2008年5月 8日

芋を煮る

11時半にすこし眠くなったので、しめたとベッドに入り、レン・デイトンの「戦闘機」を1時間読んだのだが眠れない。まただめかと、起きてきてデパスを1錠飲む。デパスも最初のうちは、飲んで15分もするとほんわかとした気持ちになり、さあ、寝るべ寝るべとなったのだが、どうもこの頃は効きが弱いような気がする。

とにかく釣りに行きたいわけである。うちから10分の宮崎港でキスが釣れているのである。早く寝ることさえできれば、明日の朝は釣りに行けるのだ。寝さえすれば釣りなのだ。こんなにいい話はないと思うのだが、どうも寝つかれない。

しょうがないので階下の台所へ降りていく。台所へ行ったところでしょうがないものはしょうがないのだが、どうも台所に救いを求めたがる性質があるのかもしれん。その台所のマナ板の脇に、里芋が皮つきのまま7個ほど転がしてあった。おっと思って冷蔵庫を開けると、やはり板こんにゃくが一枚入っている。これは、「芋こんにゃく醤油風味」が作れるではないか。

数日前に、たまたま読み返した椎名誠の「哀愁の町に霧が降るのだ」で、20歳そこそこの沢野ひとしが椎名や木村晋介らと共同生活の中で、料理番を引き受けており、「芋とこんにゃくを煮る」というシーンがあった。カツオブシも一緒に煮ていた。味付けは、最後に醤油をたらすだけなのだが、これが妙にうまそうだったのだ。

突然、状況は発作的に里芋の皮をむきはじめる寝不足と回転目玉に苦しむ中年男午前2時27分というものになってきた。最近はピーラーというものがあって、皮むきにはコレというくらい便利なものなのだが、里芋の皮は存外に硬くて、ピーラーではさくさくむくことはできない。刃が薄いのでずいぶん薄くむけるのだが、何しろ芋が硬いためにいっぺん、ぴっとむいて次に刃を入れるのに少し慎重にならざるを得ないので、リズム感というものがない。里芋があの薄い刃をカタクナに拒んでいる気配がある。

こういうのは、ちょっとうれしいものである。大体、あのピーラーなどというものはどこか小賢しい道具である。切れればいいんでしょうという態度が露骨であって、ものとしての美しさや存在感というところまで気が回っていない。仕事ができるんだから姿やスタイルは二の次である。外見よりも中身である。文句あっかという感じなのだが、文句あるのだ。そこで、独身の頃のように包丁で皮をむきはじめる。といっても、里芋を左手でくるくる回しながら、あざやかに皮を薄く削いでいくというようなことは昔も今もできないわけで、やはりあの頃のように、芋を無理やりマナ板の上に押しつけておいて、うりゃうりゃといいながら、「こて、こて、こて、こて」という塩梅で切っていく。

皮をむくというよりも、身もろともそぎ落とすのだが、これはこれで、切った芋が複雑な多角形を組み合わせた立体造形となって、なかなかうまそうに見えるという利点がある。もっとも煮てしまえば、せっかくの多角形も角がとれて円くなった。

その頃には、鍋に水を入れて、マグロブシを大量に入れて、昆布も一枚入れておいたのが、ぐつぐつと沸騰してきた。見ると昆布から出たもろもろしたものに、細かなマグロブシが絡まって、非常にもろもろしたものが鍋の上に浮いている。こいつを小皿にすくって少し醤油をたらして味見をしてみたら途方もなくうまい。ためしに、少しゴハンを足してみたら、感動するほどうまいものになっていたのだが、量が少ないのでそれきりだ。幻のマグロブシ昆布もろもろ醤油ぶっかけめしであった。

こんにゃくは、短冊に切って真ん中に切れ込みを入れ、くるりとひっくり返したものを、どんどん鍋に入れていく。やがて芋が煮えてきたので、砂糖を少し入れる。おそらく沢野ひとしは入れていないのだが、ここは九州だからして入れる。そして醤油をちょっとたらして、ガスの火を止め、また部屋に戻ってきたところなのだ。朝になって、オクサンはヨロコブだろうと思うが、ぼくはまだ眠くならないのだ。

キス釣りはいつになるのだろうか。

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コメント

流石にパロディー上手ですね。シーナさんは最近本出してるのかしら?

本といえば読まなくなりました。読めなくなったともいう。長文ウザイ的生活を送ってるせいなのでしょうか。

高校生になった息子が本の虫で、買い与えてもあっという間に読み終えちゃうので、主に経済的な理由から(^^;)「罪と罰」を買ってやり、その近くに置いてあった三島を自分用に買いました。息子は一晩で読み終え、私は一週間で半分読めません。

最近の本屋さんの文庫本のコーナーってひどい所が多いですよ。シェイクスピアもセルバンテスもカミュもフォークナーも置いてありません。どうせ読めないからいいけどさ(^^;)。

あるぽさん。いまだに「百年の孤独」読み切れるんだろうか?

しんさん、おひさしぶり。

もともと、小説は長ければ長いほどヨイという方なので、ずいぶん昔に本屋からトーマス・マンの「魔の山」が消えた時にはがっかりしました。長女も本好きで、やたらに読むのが早いので、これもいけるだろうと「魔の山」を渡したら、ザセツしたようです(^^;)。それでも、小学生くらいの頃に「楡家の人々」を面白いといって読んでいました。

こういう長尺ものは、10代くらいの頃に何か面白いのをいくつか読んでおかないと、長じてからはだんだん読めなくなるみたいですね。ひとつの物語で2週間、3週間と暮らせるのは、いい時間だなあと思います。

しょうがないので階下の台所へ降りていく。
どうも台所に救いを求めたがる性質があるのかもしれん。
「芋こんにゃく醤油風味」が作れるではないか。

山出ワールド炸裂である。
相変わらず、おもしろいねえ~

最近、けっこう楽しみにして、読んでます。

がんばってね。

憂歌団(3)

どうもです(^_^)。どうもコメントから河原町あたりの気配がするのですが、気のせいでしょうか(^^;)。

夜中に里芋をむいていると、何か人生の深いところがかいま見えるような気がしますね。いちど、おためしください。

ピーラーは良く使いますが里芋に使ったことは無いかな?
邪道ですけど芋類は電子レンジでチンすると皮と身を別れさせやすいですよ。
里芋なんて両手でつまんで回せば簡単にツルっと剥けます。

しかしこんにゃくをひっくり返すなんて芸が細かいですねぇ。(^^;

たぬきさん、どうもです。時々、たぬきさんのサイトの料理関連エントリーを見ては、ほう、ほうと感心しています。先週末、オフで天草に行っており、5人のメンバーと楽しんできました。七輪でタケノコやトウモロコシを焼いてビールを飲みましたが、コサンタケというやつ、めちゃくちゃうまかったですよ。

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