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[627] ネズッポ科>第1背鰭から始まる不思議の世界 
2002/5/2 (木) 06:11:54 小西英人
▼ JUNさん

 青斑ねえ。ぜひ、集めてみたいな。情報と、そして標本も。

 そのまえに、呼び方に困る、がっちょ、めごち(関東はめごちだよ)、てんこち、ごっばば…ですが、ここではネズッポ科魚類から、ネズッポと呼びますね。

 このネズッポ、性的2型があるのを、みなさん、知っていますか?

 雌雄で斑紋や色、そして形態まで差があるのです。

 茶色くて、ねばねばで、くさくて、厭なヤツだとだけ思っていませんか?

 鰭を拡げてみると、その美しさに驚きます。そして体表をよく見ると、鮮やかすぎる色と斑紋に飾られていることに気がつくでしょう。

 ネズッポたちの華麗な世界の入り口は、ウサギを追ってウサギの穴に落ちる…のではなくて、第1背鰭を拡げてみることです。すると、思っても見なかったワンダーランドが拡がるでしょう。

 青斑も、JUNさんが、騙されたと思って第1背鰭を拡げたことから始まったのです。

 ということで、とりあえず入門として『怪投乱麻』に書いた、ネズッポ科魚類の話を転載しておきます。


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【怪投乱麻】vol.47
淡路島●ふんふんふんふん吹上浜で興奮の巻


淫靡な蝶。
がっちょの華麗な世界


■ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん…。ぼくの鼻息しか聞こえない。自分の世界に没入し、まるで、蝶の展翅をしているような気分だ。展翅…? ふと1965年のウィリアム・ワイラー監督、テレンス・スタンプ主演の映画「コレクター」の淫靡な世界を感じる。どんな世界かって? あのテレンス・スタンプを知らない人にいくら説明しても無駄だから知っている「ぼくら」だけ、にやりとしておく。ともかくコレクターというのは偏執的で変なところが昔からあるのかもしれない。それにしても「がっちょ」が蝶に見え、淫靡に感じるようになった、ぼくって変?
       ■
■ネズッポ科魚類って呼び名に困る。「ネズッポ類はね…」などといって、頭の中にその魚のイメージができる人は研究者だけかもしれない。「がっちょはね」「てんこちはね」「めごちはね」といって、やっと分かる人が増えるだろうか。「のどくさりはね」といって分かる人は全日本サーフの会員だろう。
■底が磯でない限り、どこにでもいるし、いれば釣るのは難しくない、いや、釣りたくなくても掛かってきて、棘をたて、ぬめりは多くべたべたで、タオルに引っかかりまくって始末に悪いうえに、タオルをずるずるにして使い物にならなくしてしまう嫌われものである。ずず茶色い体は、お世辞にも美しいとはいえない。しかし、鰭を立ててみると瞬時に世界は変わる。
       ■
■去年出版した『釣魚図鑑』のネズッポ類は側面から見た鰭立て写真をずらりと並べてみた。この美しい世界を釣り人みんなに知って欲しかったからだ。あんなに美しく、どうやって撮すのかと聞かれることも多い。魚の鰭立て写真に「こつ」や「技術」などない。きれいに撮すんだという「気持ち」しかない。美しい魚を美しく、映像として残して見て欲しいという、強い欲求だけで撮影している。
■研究者が鰭立て標本写真を撮るときは、死んだもので鰭を拡げフォルマリンを刷毛で塗って鰭を固定するか、虫ピンでとめる。生きている場合は動かないように麻酔剤を使う。魚の色ってとても微妙なもので、フォルマリンを塗っても、麻酔剤を使っても、一瞬で色が変わる。
■ぼくは釣りあげたら、すぐに竿を放りだして、魚から丁寧に鉤を外し、撮影用のバック板に魚体にあわせた穴をあける。そこに魚をいれて、海水をかけて濡れて元気になるようにしながら、鰭を拡げていくのだ。簡単に鰭の拡がる魚もいる。難しくて癇癪を抑えて抑えて抑えて抑えて、根気のいる魚もいる。
■がっちょは、むちゃくちゃ根気がいる。まずぬめぬめだから鰭を拡げるのが難しい。第一背鰭、第二背鰭、臀鰭、尾鰭と拡げているうちに、元気のいいがっちょは、鰭を、ぱたんとすべて閉じたり、跳ねあがって逃亡しようとする。また始めからやり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し…。何度やり直すか分からない。しかし、ふんふんふんふん、自分の鼻息を聞きながら鰭を拡げることに没頭して、何度も何度もやっていると、ほんと、蝶の展翅をやっているような錯覚に陥る。
■淡路島の吹上浜で釣った、このがっちょは、トビヌメリの雄であった。全長十センチあまりであったが、はっきり雄の特徴はでている。まず臀鰭に黒褐色の特徴的な縞模様がある。これだけでもトビヌメリの雄と同定できる。あと尾鰭に暗色点があって下部が暗色になり、第二背鰭に二列の暗色点があり、第一背鰭の四棘のうち第一と第二の棘がのびる。頬に多くの黄色点があるのだが、これはまだ不完全であった。ネズッポ科魚類は雌雄の模様が違うものが多い。なぜなのか。決まっているでしょ、求愛のためなのである。
       ■
■ネズッポ類の産卵は夏の間に行われることが多い。トビヌメリでいうと、トビヌメリの雌は夕方の産卵時刻になると目印のない砂底でも、必ず同じ場所に現れる。ここで雄の求愛を受けるのだ。この場所をジャック・モイヤー博士は「ランデブー・サイト」と名づけた。そこに雄は集まり喧嘩をし、残った雄は雌に気に入られるために派手で大きな鰭を閉じたり開いたりする。このための、美しい鰭なのだ。雌がその気になると雄は大きな腹鰭を雌の腹の下に入れ、優しく持ちあげるようにしながらゆっくりゆっくり上昇する。それは仲良く手をつないで泳ぐ新婚旅行なのだ。そして放卵、放精して、素早く海底に戻る。嘘だろうって? もちろんぼくは海底の大恋愛ドラマを見たことない。一九九四年に東海大学出版会が出した『さかなの街』という写真集を見て欲しい。中村宏治カメラマンのトビヌメリの雌雄の素晴らしい生態写真とモイヤー博士のわくわくどきどきする解説が載っている。
       ■
■ちっちゃなトビヌメリの雄に苦労している。鰭を立ててくれない。じっとしてくれない。あたりまえだけど。でも、トビヌメリの華麗な世界の一端を知って欲しくて、いや、ただ写真を手元に置いておきたいというコレクターの情熱からなのか、とにかく熱中する。結局三〇分ほどかかって、息も絶え絶えになったカメラマンは、ごめんなごめんなとつぶやきながらトビヌメリを逃がしてやった。食べるには、ちっちゃすぎるもんね。「がんばれワカゾー。その鰭でうまく雌を誘惑するんだぞ」
       ■
■ほんとは大ちぬを釣りに来たのだった。淡路島の地図を見ていて、そうだ、吹上浜だと思いついたのだった。ぼくの釣りはこんな思いつきで決める。釣れているか釣れていないか、あまり気にしない。ところが、家を出る頃には「釣れる」という確信に満ちているから、我ながら単純だなあと思う。暮れなずむ吹上浜で大ちぬを夢見ながら投げていたのであった。一晩中、動き回った。夜中が満潮であったから、何度も何度も投げなおした。餌は時々盗られるだけ、さすが大物場、来たら大物だ。わくわくしていた夜は明けた。釣れたのはクサフグだけ…。
■朝になっても意地になって釣っていたらマコガレイがぽろりと釣れた。それでがんばっていたら、ちっちゃなトビヌメリがぽろりと釣れたのであった。
       ■
■日本産のネズッポ科は三十七種もいる。そのうちネズミゴチやトビヌメリ、ハタタテヌメリはどこにでもいる。でも、その美しさを伝える写真は少ない。こつこつ撮りだめ、いひひいひひと楽しむのに飽きたら、また魚類図鑑にまとめようっと。


週刊釣りサンデー2001年6月10日号【怪投乱麻】より転載