映画>いつかA列車に乗って
『いつかA列車に乗って』(荒木とよひさ監督/2003)。
こないだの新宿でひろすけさんにいただいたDVDを、さっそく観てみた。ひろすけさん、ありがとう。
A Train という名のジャズクラブの開店から閉店までの数時間に、店内で起こる人間模様を描いたグランドホテル形式。カメラはまったく店内から出ることはないので、店の外観がどうなっているのか、どんな街にあるのかさえもわからないのだけど、視線やアングルが固定される感じは全然ない。むしろ、場のシチュエーションが単純であることが、人のシチュエーションを際だたせて、余計なものを描くことがないので気持ちがいい。
開店直前に店にやってきて、カウンターに座り、閉店まで居残って延々とスコッチを飲みながら、店内で起こるさまざまなことを時に収め、時に導く常連客・津川雅彦が、この物語のプロデューサー的な存在。種々雑多な人々を登場させながら、物語の重心を低く保っていられるのは、まったくこの人の存在感によるところで、いい人を選んだと思う。
ほんとにあんな風に次々にいろんなことが起こっては店は大変なんだけど、どれも実際にありそうな話ではあって、まあ1年とか2年の間に起こったことを1日に凝縮してみたといったところ。ジャズ屋さん特有の、店対客、客対客、あるいは人対空間といったものが織りなす、ちょっとした緊張感とかいうものもよく出ていたと思う。そこの人間関係は、きわめて薄くて軽いものではあるのだけど、その店が「帰る店」である人にとってみれば、やはりかけがえのない空間だった。今、そんなジャズ屋さんはほんとに少なくなった。
そういえば、10代の頃に時々寄っていた鹿児島の「パノニカ」に、サントリーの角瓶を脇に置いて演奏するピアニストがいた。その刷り込みのせいだか、最近までジャズマンは角瓶を飲まなくてはならないと、ぼくは思っていたのだけど、この映画でもプレーヤーがみんな角瓶なので、もうそれだけで、いい映画のような気がする。
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