2009年8月 6日

映画>ロード・オブ・ザ・リングス

『ロード・オブ・ザ・リングス』(旅の仲間・二つの塔・王の帰還)。

この1週間くらいの間に、『ロード・オブ・ザ・リングス』全3部をまとめて観た。通して観たのは二回目で、2部だけは映画館でも観ている。

主人公のフロド・バギンズは、本来、素朴で平凡なホビットなのだが(賢くて行動力があるとはいえ、あくまでホビットの中ではという話であり)、なんだか仲代達也みたいな深刻な顔をして、しじゅう白目をむいているし、どうもつらそうな目にばかり遭うし、ゴクリはゴラムとなって、えげつなくおどろおどろしいし、オークやウルク=ハイにいたっては、もうなんちゅう造形をするのやというほど、きちゃないので、最初に観た時は違和感の方が強かった。

違和感というのは、原作の『指輪物語』と比較してなのだが、あれだけ壮大なテーマを、寸分の隙もなく組み立てながら、なおかつユーモアをたたえ、全体としてほのぼの感すら漂わせるトールキンは、やはり怪物なのであって、あるいは創造主そのものであって、その神のごとき創造主がこしらえた、長く映画化不可能といわれてきた、この作品を、とにもかくにも映像にしてしまった力というのも、評価せねばならんわけである。

いや、むしろ。これこそが現代の映画の夢なのではないかとすら思う。あるいは、これこそが映画だ。という人がいたってかまわない。原作の本質的なエッセンスは、残念ながら映像では及ばないところもあったけれど、あの壮大で緻密な作品世界のたとえ数分の一にせよ、映像にしてしまったというのは、ひとつの奇跡のように思える。

また、映像だからこそ、原作を超えて創造できたシーンも多々あった。ひとつは、アイゼンガルドのサルマンの基地に殴り込みをかけるエントの群れ。彼らが巨樹の千万力でもって、ダムを決壊させ、すべてを流し尽くしてしまうシーンは圧巻だった。また、ミナス・ティリスの決戦シーンも、かつて観たことのないような迫力を出していた。

劇中、アラゴルンらがエルフ語をしゃべるシーンがあるが、あのエルフ語(これも共通エルダール語を祖として、シンダール語、クウェンヤなど数種ある)からして、言語学者でもあるトールキンが一人でこしらえた言語であり、これを表わす文字も、知られているだけで二種類ある。そして、その単語や文法は、実際に本を書けるほど豊かで奥深いものとされる。また、音響的にも歌のように美しい。

作中に出てくる人物がしゃべる言語を作った作家など、想像したこともなかったのだが、『指輪物語』は万事がこのデンで、あらゆる点に物語世界を下支えする基礎が、地中深く打ち込まれていて、大地のように揺るぎない。その上を、あの愛すべきホビットたちが、人並み外れた勇気と好奇心と食欲でもって動き回るわけだ。

これだけ用意周到に完成された作品世界がありながら、なおかつ映画化不可能といわれたのは、単に合戦シーンや空飛ぶナズグルをどうするか、などという特撮技術の話ではなくて、もっと本質的な物語の再現性についてのことだったと思う。

そこにあえて挑戦して、誰もが楽しめる映画にした。それだけでも、大変なことだとは思う。フロドの白目シーンの多さだけは、ちょっとあれだったけどね。享楽的で気のいいやつが、重荷を背負うから偉いわけで、仲代達也が背負ったって似合いすぎてどうにもならないわけで。

あと、レゴラスとギムリの描写は原作以上だったし、エルフの頭目・エルロンドや、ローハンのセオデン王も良かった。エルフの森のガラドリエル様は、微妙...ちゅうか。

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コメント

昔、ランキンバスプロダクションのアニメ「ホビットの冒険」「指輪物語」を手伝った事のあるものとしては、大変面白く実写板の三部作を見ました。
もちろん最初に指輪物語にであったのは評論社からでていた文庫本「指輪物語」三部作でしたが、かなり忠実に再現していたのには、やはり最近の特撮技術もさることながら監督その他のスタッフの努力だと思いました。

ホビットたちが休憩中吸っている「パイプ草」、クレイパイプで美味しそうだったなあ。 (^^)

あるぽさん

冒頭、ビルボの誕生パーティの挨拶で、おのおのの家の名を呼ぶところがありますね。あそこで「角笛(ホーンブロワー)家!!」 と叫ぶわけですが、いくらなんでもホーンブロワーなんて、へんてこな名前がそうそうあるわけはない。

調べてみると、ホーンブロワー・シリーズの第一作『パナマの死闘』は1937年に出ていて、『指輪物語』の執筆開始が、やはり1937年。これは、トールキンのフォレスターに対する、ちょっとした茶目っ気だったのだろうなあと思っています。

パイプといえば、例のJan Zeman のGandorrは、うちではラタキア専用となって活躍しております。

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