2008年5月28日

殿山泰司と新藤兼人

『三文役者』(新藤兼人/2000)を観て以来、どうも毎日タイちゃんこと殿山泰司のことが頭から離れない。あれから、『三文役者の死(新藤兼人/岩波現代文庫)』と、『三文役者あなあきい伝』(殿山泰司/ちくま文庫)を「同時に」読み、そこで銀座の食堂お多幸の長男だったタイちゃんが家業を継ぐのがいやさに役者を志し、なんとか大部屋にまぎれこもうとして蒲田の撮影所の門前にアパートを借りて暮し始めた、なんて書いてあると、それならと『蒲田行進曲』(深作欣二/1982)まで観た。関係あるのか。

そういえば、『竹山ひとり旅』(これも新藤監督だ)で、竹山を可愛がる旅芸人のおじさんがいて、そのたたずまいとか踊りに、これはただもんではないと思ったのだったが、今思うと殿山泰司だった。

新藤監督という人は、タイちゃんが好きで好きで仕方がなかったのだろうと思う。あのおそろしそうな映画の巨人が、自称三文役者の生涯一バイプレーヤーに寄せる思いとしては破格のものであったことが、『三文役者の死』を読むとよくわかる。はっきりしないタイちゃん、どうもどうものタイちゃん、酒の飲み過ぎで肝硬変になり何度も死にかけたのに、やっぱり飲んでしまうタイちゃん。

何度か重要な役を与えるのだけど、タイちゃんは生まれながらの主演俳優のようにクライマックスにのめり込んでいけない。自然にさらりと流してしまう。それは主役の邪魔をしないバイプレーヤーとしては貴重な資質ではあるけれど、それが新藤監督にはもどかしい。

独立プロ近代映画協会が資金繰りに行き詰まり、もはやこれまでと最後のつもりで撮った、やけのやんぱちの実験映画『裸の島』で、タイちゃんを主役に据えたこと自体、「一度やりたかったことをこの際やる」という新藤監督の覚悟がわかる。

でも、当のタイちゃんはその時、肝硬変で担ぎ込まれ、肝臓は野球のボールのように硬くなり、ロケなんか行くと死ぬぞと医者に脅される。死んでもいいからやらせてくれとタイちゃんがいうと、そうだ死んでもいいからやらせてくれと新藤監督も口をそろえる。これは友情というんだろうか。心中のようなもんではないのか。

映画『三文役者』も、著書『三文役者の死』も、殿山泰司という役者がどのように人に愛されたかを描いた作品だといえる。そして誰よりも彼を大事に思っていた一人の監督の思いを。

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コメント

ボクも映画を見る時の焦点として、バイプレイヤーに注目します。
映画監督はわりと同じ俳優を使いますよね。

ボクの好きなバイプレイヤーは鈴木清順監督が多用していた野呂圭介という俳優さんです。どっきりカメラの看板持ちと言ったらわかりやすいかも・・・
海外ではボー・ホプキンス。この人、ペキンパー監督のワイルドバンチにも出ていたんですね〜〜〜。オープニングで死んじゃう所がこの人のいい所です。
(^^);

あるぽさん、ワイルド・バンチお好きですね。ぼくも観ましたけど、ものすごい迫力で血湧き肉躍り、観終わった時にはすっかりくたびれてしまいました。ラストシーン、敵だらけの中を4人でゆっくり歩いて向かっていくところがなんとも。

鈴木清順の野呂さんは、「けんかえれじい」で高橋英樹に仁義を切ったりするバンカラ学生で出てくるんだけど、その時高橋英樹が虫の居所が悪くて理不尽にも肥だめに叩き込まれておりました。

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