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[4255] 放流>われわれが違う流れを… 
2003/1/6 (月) 06:31:51 小西英人HomePage
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※右が鼻孔に異常のあるマダイ。左が正常なマダイ(釣魚図鑑より)

▼ 忠さん

 放流は、基本的には問題がありすぎます。よくないことです。よしんば、よい放流であったとしても、そういう「薄っぺら」な解決策をとっていると、いつの日か、しっぺ返しを食らうでしょう。日本の内水面も、いま、眼を覆う惨状です。

■放流御三家(マダイ、シマアジ、イシガキダイ)

 基本的に、奄美にマダイ、シマアジ、イシガキダイが多かったとは思えません。内地に出荷しやすい魚を選んでいるのでしょう。自然の海を、都合のよいようには変えられません。どこかに無理がでます。また、どうしても放流するなら親魚は奄美のものにするべきですが、これらの種苗が内地から手に入れやすいと言うこともあると思います。非常に安易な放流の「臭い」がしますね。実情は知りませんけど。

■先月の12月だったかな、新聞でスジアラ稚魚を放流

 スジアラは、まだ親魚は奄美産のものかもしれませんね。けれども大型になるし、魚食魚だし、もともと、そう多くは存在できない魚ですから、稚魚をいれても、乱獲をやめない限り、あまり実効はないと思われます。漁師に獲るなといっても無理でしょうから、漁法とか、禁漁区とかで制限し、工夫し、教育をして、大型の根魚類を獲り尽くさないようにするべきでしょう。

■写真の魚は放流されたヤツだと思いますが

 養殖の魚は、その飼料と薬品が怖いです。またその飼料と薬品は海に投下されるのですから、まわりの魚まで危なくなってしまいます。がんがん、抗生物質など使われています。水産薬品は、あまり規制がないのです。牛とか豚とかの肉類には、獣医がいて、薬品も制限されるのですが、「魚医」などいなくて、水産薬品に制限はなく、基本的には餌に混ぜて経口投与するので、病気の魚も、そうでない魚も、まわりの自然界の魚も、ぱくぱく食べるから、実際に与えないければならない病気の個体より、元気な個体の方が、薬品の摂取率が高くなるという、怖いことがおこります。

 それにくらべれば、稚魚で放流して、その海で育ったもののほうが、食品としてだけみた場合は安全です。

■自然体験?

 稚魚を。どぼどぼ放流して、お魚さんよかったね。海の自然は守られます。これが「最悪」でしょうね。もし、子供に自然保全を手伝わせて、自然の凄さと危うさを知って欲しいのならば、たとえば産卵床の整備とか、そういうことを、うまくやってもらうことでしょう。ひとは汗をかかなければ実感はできないのです。そういう教育をできる人材も、余裕も、時間もないのが実情ですが。「総合学習」にあわせて、各地の自然博物館など、がんばって、磯遊びや、干潟のプログラムを研究したりしていますが、なかなか、大変なようです。とにかく、子供の時に、安易でひどい方法を教えて、マスコミも、記者など常識がないから、それを「美談」と書いてしまう、そういう社会の流れを変えていかなければならないでしょう。われわれ釣り人がね。

 長くなってしまいましたが、最後に、ぼくが書いた放流の話があるので、前にも転載しましたが、再転載しておきます。

                            英人


■『釣魚図鑑』(小西英人・2000年)より転載
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魚あれこれ
ぎょぎょ事典C
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それはマダイの悲鳴である! のかもしれない
放流■


■体重2sのマダイは、1000万粒の卵を持つという。さて1000万粒の卵から、何パーセントのマダイが生き残って生殖に参加したらマダイの群れは減らないと思う?
■8%、7%…1%…まだまだ。0.1%、0.01%、0.001%…まだまだ。0.00002%あればマダイは減らないのだ!
            ■
■ごめん。意地悪した。雌雄が同じ数だと仮定し、成熟した雌雄から2粒の卵が生き残って産卵に参加したら全体の数は変わらない。1000万粒から2粒、百分率にすると0.00002%になるが意味はない。実際の資源量を計算するのは不可能だし生残率を計算するのも不可能だ。
■しかし、ごく大雑把に考えて何百万粒の卵から産まれだそうと、2尾から2粒が残れば資源量は変わらない。硬骨魚類の生き残り戦略というのは、それほど凄まじい。卵から稚仔魚期にほとんどが食べられてしまう。こういう「生き残り戦略」を持つ生物が「大発生」したと世間が騒ぐと研究者は「ぷっ」と笑う。大発生ではない「生残率」がほんのちょっと「ぶれた」のだ。2粒残るのが3粒残っちゃうと、その年の群れは1.5倍になっちゃう。
            ■
■東北大学の谷口順彦博士の「魚介類の遺伝的多様性とその評価法」という『海洋と生物123号 AUG.1999』に載った論文を参考に書く。マダイのように多数の卵を産みっぱなし一腹子の生残率が低いのを「多産性放任型」という。マダイを100万尾捕まえ、兄弟姉妹関係にあるものを見つけようとしても不可能に近い。自然界のマダイで近親交配が起こる心配はない。マダイの養殖、つまり人工種苗生産というのは、稚仔魚期の「歩留まり」をいかに高くするかである。これは「多産性放任型」への挑戦だ。体長5pの幼魚を「種苗」というが、マダイ100万尾の種苗を生産するのに、親の数は、せいぜい50尾でいい。雌雄2尾あたりで4万尾を産むことになる。養殖集団のマダイでは、兄弟姉妹関係にあるものが多くなる。
■100万尾のマダイでも「野生集団」と「養殖集団」でまったく違う。100万尾を「集団の見かけの大きさ」とすると、遺伝的な類縁性のない親の数を「集団の有効な大きさ」という。この養殖集団の有効な大きさは簡単にいうと50尾である。野生集団では有効な大きさを推定するのは不可能とされているが、100万尾なら数万尾と見積もられることもある。見かけは同じでも50対数万、野生集団と養殖集団は遺伝的に、これほど大きな隔たりがある。「多産性放任型」への挑戦とは、集団の遺伝的多様性を破壊すること。栽培漁業は野生集団を攪乱し、その遺伝的多様性まで減退させる可能性があるのだ。
■国連食糧農業機関(FAO)は親魚を継代しないとう条件で「有効な大きさ」を50以上、継代するならば500以上は必要であるという目安を発表しており、あるマダイの人工種苗の「有効な大きさ」を実測したら63.7で、FAO基準より大きかったという。谷口博士によると種苗生産技術者たちはDNA鑑定を自前で行うところまできているし、その努力をあたたかく見てほしいという。
            ■
■「奇形養殖はまち」騒動を覚えているだろうか?
■1980年前後から大騒ぎになった。養殖のハマチの背中がどんどん曲がっていく。水揚げ魚の数十パーセントも曲がっていたりして、当時、船底塗料とか養殖生け簀網の防汚剤に使われた有機錫系毒物、トリブチル錫オキシド(TBTO)が原因として疑われた。その後、TBTOは全面禁止になり、事態はとりあえず沈静化した。
■研究者は「ブリの骨曲がり」と呼んでいるが、これはTBTOが主因ではなかった。数十ミクロン以下という小さな原虫類といわれる単細胞生物がいる。その仲間の粘液胞子虫が第4脳室に寄生すると、なぜかは解明されていないが脊柱が複雑によじれたり曲がったりする。ちなみに「騒動」のときTBTO説を唱える運動家の一部は、脳内寄生虫説を発表した研究者を「御用学者」と決めつけ攻撃した。声が大きいと真実なのではない。真実は都合のいいものでもない。いつも「心」しておきたい。
            ■
■1975年、沖縄海洋博のため、広大な生け簀に四国から運んだブリを25000尾放養した。そのすべてのブリの筋肉に粘液胞子虫が寄生し肉が霜降り肉のようになった。内地から沖縄に存在しない寄生虫が持ち込まれたのかと調査された。ところが、この寄生虫は沖縄のスズメダイ類にふつうにいる寄生虫だった。寄生しても1個体に1個くらいなので見分けられず、知られてもいなかった。天然宿主と寄生虫は長い長い年月できれいな平衡がとれていたのだ。そこに「感受性」の高い内地のブリが持ちこまれたものだから、いっせいにやられたのだ。
■1980年、長崎県の養殖スズキで骨曲がりがでた。調べると粘液胞子虫の新種であった。韓国からの輸入スズキであったために韓国原産かと疑われたが、男女群島で採れた「もじゃこ」から育てたブリにも同じ虫がいた。九州沿岸にもともといた虫の可能性もあった。
■「骨曲がり」はブリで1970年代から現れ、自然のいろいろな魚に広がっているように見える。ぼくの知っている限りでも各地のスズキ、メジナ、マダイ、クロダイ、イシダイ、シロギス、フエダイ、ムツ、ホウボウ、キタマクラ、などなどに骨曲がりが見られた。「養殖」という「無理」が「集団感染」を引き起こし、それが自然界に「伝播」したのではないか。また養殖集団の遺伝的多様性が失われると自然ではあり得ない「高い感受性」を持つのではないか。いまのところ感染源も伝播ルートもまったく分かっていない。これは原虫による寄生の例だけど、細菌やビールスによる集団「感染」と自然界への「伝播」も、いまや現実の問題になっている。
            ■
■養殖、種苗生産、稚魚輸入、放流…、育てる漁業は怖い。「放流」というと「善いこと」と美談にされるけどそれでいいのか。いやそれどころか種苗生産してもっと放流することこそ「善」であり生物の保護になるという論調さえある。マダイの放流、クロダイの放流、ヒラメの放流…、なんでも放流がいいんだ。「放流」の危険性を水産系や養殖系の研究者や水産庁は知らないからバラ色の未来を描くのか。いや、よく知っている。けれども黙っている。社会も釣り人も「放流の生物学的危険性」を知らなければ危なすぎる。とりあえず科学的検証のない、安易な放流や種苗生産は排除するべきなのだ。
            ■
■『新さかな大図鑑』を編んだとき26個体のマダイの写真を載せた。もちろん自然の海で釣ったマダイだ。ある研究者は、ほとんどが人工種苗産のマダイだという。
■鼻孔がおかしいのだ。マダイの鼻孔というのは片側から見ると円形の前鼻孔があり長円形の後鼻孔がある。ふたつの鼻孔は皮で隔てられる。人工種苗マダイは初期の栄養のアンバランスにより「鼻孔隔皮」に欠損や形態異常が6〜9割もでた。図鑑のマダイがそうだという。ふつうに釣ったマダイはほとんど「放流」されたものだろうか。「人工」は「自然」を駆逐するのだろうか。これこそ日本の海の「現実にある恐怖」なのではないか。

初出●『磯釣りスペシャル』2000年1月号