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[34087] 図鑑裏話4>カリフォルニア・ドリーミング 
2007/5/14 (月) 10:04:59 小西英人HomePage
 突然、「カリフォルニア・ドリーミング」のメロディが鳴り始める。

 来た来た来た…!

 覚悟してメールを読む。

 「ノルウェイの森」のメロディが鳴る。

 よっしゃ!なにやろ?

 時には、カリフォルニア・ドリーミングと、ノルウェイの森が、交互に何度も響き渡る…、ああ、忙しい。

 インターネットでメール受信すると、携帯電話メールに転送するようにしている。家にこもってパソコンとにらめっこして仕事していても携帯電話の着メロで、メールの着信が分かる。

 カリフォルニア・ドリーミングは、京都大学の中坊さんだ。

 ノルウェイの森は、エンターブレインの柴田さんだ。

 中坊さんは忙しいから、バラバラに読まずに、まとめてチェックしたいとおっしゃる。ある分類群がまとまると、カラープリンターで打ち出して、速達で郵送する。それが着いて、中坊さんのチェックが始まると、次々とメールが入る。

 「OOOとあるが、これは思いこみと違うのか、違うのなら典拠を示せ」

 「OOOの写真同定は誰がやったか、英さんがやったのならば、同定の根拠を示せ、標本にしているのならば、どこにある?」

 「OOOの論文から引用したようだが、あれは危ない、ほかに典拠したものはあるのか」

 ときには

 「あほ!」「ばか!」「駄作!」「生兵法!」

 と、厳しい言葉がだけであったりする。とにかく矢継ぎ早に質問が来るので、文献をひっくり返したりネットで調べ直したり、てんてこまいである。

 しかし、魚類分類学のトップが、その頭脳をフル回転させて、ぼくの写真、レイアウト、文章をチェックし、調べ直せとか、典拠や、論拠を求めてくるのは、ほんとうに知的にエキサイティングなもので、大変だったけど、面白く、楽しく、勉強になった。

 大学の先生の監修って、おざなりのことも多い。ある先生が監修した、ある釣り人の魚類図鑑で、円口類とはウナギ形の魚類であると書いていて、ぶっとんだことがある。これ、説明しないが、こういうことを見逃した先生は、へそを噛んで死ぬべきだし、こういうことをチェックしていただけない先生に監修してもらっている釣り人は、哀れである。

 ぼくは幸せである。

 京都大学に通ったこともないのに、「マジに」怒ってくれる教授がいる…。

 メバルのレイアウトを見たときなどは、日曜日に先生の自宅に届くように送ったのだったが、5通ほど、罵倒のメールが続いて入って、これはさすがに気に入らないのか、全面やり直しかと思ったのだが、実際は、非常に気に入っていただけたようで、それだけに眼が厳しくなり、細かいところの直しに力が入っただけのようだった。

 メバルは3種に分かれる。これの和名と学名の決定論文は、京都大学の甲斐博士と、中坊博士が書いている。いつ発表するのか知らないけれど、年内には発表されると思う。そのために生態学的な知見などが、まだ分からないところが多い。それで、とりあえずは3種の見分けに力をいれて色彩3型を目立つようにレイアウトした。細かいことは、あとで打ち合わせるつもりだった。

 それを見て怒り狂ってはったのだった。

 細かい直しをした後は、この図鑑はええなあ、この図鑑は受け入れられるで…と上機嫌になった。

 中坊さんは、監修と言うより、ラストオーサーに入っていただいたようなものであった。論文を複数著者で発表するとき、もちろんファーストオーサー、第1著者が中心的ではあるのだが、この著者が若い場合など、なかなか信用されないことがある。そのために、いろいろ業績を積み上げていて間違いのない人が著者グループに入り、すべてのチェックをして最終著者として名前を連ねる。

 感覚的には、共著であり、感覚的には、ラストオーサーをつとめてくださったのである。これは感激であった。

 もっと感覚的に言うと、英さんは、釣り人として、好きにやりや。俺が後ろから見ておいてやるからな…ということである。

 ぼくは、うろうろうろうろうろうろ、きょろきょろきょろきょろきょろ、好奇心いっぱいのガキのように、魚類界をうろつき、いろいろ集めてくるのである。なにも知らないから、虎の尾を踏みそうになったり、地雷を踏みそうになったり、落とし穴に落ちそうになったり、いろいろ危なっかしいのである。

 「あほ!」「ばか!」

 よろめくと、後ろから罵声がとんできて、ぼくは助かるのである。

 英さんに罵詈雑言を浴びせてやって拗ねるかと思ったら、「ましな」図鑑つくりよった…と研究者仲間に、中坊さんは上機嫌で言う。

 これ、ぼくにとって、最大級の褒め言葉であって、嬉しい!

 まあ、これほどの大物に、はらはらと見守ってもらいながら、好きなことをさせてもらえるような幸せなことは、ふつう、あり得ないのである。ほんと奇跡に近いのである。

 このコンビに入ってきたのが、エンターブレインの柴田さんで、はじめに、ちょっとしたことがあって、中坊さんの罵詈雑言を浴び驚きはったようだが、「社会人になって、これほど、叱られたことも初めてで楽しいものでした」という柴田さんのメールを見て、ぼくは驚いた。

 この人は大物だなあ…と、それと、中坊さんという人間を一発で見抜いてしまったのだなあと。

 まえに、方針が決まったら、図鑑なんて、あとは「壮大な消化試合」だと書いたが、この消化試合、なかなかどうして大変なものであって、多いときには、数日ごとに揉め事の種がとびだしてくる。

 とにかく「何か」が起こるのである。本質的なこともあれば、どうでもいいこともあるるのだが、とにかく揉める。

 そうなると、3人の間で、同報メールが飛びかい、ぼくの携帯電話は、カリフォルニア・ドリーミングと、ノルウェイの森を、交互に奏でることになるのである。

 いまは、どちらの曲も、たまにしか鳴らない…。

 寂しい…。             英人