フネについて
宮崎で経営していた会社をよして、甑島で半端漁師になっちまった親戚があるのだが、30過ぎの頃にそこに遊びに行って以来、いずれ自分でもフネがほしいものだと考えるようになった。
「一年働いて、▲▲▲万円にしかならんような会社なら、アジでも釣ってた方がましじゃ」
といって、その親戚はさっさと島へ渡ってしまったのだが、そこで乗せてもらった40馬力くらいの船外機を積んだ和船が素晴らしかった。その翌年、今度はもう少し大きなエンジンを積んだプレジャーボートも買い、その白い船体もまた素晴らしかった。
当時憧れたフネは、日産のサンキャットという双胴船で、26ft艇は中古でもとても手が出るものではなく、少し小型の20ft艇に狙いを定めていた。それでも中古で150万だか、170万だかしていたっけ。
えい、と意を決してしまえば、その時に買えたのかというと、おそらく無理だったと思う。会社をやめて、わが身をいかにして立てていくかという時期でもあり、お金なんかほんとに徹底的になかった。今でもないのだが、その時はもっとなかった。というより、少し仕事やお金に執着がなさすぎたように思う。
今回、富美丸を買おうかという話になった時、やはりサンキャットも見に行った。フネの世界は、この10年で船外機の4サイクル化が進み、古い2サイクルエンジンを4サイクルに換装したものは、それだけでけっこうな値段がするのだが、それでも、とっくに生産をやめている型でもあり、サンキャット26ftは、なんとか手の届くところにあった。
ほかに比べるもののない横安定性と、中央部をウォークスルーできる構造。船首側も、丸々使える広い空間。サンキャットの魅力は、これにつきるわけで、それと引き換えに速度も燃費も芳しいものではない。それでも、ほしいと思った。あそこに家族を乗せるのが、小さな夢でもあったのだ。
サンキャットは、ずっと夢であり続けていたのだが、結局、あまり迷いもなく富美丸を買った。何しろこちとら免許もないのである。あららさんが、あれはヨイといい、持ち主も紹介してくれた。人には添うてみよという。まして、船には乗ってみよともいうではないか。
夢のサンキャットとはだいぶ形がちがう漁船型の富美丸に家族を乗せて、門川湾に出てみた。船長の流星号さんを含めて、最大搭載人員6人のところ、5人乗船だから、とにかく人員はうかつにうろうろしないで、フネの中心線上あたりにじっとしていなくてはならない。
もしも、片舷にわっと人が集まって、そこへちょっとした曳き波でもくれば、いかに波静かな内湾といえども、それだけで富美丸は転覆の危機に瀕することになる。プレジャーボートに比べて横幅が狭い漁船型は、横安定性は良くないのだ。
その代わり、上部構造物が少ないので重心は低い。だから波っ気がある時にアンカーを入れても、波を増幅するような揺れ方をしない。さらに、イスやクーラーなどではなく、デッキに救命浮環なり防水マットなりを敷いて、どっかりあぐらでもかいて座り込んでしまえば、意外なほどに揺れを感じない。デッキというデッキが、どこでも釣り座になり、そのどこもが快適だ。腰で揺れのバランスをとる負担が減るので、体も楽である。
流し釣りをすると、さらに漁船の利点が生きてくる。風にのせて流す時、フネがどういう姿勢になるかというのは、水面上の構造物に受ける風の具合と、水面下の船型が受ける潮の具合の、両方のバランスで決まると思うのだが、プレジャーボートの多くは、風を受けると船尾側が風に向かって流れていくらしい。
富美丸は、舷側を風に向けて、風にほぼ直角の姿勢を維持したまま流れていく。だから、6人乗りの船で、6人全員が片舷から竿を出して流し釣りができる。流し釣りに良さそうだとは聞いていたが、ここまでとは。
燃費についてはディーゼルのでんでこ船であるので、一日釣って軽油を5リッターしか使わない。500円である。これはちょっと信じがたいというか、エコというなら、これほどのエコもあるまいと思う。
そんなこんなで小学生の娘二人とオクサン一人を乗せて、門川で釣り。キスは釣れすぎる気配があったので、自分ではなるべく釣れないようにキス鈎の13号を1本だけセット。岩ゴカイが当日のアタリ餌だったので、自分はオキアミ。目論見があたって子供が5尾釣る間に、1尾しか釣れない。
途中、トイレのために乙島という無人島に上陸。桟橋も何もないのだが、急深のゴロタ浜がフネを寄せるにはちょうどいい塩梅になっており、浜に向かってアンカーを投げて家族を降ろす。すぐ脇に泊めてあった船の爺さまが、よろよろと寄ってきて、カラス貝を採っていたという。これからゴカイを掘ってキス釣りでもやるのだという。いい生活をしているなあ。
釣り終えて、運転席前の指定席で、エンジンルームの壁にもたれてバウ風に吹かれていたら、今、この瞬間に、小さな夢がひとつかなっていることを知る。サンキャットでなくてもよい。サンキャットでなかった方が良かったのかもしれない。あのフネなら、今日のこの日はなかったのだから。
エンジンルームの壁にもたれて、バウ風に吹かれて。
フネを降りたら、子供たちとアイスでも食べようと考えていた。
コメント
釣りなら和船だと思います。ただJUNさんの場合、免許を持っていないという有利な条件があるからなあ(^^;)。
普通は(^^;)免許を持っているので、操船するわけです。僕は誰にも邪魔されず個を楽しむみたいな目的もあったので、一人で出ることが多かったです。すると操船しながら竿を出すわけです。アンカー入れれば別ですが、クラッチを操作しながら竿を出すということになるのです。プレジャーボートではギアをバックに入れて流すのが一番手軽に風に立てる方法なんです。
するとサンキャットのような、キャビンの中に運転席がある船は除外されるんです。釣りづらいです。
でもなぁ。免許持ってないからなぁ(^^;)。船を選ばないもんなぁ(^^;)。
あ、日曜地元の解禁でした。2時間で20尾という、ヒジョーに解禁日らしい解禁日でした。途中で大雨になり濁って終わりました。
Posted by しん at 2009年6月23日 06:01
しんさん
そうか。一人になりたくて船に…、という手もあるのですね。ぼくは何人かでわーわーやってるのが好きなんだなあと、今、気づきました。船長をやってくれる流星号さんも、あららさんも、どちらかというと物静かな人なので、ぼくが一人だけわーわーいってるのだろうと思いますが。
さすがに今のままでいるわけにはいかないので、近く免許はとろうと思っています。出し入れがちょっとむずかしい場所なので(船着き場の左右の船の隙間がなくて)、いずれにしても一人では無理みたいですけど。
鮎の解禁、素晴らしい釣りでしたね。いいなあ。
Posted by JUN at 2009年6月23日 09:03
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