2009年9月29日

妄伝・パイプの始め方(2)

渋々と着香系をおすすめする理由

さて、パイプは決まったので、葉のことを考えなくてはならない。実際のところ、まったく初めての人に勧める葉を考えるというのは、犬にアキレス腱固めをかけるよりむずかしい。これに比べれば、おすすめパイプの選定などは、ABCマートでジョギングシューズを買うようなものなのだ。つまり、それほど選択肢は多くない。

とりあえず、世間(日本の)で初心者向けとされている葉がいくつかある。知り限り、そのすべては着香系と呼ばれるもので、バニラやナッツ、柑橘などのフルーツ、蜂蜜といったもので香りがつけてある。初心者向けとは、つまりとっつきやすさと同義であると思われるのだが、ここにひとつラタキアという巨大な壁の存在を思わざるを得ないわけである。

シリア・アラブ共和国の港町の名から由来するラタキアは、たばこ葉をイブしたもので、燻製のような匂いがする。ニホンではこれに拒否反応を示す人が多いのだが、世界のパイプ葉の銘柄の半分かそれ以上は、ラタキアを使ったものであるので、ワタシはあなたをラタキア嫌いにはしたくない。それは、世界の半分を失うことであるからだ。

パイプたばこには、着香系と非着香系があり、非着香系にもラタキア入りとラタキアなしのものがある。パイプたばこの歴史と伝統からいえば、非着香の方が古いに決まっているわけで、こちらを王道と呼んでもいささかの差し支えもなかろうと思う。まあ、パイプに王道も覇道も邪道もありはしないという前提の上で、ではある。ちなみに、香料の使用を法律で制限されているイギリス産のたばこ葉は、おそらくすべてが非着香である。それもダンヒルに代表されるラタキア入りだ。

で、なぜ相当な割合のパイプ喫みが、ラタキアを忌避するのかというと、その香りにある。試しに、「ラタキア 匂い」とか「ラタキア 臭い」とか検索してみるとわかるのだが、ぎょえー、とか、ぎゃーとかいう悲鳴とともに、正露丸のようなニオイと書いてあると思う。

あれは、焚き火の匂いなんである。荒野を旅してきた男が、夕暮れにふとわれを取り戻す小さな焚き火の、その時には気づかなかったけれど、翌日になって服にしみこんでいる匂いといったような、荒野の男の残り香なのである。

いってみれば、アラゴルンがまだ馳夫と呼ばれる北方の野伏の一人だった頃に、フロドたちの前に初めて現れたあの木馬亭の夜、彼の服から漂っていた香りは、こんなものであっただろう。それを正露丸のようなひどい匂い、などととらえる人がけっこういるのは、慚愧に堪えないのだが、それが事実であることは仕方がない。

シガレットでは味わえない、パイプたばこの魅力。それは、独特の陶酔感にあるのだが、うまいラタキアを、うまく喫えた時の陶酔感というものは、ちょっと説明のしようがない。だから、ぜひこの世界をテンから拒否するようにはなってほしくないのだが、好みといってしまえばそれまでのことではある。

そこで、ひとつ初心者の御法度をお伝えしておこうと思う。パイプたばこを買って、ポーチなり缶なりを開けた時に、鼻を近づけてくんくんと匂いをかいではいけない。しばらくの間、これは守ってほしい。パイプは、葉を燃やした煙の味や香りを楽しむもので、それは生葉の状態とはまったく異なるものなのだ。

ラタキア好きが正露丸が好きなら、わざわざ面倒なことをしなくても、正露丸をかじっていればすむ話である。正露丸に、よだれが湧き出るような甘みも、夢へ誘ってくれるような陶酔感もありはしないことは、誰でもおわかりと思う。だから、あれは正露丸とは縁もゆかりもないものなのだ。

まったく匂いをかぐなというのも酷なので、葉をパイプに詰める距離で、まあ、大体30センチくらいは鼻から離れていると思うが、その距離で、さりげなく、匂いをかぐともなくかぐ、というくらいにしておくのがいい。

ラタキアに限らず着香系の葉の匂いも、それはそれで強烈なものである。一瞬、とてもいい匂いに感じるのだが、過ぎると気分が悪くなることがある。テイク・イッツ・イージーを、ワタシは気に入って喫っていたのだが、ある時、缶の蓋が開いてバッグの中に大量にこぼれ、その掃除をしているうちに、匂いに酔ってしまって、それから数年、どうしても喫うことができなくなったことがあった。

重ねて書くが、生葉の匂いと、煙の匂いはまったく異なる。そして、パイプはどこまでも煙になった状態を楽しむものなのだ。だから、ある程度経験を積むまでは、生葉の匂いをまともにかぐようなことはしない方がいい。いずれ訪れるラタキアの悦楽のためにも、その方がよかろうと思う。

で、おわかりのように、この時点で「最初のパイプ葉」として、ラタキアをおすすめするのをワタシはあきらめてしまっている。どうしても着香系という話にならざるを得ないのは、匂いがどうのというよりも、非着香系の甘みを味わうには(煙自体が甘いのである)、少しだけクールスモーキングの技術がいるからだ。少しだけ、である。

だから、喫いやすいとされている初心者向けの着香銘柄から始めて、やがて幅を広げていく。というスタンダードな形に落ち着いてしまうことになる。

では、どんな銘柄がおすすめか。今回、このエントリーを書くにあたって、ワタシは4つの人気着香銘柄を試してみた。また、記憶の中から3つほど、思い返してもみた。

それは、アンフォーラ・フルアロマ、ブルーノート、ダニッシュ・ブラックバニラ、スプリングウォーター、ケンタッキーバード、インディアンサマー、ボルクムリーフ各種、といったものなのだが、どうもインディアンサマーは、すでに国内では販売していないらしい。そういえば、ケンタッキーバードも廃盤か。

ひとつ選べというと、むずかしい。この中からなら、どれでもいいと思うのだが、ブルーノートは少しだけ技術がいるかもしれない。焦って喫うと、後半になって辛くなる傾向があるかもしれない。これも大ぶりのパイプで、ゆったりと時間をかけて喫うとうまいたばこだ。

ちなみに、アンフォーラ・フルアロマは、国内売上NO.1であるという。人気NO.1にして、初心者おすすめ銘柄にも常にリストアップされるので、どんなものだったかなと、昨夜、あらためて喫ってみた。

フルアロマというわりには、煙自体に強いアロマは感じない。煙がまろやかで、火付き、火持ちとも優秀で、喫いやすさは特筆ものかもしれない。また、後半になって味が鋭くなるということもない。しかも、たばこ感もしっかりある。これは、初心者向けというよりも、初心者にも喫いやすい本格派といえるのかもしれない。

まあ、長いものに巻かれてみるのも悪くはない。とりあえず、アンフォーラ・フルアロマをひとつ買って、ほかにデザインで良さそうなのをひとつかふたつ選んで、パイプに詰めてみるところから始めてみるというのは、いかがでしょうね。と、長々と書いたわりには、ごく普通の結論になってしまった。

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コメント

mixiにのめり込んだ理由の一つは、パイプ関連のコミュニティが結構あったことです。僕の記憶ですと、確か@niftyにはパイプやシガー、喫煙具に関するフォーラムっ無かったんじゃないかな?と。

着香系を語る上で、大事な要素として、ブラックキャベンディッシュメインか、バーレーかって点も見逃せないですね。

未だにアンフォーラフルアロマは日本で売れているパイプ葉のベストセラーなんだそうですが、僕ははっきり言って、20年ほど前に一度パイプを挫折したのは、アンフォーラが原因とも言えます。非常に質分含有量が高く、慣れないとすぐジュース一杯になってしまうんですね。今だったら、適度に乾かして吸う、なんてことを普通にするようになりましたけど、湿り気を自分で様々なもの(主にはお酒、ラム酒とかウイスキーなど。あとは精製水)でコントロールしたりして、ようやく舌焼けしなくなりました。

パイプ関連のコミュで、まずはオフ会に参加することで、色んな種類の葉っぱを持ち寄ってそれぞれに試喫できるというのはメリットが大きかったですね。それと、ラタキア入りも、とにかく種類が多くて、僕の場合、最初のラタキアは飛鳥だったんですが、当然一発で挫折。でも、今だったら965だけは常に持ってます。まあ、ラタキアとしてはインパクトはイマイチですけど、僕には丁度良いかな?と。

実は、去年の入院時には随分プカプカとやっていたのですが、今、パイプはちょっと休んでます。僕は個人的には、日本の盛夏にはパイプは合わないと思ってるのと、なにより、糞暑いところで、どうもパイプに手が伸びません。金廻りの良い時でしたら、かつて夏場は安いニカラグア産のシガーがメインでしたけど、今年はシガーを買う金がないので、紙巻きで済ましています。

ぼちぼち涼しくなってきたので、パイプは復活仕様と思ってます。

京都の祇園にfellow & feloowという、パイプと、モルトが楽しめるバーがありまして、スモーキーなモルトにラタキア、ツマミはマスターお手製のスモークベーコンという「スモーキーセット」なるものがあります。鼻に臭くでも口に美味いものは色々ありますよね。そう言う意味では、まあ、ちょっと違うかもしれないけど、クサヤも臭くて美味いと(^^;)。

mixi会員の方でしたら、これからパイプを始めようというのであれば、関東・関西それぞれにオフ会コミュもあって、また、相互の交流も盛んです。百聞は一見に如かずで、思い切って行っちゃって、そこで習うのが良いと思います。

手持ちの中古パイプを相互に譲り合ったり、あるいはオークションなどして、落としたり。ブレークインなど必要なく、よく育ったパイプを最初から口に出来る機会にも恵まれたりしますので、まさに美味しいパイプを吸う、最短距離だと言えますね。

ぼくも夏はだめですね。パイプどころか、普通に息をするのもやっとの有様です。空気が乾いて、風が涼しくなって、ギターの音が良くなってきた頃、ようやく人間らしい気持ちを取り戻して、パイプに向かう感じですね。

ここんところ、ラタキアはビュテラのNO.2とフロッグモートンを喫っていて、どちらも上等で結構なものなのですが(特にフロッグモートンは、ハイエンドオーディオみたいな味わい^^;)、今夜、あらためて965をやってみたら、やっぱりこれは凄い葉です。最後のひとかけらまで、味が破綻しない。嫌みなところが、とうとう出てこないで、はんなりとおいしいですね。

アンフォーラは、ほうと思いはしたものの、レギュラーにはなかなか入ってこないのではないかな。特に目立った特徴があるわけではないのですが、着香系のレギュラーはブラックバニラとブルーノートに落ち着いています。そんなに好きというわけではないんだけどなあ。

965は、世界遺産に登録されるべきだと思いますね^^。

着香系で、ひとつお勧めのものがあります。オルスボブラックです。パウチ物ですが、とにかく、コストパフォーマンスは抜群だと思います。

あと、市場流通在庫があるかどうかですが、パイプスモーカーズという四角い缶入りの、これもおそらくブラキャベ系メインなのだと思いますが、レーズン系の香りがする葉っぱです。

パイプコミュのメンバーは、気に入った葉っぱがあると、まとめ買いしますね。しかも、個人輸入でバルク買い、なんてことする人が一杯いるもんで、オフ会に行くと、パウチ1パック分ぐらい、平気で分けてくれたりします(^^;)。

僕はせいぜい、国内売りのパウチもしくは缶入りのまとめ買い程度ですが、すでに廃版になった、ラールセンのフレークカットはまだ未開封缶が8個あります。上記
パイプスモーカーズも限定販売だと聞いていたので、10缶まとめ買しました。

そろそろ気候もよくなってきましたので、プカプカとやりたいなあと思いますね。

オルスボブラック、評判いいようですね。パイプスモーカーズも、探して買ってみます。

昨夜、ドイツのサイトでケンタッキーバードとインディアンサマー(ともに国内廃盤、アメリカにもなさそう)が置いてあるのを見つけて、買おうかなあと思ったのですが、何しろユーロ建てですから、けっこう高い^^;。

パイプたばこも栄枯盛衰が激しくて、定番と思ってたのがすぐに廃盤になったりするので、こういう時はあわてますね。フレークカットも、しっかりファンがついているはずなのになくなったし、ダンヒルのナイトキャップにいたっては不可解としか言いようがないというか。

来週末、JUNさんご上京時のオフ会に行ければ、パイプスモーカーズ1缶お持ち出来たんですが、オイラ次の週末・連休は糸魚川で工事なもんで・・・残念。去年の入院中、病床からネット通販で随分一杯葉っぱ買って、見舞いに来てくれる人も、口からモノ食えなくて煙は大丈夫なのを知っていて、タバコ吸わない人までもがパイプ葉をお土産にもってきてくれたもんで、退院する時にはパイプ葉のパウチや缶だけで段ボール1箱が満杯になりました(^^;)。

退院しちゃうと、自宅アパートではパイプをゆっくり吸う空間がないこともあって、一気に喫煙量が減って仕舞って、その数々の葉っぱがまだほとんど去年の退院時のままで残ってます。

mixiにパイプスモーカーズクラブというコミュがあって、そこにテイスティングノートのトピがあります。

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19020012&comment_count=155&comm_id=2199464

もちろん、個々の主観で書かれたものですけど、それなりにためになりますよ!

来週末、JUNさんご上京時のオフ会に行ければ、パイプスモーカーズ1缶お持ち出来たんですが、オイラ次の週末・連休は糸魚川で工事なもんで・・・残念。去年の入院中、病床からネット通販で随分一杯葉っぱ買って、見舞いに来てくれる人も、口からモノ食えなくて煙は大丈夫なのを知っていて、タバコ吸わない人までもがパイプ葉をお土産にもってきてくれたもんで、退院する時にはパイプ葉のパウチや缶だけで段ボール1箱が満杯になりました(^^;)。

退院しちゃうと、自宅アパートではパイプをゆっくり吸う空間がないこともあって、一気に喫煙量が減って仕舞って、その数々の葉っぱがまだほとんど去年の退院時のままで残ってます。

mixiにパイプスモーカーズクラブというコミュがあって、そこにテイスティングノートのトピがあります。

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19020012&comment_count=155&comm_id=2199464

もちろん、個々の主観で書かれたものですけど、それなりにためになりますよ!

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