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[5622] 怪投乱麻>メバル>謎は解かれた 
2003/4/2 (水) 10:31:38 小西英人HomePage
◆画像拡大
■大きな眼を見張ってなにを想う
魚の声聞けるは釣り人と研究者■


■怪投乱麻Vol.92■週刊釣りサンデー2003年4月20日号より転載
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百年論争。メバルの謎は解かれた


魚類学
釣りだから見える色こそ重要だの巻

■たぶん。
■釣り人こそ、魚の色を、よく知っていると思う。そして、その釣り人の、よく知る色こそ、たぶん、いちばん輝いている最高に美しい色なのだと思う。
■なぜならば。
■それは断末魔の色。生を閉じる前に、ひときわ燃えあがる命の炎の色。一瞬の色だから。
       ■
■さまざまな魚の、さまざまな色、それに酔いしれてきたのが釣り人だと思うが、メバルの体色の違いを見て、これらを同じ種だという研究者は信用できないぞと、眉に唾をつけていた釣り人も多いと思う。もちろん、研究者の眼も節穴ではない。
■フランスの動物比較解剖学の創始者、キュビエが1829年Sebastes inermis Cuvier,1829と新種記載したのがメバルのデビュー。そのあと、長崎のシーボルトが送ったコレクションから、オランダ・ライデン博物館のテミンクとシュレーゲルが、メバルを記載しているが、この辺から間違いが忍びこんだ。
■1904年、メバルの混乱は本格化する。アメリカのジョルダンとスタークスはメバルを2種に分けた。それを1935年に松原喜代松はメバル1種に統合した。1985年に台湾の陳楽才により、メバルは単一種ではないと指摘され、いくつかの別種に分かれるとされた。これを受けてロシアのバルスコフは胸鰭軟条数の違いから3種に分けた。1993年に中坊徹次は陳とバルスコフの分類は再検討の必要があると暫定的にメバルを1種とした。2002年に甲斐嘉晃と中坊徹次は、3色彩型にしぼりこんで計測形質、計数形質を、さまざまに解析し、多くの形態形質の違いを明らかにし、生殖的な隔離がある、つまり別種であることを示した。また、甲斐嘉晃、中山耕至、中坊徹次は、AFLP法で遺伝子を解析して、この3色彩型が遺伝的にも別種であると示した。
       ■
■【さかなBBS】で、わいわいがやがや騒いでいた。ぼくが管理するインターネットのHPである。東京の釣り人が神奈川県三浦半島の長井で釣ったメバルの写真を3枚アップした。ぼくは2タイプに見え、もうすぐメバルは3種になるが、京都大学に行ってレクチャーを受けなければわからないと議論していた。そうしたら京都大学の甲斐嘉晃さんが、BBSに見分けを書きこんでくれたのだった。
■メバルに多型があるのは研究者では有名だった。何とかしなければならないと『新さかな大図鑑』を編みながら、いつも京都大学の中坊徹次教授と話していた。そうこうしているあいだに、まだ学部の学生だった甲斐嘉晃さんが、中坊博士の門を叩いたのだった。メバルをやることになり、標本集めやら釣り採集を少し手伝った。彼は釣り好き少年だった。だから京大で魚の研究をやりたかった。釣りで魚をよく見ていたから、メバルの色彩型を追いかけるのによかった。甲斐さんは現在、京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻の博士課程にいる。メバルを中心にフサカサゴ科全般の研究をすすめている。その甲斐さんが去年の日本魚類学会の学会誌にメバルの3色彩型の論文を発表し、そのあとイギリスの「モレキュラーエコロジー」誌に遺伝的に解析した論文を発表していたのは別刷をいただいていたし知っていた。それらの研究は色彩3型は別種であることを示していた。京大に行って甲斐さんと中坊さんに教えてもらおうと思いつつ、そのままになっていた。それが、インターネットで教えてもらっている。
       ■
■甲斐さんの色彩型を書く。
■A赤色型・胸鰭軟条15本。
■B黒色型・胸鰭軟条16本。
■C茶色型・胸鰭軟条17本。
■この3色彩型になる。メバルはさまざまな色に見えるので、釣り人も、さまざまないいかたをするが、関西の釣り人が、ふつうに呼び分けるのと、甲斐さんの色彩型は違うから注意しよう。Aの赤色型は、ふつう「あか」とか「きん」とか呼ばれることが多い。Bの黒色型は、ふつう「あお」と呼ばれる。Cの茶色型が、ふつう「くろ」と呼ばれる、いちばんメバルらしいメバルである。体高が高くて、体が、がっと張って、焦茶色の体色が眩しい。A型は、ちょっと変異のはばが大きく、C型と間違えやすいのが多いという。典型的なのは、体色も赤っぽく胸鰭や腹鰭も赤っぽかったり白っぽかったりする。体高は低くスマートである。胸鰭の先がとがる傾向がある。甲斐さんも写真では見分けにくいことがあり幼魚の見分けも難しいという。B型は、釣り人なら、いちばん見分けやすいだろう。生きているとき、背が、青っぽかったり緑っぽかったりする。この3型の中で、いちばん数が少なく、やや外洋性のようだ。瀬戸内でいえば奥部には少なくて両端の外海につながるところに多い。紀州の磯など、このタイプが多い。3型は同じ所にもいる。同じ所にいるのに交じりあわないのは生殖的な隔離がある。つまり別種である。胸鰭軟条を数えてもA・B・C型に分けられるが絶対ではない。体色、形態、臀鰭軟条数、鱗数など複合的に見て分けなければならない。
       ■
■何をもってメバルと呼ぶのだろうか。メバルを見つけ標本にし、その標本に初めてルールに従って学名をつけたら、その標本そのものがメバルの「定義」となる。メバルと標準和名で書いてきたが、メバルの学名は昔からかなり混乱している。3種に分かれるのならば、いままでの学名の標本を調べ、それが、いったい何なのか整理し、3種の学名を確定して、はじめてそれぞれの定義ができる。それが論文にまとまったら、メバルは正式に3種に分かれる。それからそれぞれの学名に新和名が提唱されるだろう。いま甲斐さんは、その研究を急いでいる。来年の今頃には新和名が提唱されているのではないだろうか。
       ■
■形態形質の詳細な分析、遺伝子の詳細な分析、最新の緻密な研究により百年論争に終止符が打たれた。凄いことだと思う。しかし、とっかかりが生時の体色であったのが嬉しい。輝く色を見つめる釣り人だからこそ、できたのではないだろうか。
■彼のメバル論文の謝辞には、たくさんのアノニマス・スポーツフィッシャーメンが標本採集を助けてくれたとある。アノニマスとは匿名である。匿名釣り師に支えられた研究に、ぼくは釣り師として誇りを感じる。
■生と死をかけたメバルの輝く色、これをきちんと目に焼きつけ記録し、メバルの謎に研究者とともに挑戦したいと思う。


■参考論文
■Yoshiaki Kai, Tetsuji Nakabo (2002)
Morphological differences among three color morphotypes of Sebastes inermis (Scorpaenidae).Ichthyol Res 49:260-266
■Yoshiaki Kai, Kouji Nakayama and Tetsuji Nkabo (2002)
Genetic differences among three colour morphotypes of the black rockfish, Sebastes inermis, inferred from mtDNA and AFLP analyses.Molecular Ecology 11:2591-2598

■メバル、またムラソイなどフサカサゴ科の魚を研究のために送ってください。
■クール宅急便、冷凍、着払い。採集日時、釣り場など書いたメモをいれてください。■標本送付先
〒606-8501京都市左京区吉田本町
京都大学総合博物館 Tel:075-753-7731  中坊徹次気付甲斐嘉晃あて

[5623] 似たモン魚譜>メバルA型 vs C型 
2003/4/2 (水) 10:36:24 小西英人HomePage
■似たモン魚譜■連載■241■週刊釣りサンデー4月20日号より
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※メバル Sebastes inermis

メバルA型 胸鰭と腹鰭は赤っぽい
VS
メバルC型 胸鰭と腹鰭は茶色っぽい

■あんなもの、すべて同じ種になるとは信じられない…釣り人が研究者に不信を持つ魚は多い。メバルなど、その好例ではないか。
■そうメバル、研究者たちは百年にわたって議論を続けてきた。二十一世紀になって、やっと決着がつきそうだ。京都大学大学院農学研究科の甲斐嘉晃さんが、メバルの生鮮時の体色をもとに3型にわけ、形態学的、遺伝学的に精密な分析を行い、この3型は別種であると論文で発表した。詳しくは『怪投乱麻』を読んで欲しい。ここでは今週と来週の2週にわたってメバル3型の見分けを書こう。
■甲斐さんはAを赤色型、Bを黒色型、Cを茶色型としている。今週はA型とC型の見分けを書く。A型は変異が大きく見分けにくいという。体高が低くスマートで胸鰭と腹鰭が赤っぽい。俗に「あか」とか「きん」とか呼ばれることが多い。C型は、ふつうに釣り人が「メバル」だと思うタイプで俗に「くろ」と呼ばれることが多い。体高が高く胸鰭と腹鰭が茶色っぽいか黒っぽい。どうしても見分けられないなら胸鰭軟条を数えるとよい。15本ならA型、17本ならC型。百年議論されてきたんだからなかなか難しいぞ。小西英人■

[5624] 似たモン魚譜>メバルB型 vs C型 
2003/4/2 (水) 10:38:53 小西英人HomePage
■似たモン魚譜■連載■242■週刊釣りサンデー4月27日号より=========================================================
※メバル Sebastes inermis

メバルB型 生時に背は青っぽい
VS
メバルC型 生時に背は茶色っぽい


■ほんとうに生きて跳ねているとき、メバルはさまざまな色に輝く。そのなかでも背鰭に近い部分が、青かったり緑っぽかったりするメバルに気づいた釣り人はいるだろうか。
■俗に「あお」と呼んだりする、このメバルが、京都大学の甲斐嘉晃さんが分けたB型。死んだときの体色から黒色型と甲斐さんはしているが、釣り人のいう「くろ」は、もっともポピュラーに見られるC型、茶色型になるので注意しよう。このB型の見分けは簡単で背が青いか緑になる。C型の背は茶色い。迷ったら胸鰭軟条を数えたらよい。B型は16本でC型は17本だ。臀鰭軟条数でいうと、A型は7本か8本、B型は7本、C型は8本になる。このB型は外洋に多いようで、関西でいうと瀬戸内の奥部には少なく、両端に多い。紀州の磯で釣れるのはB型が多いようだ。
■胸鰭軟条でいうと、A型15本、B型16本、C型17本と分かれるが例外もある。また幼魚は見分けにくい。体色、体形、胸鰭、臀鰭など、じっくり観察し、メバルといわれた種の中に潜む3種を見抜く力を、われわれ釣り人も持たなければならない。そして見えてきたことを研究者に伝えたいものだ。小西英人■

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