなり、2段組と3段組が、きちんと混在して微妙な調整の必要なしというのが、AB判にしたメリットです。

 これは、ぱっと見た感じが、まったく違います。そのはずです。

 『新さかな大図鑑』も『遊遊さかな大図鑑』も同じ人間がレイアウトしています。そのために似てくるでしょう。

 しかし、このAB判にしたおかげで、写真の大きさと自由度が飛躍的にあがったのです。

 このAB判に決めて、2段組と3段組のレイアウトを作り、このふたつがバッティングせずに、きっちりと混在できると感じたとき、ぼくは「勝った」と確信したのです。だから強気なのです。

 基本ができたら、あとは、当てはめるだけです。編集者にとって、それは壮大なる「消化試合」に過ぎません。

 それほど初めのコンセプトは重要です。

 しかし、こういうことがはっきり見えて、きちんと実行できるようになるのは、いろいろな失敗が必要なんですよね…。

 『新さかな大図鑑』『釣魚検索』『釣魚図鑑』の細かな失敗があってこそ『遊遊さかな大図鑑』ができたのだなあと、いまさらながら思います。

                         小西英人

[34084] Re:図鑑裏話3>AB判にしたこと… 
2007/5/13 (日) 22:56:32 MKTHomePage
▼ 小西英人さん


自分は以前、10年ほど電気製品関連の設計士をやっていましたので、こういう話はわかります。

どう設計図をレイアウトするか・・・
用紙サイズをどうするか・・・

大きな仕事ほど最初が肝心で、あとで「しくじった!」と感じたときは、その後の仕事のテンションも下降します(笑

小西さんの「はじめの一歩」は理論的にも感覚的にも凄いなぁと思います。
やっぱり、キャリアや修羅場の経験の多さなんでしょうね〜。


[34087] 図鑑裏話4>カリフォルニア・ドリーミング 
2007/5/14 (月) 10:04:59 小西英人HomePage
 突然、「カリフォルニア・ドリーミング」のメロディが鳴り始める。

 来た来た来た…!

 覚悟してメールを読む。

 「ノルウェイの森」のメロディが鳴る。

 よっしゃ!なにやろ?

 時には、カリフォルニア・ドリーミングと、ノルウェイの森が、交互に何度も響き渡る…、ああ、忙しい。

 インターネットでメール受信すると、携帯電話メールに転送するようにしている。家にこもってパソコンとにらめっこして仕事していても携帯電話の着メロで、メールの着信が分かる。

 カリフォルニア・ドリーミングは、京都大学の中坊さんだ。

 ノルウェイの森は、エンターブレインの柴田さんだ。

 中坊さんは忙しいから、バラバラに読まずに、まとめてチェックしたいとおっしゃる。ある分類群がまとまると、カラープリンターで打ち出して、速達で郵送する。それが着いて、中坊さんのチェックが始まると、次々とメールが入る。

 「OOOとあるが、これは思いこみと違うのか、違うのなら典拠を示せ」

 「OOOの写真同定は誰がやったか、英さんがやったのならば、同定の根拠を示せ、標本にしているのならば、どこにある?」

 「OOOの論文から引用したようだが、あれは危ない、ほかに典拠したものはあるのか」

 ときには

 「あほ!」「ばか!」「駄作!」「生兵法!」

 と、厳しい言葉がだけであったりする。とにかく矢継ぎ早に質問が来るので、文献をひっくり返したりネットで調べ直したり、てんてこまいである。

 しかし、魚類分類学のトップが、その頭脳をフル回転させて、ぼくの写真、レイアウト、文章をチェックし、調べ直せとか、典拠や、論拠を求めてくるのは、ほんとうに知的にエキサイティングなもので、大変だったけど、面白く、楽しく、勉強になった。

 大学の先生の監修って、おざなりのことも多い。ある先生が監修した、ある釣り人の魚類図鑑で、円口類とはウナギ形の魚類であると書いていて、ぶっとんだことがある。これ、説明しないが、こういうことを見逃した先生は、へそを噛んで死ぬべきだし、こういうことをチェックしていただけない先生に監修してもらっている釣り人は、哀れである。

 ぼくは幸せである。

 京都大学に通ったこともないのに、「マジに」怒ってくれる教授がいる…。

 メバルのレイアウトを見たときなどは、日曜日に先生の自宅に届くように送ったのだったが、5通ほど、罵倒のメールが続いて入って、これはさすがに気に入らないのか、全面やり直しかと思ったのだが、実際は、非常に気に入っていただけたようで、それだけに眼が厳しくなり、細かいところの直しに力が入っただけのようだった。

 メバルは3種に分かれる。これの和名と学名の決定論文は、京都大学の甲斐博士と、中坊博士が書いている。いつ発表するのか知らないけれど、年内には発表されると思う。そのために生態学的な知見などが、まだ分からないところが多い。それで、とりあえずは3種の見分けに力をいれて色彩3型を目立つようにレイアウトした。細かいことは、あとで打ち合わせるつもりだった。

 それを見て怒り狂ってはったのだった。

 細かい直しをした後は、この図鑑はええなあ、この図鑑は受け入れられるで…と上機嫌になった。

 中坊さんは、監修と言うより、ラストオーサーに入っていただいたようなものであった。論文を複数著者で発表するとき、もちろんファーストオーサー、第1著者が中心的ではあるのだが、この著者が若い場合など、なかなか信用されないことがある。そのために、いろいろ業績を積み上げていて間違いのない人が著者グループに入り、すべてのチェックをして最終著者として名前を連ねる。

 感覚的には、共著であり、感覚的には、ラストオーサーをつとめてくださったのである。これは感激であった。

 もっと感覚的に言うと、英さんは、釣り人として、好きにやりや。俺が後ろから見ておいてやるからな…ということである。

 ぼくは、うろうろうろうろうろうろ、きょろきょろきょろきょろきょろ、好奇心いっぱいのガキのように、魚類界をうろつき、いろいろ集めてくるのである。なにも知らないから、虎の尾を踏みそうになったり、地雷を踏みそうになったり、落とし穴に落ちそうになったり、いろいろ危なっかしいのである。

 「あほ!」「ばか!」

 よろめくと、後ろから罵声がとんできて、ぼくは助かるのである。

 英さんに罵詈雑言を浴びせてやって拗ねるかと思ったら、「ましな」図鑑つくりよった…と研究者仲間に、中坊さんは上機嫌で言う。

 これ、ぼくにとって、最大級の褒め言葉であって、嬉しい!

 まあ、これほどの大物に、はらはらと見守ってもらいながら、好きなことをさせてもらえるような幸せなことは、ふつう、あり得ないのである。ほんと奇跡に近いのである。

 このコンビに入ってきたのが、エンターブレインの柴田さんで、はじめに、ちょっとしたことがあって、中坊さんの罵詈雑言を浴び驚きはったようだが、「社会人になって、これほど、叱られたことも初めてで楽しいものでした」という柴田さんのメールを見て、ぼくは驚いた。

 この人は大物だなあ…と、それと、中坊さんという人間を一発で見抜いてしまったのだなあと。

 まえに、方針が決まったら、図鑑なんて、あとは「壮大な消化試合」だと書いたが、この消化試合、なかなかどうして大変なものであって、多いときには、数日ごとに揉め事の種がとびだしてくる。

 とにかく「何か」が起こるのである。本質的なこともあれば、どうでもいいこともあるるのだが、とにかく揉める。

 そうなると、3人の間で、同報メールが飛びかい、ぼくの携帯電話は、カリフォルニア・ドリーミングと、ノルウェイの森を、交互に奏でることになるのである。

 いまは、どちらの曲も、たまにしか鳴らない…。

 寂しい…。             英人

[34089] Re:図鑑裏話4>カリフォルニア・ドリーミング 
2007/5/14 (月) 16:54:00 ツロット・キャプ10
▼ 小西英人さん

>
>  いまは、どちらの曲も、たまにしか鳴らない…。
>
>  寂しい…。             英人


> 英人君、いいねぇ・・・。本当に寂しい?カリフォルニア・ドリームもたまに しか鳴らなくてもいいんじゃないですか・・・。
 幸せだねぇ。
 今度の亜細亜釣魚連盟の年次大会に議長賞して七冊の目録出すんですね。親父さ んに聞きました。

[34090] Re2:図鑑裏話4>カリフォルニア・ドリーミング 
2007/5/14 (月) 17:09:20 小西英人HomePage
▼ ツロット・キャプ10さん

 ちなみに、ツロットさんからは「燃えよドラゴン」が鳴ります。

 歳がばれてしまうなあ…。

 嫁さんからは、「チューブラベル」です。なんか映画音楽が多いなあ。ひとり、うるさいのがいて、これは警戒の意味も込めて「ツァラトゥストラかく語りき」が鳴るようにしています。

>  今度の亜細亜釣魚連盟の年次大会に議長賞して七冊の目録出すんですね。親父さ んに聞きました。

 まだ、亜細亜釣魚の国際大会の時は、まだ印刷ができていないんですけどね。

 韓国、中国の沿岸の魚は、日本と、ほとんど変わりませんから…。

                       英人

[34198] 図鑑裏話5>若い子たちに見てもらったこと… 
2007/5/19 (土) 09:07:31 小西英人HomePage
 『遊遊さかな大図鑑』ほど、長く、いろいろとプロトタイプを叩いたことはなかった。それも、たくさんの若い女の子に見てもらったのだ。

 きゃあ、可愛い…とかいわれる。

 いやあ、きれいわあ…などと喜ばれる。

 どうしたんだろう?!

 むかし、女の子が魚を見ると、眼が嫌、鱗が嫌、、生臭そう、気色悪い…、などと酷評されるのが「オチ」であって、釣り人など女っ気はないものだったし、魚類図鑑のようなものは、むっさいおっさんしか見ないものであった。

 それが、若い女の子に見てもらうと、どの子も、どの子も、異口同音に、きゃあきゃあいいながら、可愛いとか、きれいわあとかいうのである。

 時代は変わったものである。

 これで強気になって、いろいろ派手に魚をレイアウトをし直しては、たくさんの若い女の子にみてもらい、その表情を見ながら、またやり直しをしてプロトタイプを叩いたのであった。

■■■■■

 ぼくはアナログおじさんであって、デジタルは苦手である。DTPなど、まとまな編集者のやることではなく、できそこないの版下マンがやるものだと思っていた。しかし、紙のレイアウト用紙に鉛筆でラフレイアウトしたものをプレゼンしても、無理かなあと感じていた。ぼくの頭の中には溢れるほどの映像があり、ちょっとしたラフスケッチで、イメージは十分なんだけれど、人には伝わらない。

 ぼくのパソコンには、昔、勉強しようと思って買った、古いアドビのイラストレーターがあるけれど、起動してみても、初めの「アートボード設定」で、まごまごするだけのおじさんとしては、あきらめて放ってあった。

 娘が芸大に行き、ビジュアルデザインを専攻していて、アドビのイラストレーターを使える。ここは、ちょっと猫なで声で「お願い」してみた。知っている人に教わると、初めの垣根は、案外簡単に越えられた…。

 次に、写真の切り抜きレイアウトをしたくて、切り抜き法を教わった。もたもたしたけど、白バックの魚なら、アドビのフォトショップの自動機能を使って切り抜き、それをイラストレーターでレイアウトできるようになった。

 こうなると面白い。

 どんどんどんどんレイアウトしてみる。出力は困ったけれど、A4の写真光沢紙を買ってきて、インクジェットプリンターで打ち出してみた。コストはかかるし、時間もレイアウトの何倍もかかるけど、きれいなプリントができあがる…。

■■■■■

 母親がガンで入院していた。

 ちょっと認知症がでかけていて、夜、病院で、ひとりで置いておけなかった。夜はつきそうか、ナースステーションで寝るか、認知症ばかりの部屋にはいるかといわれて、つきそうことにした。昼は、嫁さんと、親父にまかせて、夜は、ぼくがソファーで寝て、母親につきそった。

 夜、ぼくが行くと英人君がいてくれるの…と喜んだ。交代のみんなが帰ると、玄関の鍵をかけてといわれた。ぼくが小学生、中学生時代であった広島の頃に帰っているみたいだった。その頃が母親にとっての華であったのだろう。そのまま機嫌がいいのだが、寝静まると、いろいろなことをしようとして困った。ほんとうに困った。うつうつしては母親に声をかけ、寝られないので図鑑のプロトタイプを悩むことにした。

 「表紙」、「魚類解説」、「写真検索」、「ここで見分けろ」、「記事解説」、「さかな雑記」…魚類図鑑のさまざまなパートの打ち出しを見ては、悩み、校正していた。

 母親は、ぼくが、ベッドサイドで、そういう仕事をしていてると安心するのか「悪さ」をしない。にこにこおとなしく見ている。

 その打ち出しを見て、若い看護師さんたちが騒いでくれるのである。

 きゃあ、可愛い…とかいわれる。

 いやあ、きれいわあ…などと喜ばれる。

 これには驚いた。

 夜の看護師さんは朝には交代する。一晩で多いと4人くらいの若い女の子たちの意見が聞けるのである。

 これは新鮮な感覚であった。

 朝の10時頃、眠い目をこすりこすり家に帰り、前の夜の朱をイラストレーターで修正したり、新しいレイアウトや新しい原稿を書く。そして延々何時間もかけて、小さな家庭用インクジェットプリンターで打ち出しをする。

 夜、打ち出しを持って病院にでかけ校正と修正をする。

 こういう生活を、母親が退院するまで、ほぼ一か月やった。

 そして、『遊遊さかな大図鑑』のタイ科の全貌が、写真光沢紙の打ち出しで、はっきりとした形になって、この世に浮かび上がってきたのだった。ぼくの頭の中だけではなくなった。

 荒削りだったけれど、ほとんど、若い女の子の意見をとりいれて創ったものである。

 そうこうしている間に、エンターブレインの柴田さんから連絡が入り、ぼくがプレゼンテーションしていた『遊遊さかな大図鑑』を刊行したい、ついては東京で打ち合わせ会議をしたいと電話連絡が入った。

 翌朝、父親から、母親のようすがおかしいから来てくれと連絡が入った。

 駆けつけてみると、みょうにおとなしい。

 「おばあちゃん、図鑑の刊行が決まったで!」報告しても、うんうんと首を振るばかりで、分かっているのか分かっていないのか分からない。

 訪問看護師のアドバイスで救急車を呼び、緊急入院した。

 それから1週間、病院に泊まりこんだ。母親は、にこにこしたり、黙りこんだりしていたが、急速に枯れていって自然に旅だってしまった。

 医師や看護師は、死ぬと分かっていたようだったが、ぼくら家族は、まさかこんなに早く死ぬとは思っていなかったので茫然としてしまった。ガンを宣告されて半年もたっていなかった…。

 6月9日、金曜日だった。

 茫然としたまま、家族だけで11日の日曜日に葬式をした。

■■■■■

 6月14日の水曜日、東京、千鳥ヶ淵近くのエンターブレイン社で、柴田さん、中坊さん、JUNさんたちと刊行のための初の打ち合わせをした。

 もちろん。

 ベッドサイドで看護師さんたちに叩いてもらった打ち出しを持っていった。

 母親の死は誰にも言わなかった。

 とにかく、ぼくにしては珍しく、いろいろな人の意見を聞き、いろいろと叩けたのは、母親のおかげである。

■■■■■

 もうすぐ一年。『遊遊さかな大図鑑』は、色校正となって、すべて校了し、印刷するばかりになっている。

 母親は、ぼくの図鑑の刊行決定を知っていたのか、知らなかったのか、いまも分からない。

                       英人


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