キャンセリング・マグネット
二六製作所というところに注文しておいたマグネットが届いたので、さっそくキャンセリング・マグネットの実験をしてみた。対象はスーパースワンに取り付けてある6N-FE108S。
キャンセリング・マグネットというのは、スピーカーを駆動する磁石に、同極を向き合わせて別の磁石を背負わせてやることによって、外部に漏れる磁界を打ち消そうというもので、テレビがブラウン管だった時代に(ついこの前だ)、磁力線による画面の影響を軽減するためによく使われた。
いわゆるユニットの防磁化のテクニックのひとつなのだが、オーディオにおいては別の意味を持つ。単純にユニットの重量が増えることによって不要共振等が軽減されることもあるのだろうけれど、一般にいわれている効果としては、
1.SN比の向上
2.低域のしまり、スピード感の向上
3.高域の切れ込みの向上
なんていうことになっている。
現用のスーパースワンについて、確かにもっと高域が鋭く切れ込んでくれたらいいと思うこともあるし、中低域のふくらみに気になるところもないではない。これが、磁石2個でなんとかなるならお得な話である。
用意したのは、直径90ミリ、厚さ16ミリ、内径50ミリのドーナツ状の磁石。二個をくっつけた状態で梱包してあったのだが、猛烈な磁力でもってカタクナにひっついており、はがそうとしてもはがれるものではない。指などはさむと大けがをしそうな勢いであった。
両手で磁石を持ち、少しずつずらしていく作戦に出て、ゆっくり時間をかけてなんとかはがしてみたところで、疑問がふつふつと湧いてきた。
これだけ強力な磁石である。おそらく6N-FE108Sの磁石も同等かそれ以上のものがついていると思われるのだが、その二つの磁石を「同極を向き合わせて」貼り付けるなんてことが、一体どうやったら可能なのだろうか。めちゃくちゃな勢いで反発し合うに決まっているではないか。
ところが、見る前に跳べというやつである。実際にやってみたら、なるほど最初は、ぐよん、ぐよんというか、ゆわん、ゆわん、というか、磁石と磁石の間の目に見えない空間に、激しい反発力が働いていたのだが、ある地点で、ちょっとセンターをずらしつつも、人間でいえば「ハスに構える」という恰好でもって、二個の強力磁石はひっついてしまったのだった。
このあたりの理屈がどうなっているのか、さっぱりわからないのだが、「反発しあう者同士でも、ちょっと視点をずらせば仲良くなれるものである」という真理がひらめいたわけである。磁石みたいな融通のきかなそうなやつでもそうなんだからな。人間なんてちょろいものであろう。
で、普通はこのキャンセリング・マグネットを接着してしまうわけなのだが、とりあえずその前に試聴してみることにした。
高域の切れ込み。確かに少し向上したように聞こえる。
低域のしまり。これも向上したように聞こえる。というか明確に向上した。
SN比。以下同文。
ということで、うたい文句通りの効果を確認したのだけれど(劇的・大幅な変化というほどではない)、迷った末にやはりキャンセリング・マグネットは使わずに、ノーマルのままでいくことにした。
ひとつひとつの「音」をとれば、確かに良くなっている傾向ではあったのだが、どうも息が詰まるような気がしたわけである。モニター調になるというか、厳格になるというか、こういう音が好きな人はいると思うのだが、なんとなく伸びやかさが後退したような感じだった。
ノーマルに戻して試聴してみると、中低域のちょっとしたゆるさが元通りになっていたのだが、その分、音が弾む。ジャズだとスウィング感が出てくる。おおげさにいうと、スピーカーが歌っている。
もともと、超強力なオーバーダンピングユニットだから、キャンセリング・マグネットの利点よりも、バックロードホーンとして空気室が狭くなったこととか、ダンピングがさらに強化されたことで、何か引き替えにしてしまったことがあったのかもしれない。
面白い実験ではあったのだが、強力な磁石が二つ余ってしまった。砂場で砂鉄でも集めてみるか。
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